大学院でジャーナリズムを学ぶ23歳の大学生が2018年のピューリッツァー賞を受賞
現地時間の2018年4月16日、報道に関するアメリカで最も権威ある賞とされるピューリッツァー賞の受賞者が、賞を運営するコロンビア大学ジャーナリズム大学院において発表されました。その部門の一つ「ローカル報道」部門を受賞したのは、なんと同校でジャーナリズムを学ぶ23歳のマリエル・パディラさんで、自身の受賞を全く予想していなかったという発表の瞬間は会場のわずか2フロア上の教室で講義を受けていたそうです。
Meet the journalism student who found out she won a Pulitzer in class - Columbia Journalism Review
https://www.cjr.org/the_profile/mariel-padilla-pulizter-cincinnnati.php
ピューリッツァー賞受賞者の発表は、コロンビア大学ジャーナリズム大学院の「World Room」と呼ばれる部屋で行われます。多くの報道陣が詰めかけて受賞者の発表を待っていたその時、パディラさんはすぐ上の教室でクラスメートと共に教授の講義を受けていました。オハイオ州からコロンビア大学のあるニューヨークに引っ越してきたパディラさんは、自身がジャーナリズムを学ぶということもあって、自分が在籍する学校でピューリッツァー賞が発表されることに非常に興奮していたとのこと。その瞬間を振り返るパディラさんは、まさか自分がピューリッツァー賞を受賞するとは思っておらず、知人に「すごいわよ!私はピューリッツァー賞の発表会場と同じ建物の中にいるのよ!」と言いふらしていたほどだったそうです。
そんなパディラさんだったので、自身がピューリッツァー賞の候補者に挙がっていたことすら知っていなかったとのこと。すると、ノートPCで講義の内容をメモしていたパディラさんの画面に、「ピューリッツァー賞とったの?Enquirerのオピオイドの記事が受賞したのよ」という友人からのメッセージが届きました。
メッセージに書かれていた「Enquirer」とは、パディラさんがコロンビア大学にやってくる前にインターンとして働いていた新聞メディア「The Cincinnati Enquirer」のこと。オハイオ州のマイアミ大学在籍中には、取材を行って薬物犯罪とその子どもたちへの影響に関する記事を掲載していたそうです。
当時のパディラさんはEnquirerが力を入れていたヘロインに関する犯罪の取材チームに所属しており、地域の刑務所に毎朝足を運んで医療用麻薬「オピオイド」に関連して逮捕された受刑者の書類を調査するタスクを割り当てられていたとのこと。やがてパディラさんは自ら、その資料をEnquirerの記者が活用できるようにデータベース化し、時刻や場所、そして罪状の内容を検索できる仕組みを作り上げたそうです。
Enquirerの記者はまさに24時間働きづめという状況でしたが、取材でカバーできる内容には限界があったとのこと。そんな時に記者の役に立ったのが、パディラさんのデータベースだといいます。そのような総力取材を経てThe Cincinnati Enquirerは、2017年9月に「Heroin in Cincinnati: This is what an epidemic looks like」(シンシナティにおけるヘロイン:まん延の現状)という記事を掲載。これが全米に議論を巻き起こすきっかけとなったそうです。
Heroin in Cincinnati: This is what an epidemic looks like - Cincinnati.com
https://www.cincinnati.com/pages/interactives/seven-days-of-heroin-epidemic-cincinnati/
インターンを追えたパディラさんはオハイオ州から800kmも離れたニューヨークに移り住み、新しい環境で暮らすうちにEnquirerの記事のことは頭から離れてしまっていたとのこと。記事がピューリッツァー賞の候補に挙がっていたことにも気づいていなかったそうで、Enquirerが受賞したことを聞かされた時も、自分に関係があるとは全く思わなかったそうです。冒頭のメッセージを送ってくれた友人からはさらに「あんたがピューリッツァーをとったのよ。いくつだっけ?23?」とからかうようなメッセージが送られてきました。
しかし決め手となったのは、Enquirerで一緒に働いていた記者のボブ・ストリックリーさんから届いた「おめでとう。君がピューリッツァー賞受賞者だ!」というメッセージ。これでようやく自分が受賞したことを確信したそうです。
その時の様子を「衝撃的でした。私の目は大きく見開いていて、たぶん口も開いていたと思います。でも、教室では教授が講義をしていたので、物音は立てられなかったんです」と振り返るパディラさん。しかし、携帯電話禁止の教室でも、学生が持っているノートPCの画面にクラスメートがピューリッツァー賞を受賞したという知らせが徐々に舞い込みます。その後、授業の休憩時間になってやっとクラスメートが立ちあがってパディラさんの受賞を広めたそうです。
しかし、講義を担当していたセグニーニ教授が受賞を知ったのは、講義が終わってからだったとのことで、「講義はいつもどおりで、何かが起こっているなんて全く気がつきませんでした。どうして誰も大きな声を出さなかったんでしょう?もし私が自分のことだったら、大騒ぎして授業を台無しにすると思いますけどね!それぐらい大きなことです!」と、受講生のピューリッツァー受賞にコメントしています。
ジャーナリズムを学んでいる学生がピューリッツァー賞を受賞してしまうというのは、学校の軽音楽部に所属しているバンドがグラミー賞を受賞するぐらいビッグな出来事です。パディラさんのクラスメートは「もう学校やめてもいいんじゃない?(笑)」と冗談を飛ばしているそうですが、当のパディラさんはそのつもりはまったくないとのこと。Enquirerの一員として受賞することができたことについて「見た目上、私はピューリッツァー賞の受賞者ですが、Enquirerが私を記事執筆者の一人に加えてくれていたことにとても恐縮しています。私はもっと多くの事を学ばないといけないと思っていますし、だからこそ受賞の知らせを聞いた時には衝撃を受けたんだと思います。いまでも信じられません」と語っています。
とはいえ、この受賞はパディラさんの綿密な仕事っぷりが評価されたためであることも確かで、セグニーニ氏は「彼女には、あまり多くの人に備わっていないジャーナリズムとテクノロジーを融合させる能力があると思います。彼女は、データから物語を見いだす方法を知っており、正しい質問を行うこともできます。これは非常に重要なことです」と、パディラさんの資質について述べています。
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