サイエンス

遺伝子編集技術「CRISPR」でガンを治療する研究が中国では進んでいる

by Hein Boekhout

遺伝子編集技術「CRISPR」の登場で、それまでは多額のコストがかかっていた遺伝子組み換え技術が低コスト・短時間で行えるようになりました。遺伝子組み換え技術におけるCRISPRの登場は画期的な出来事ですが、一方で倫理的な問題から人に対するCRISPRの使用は多くの国で制限されています。しかし、中国では既にCRISPRをガン治療に生かした研究が複数進んでいます。

CRISPR In China: Cancer Treatment With Gene Editing Underway : Shots - Health News : NPR
https://www.npr.org/sections/health-shots/2018/02/21/585336506/doctors-in-china-lead-race-to-treat-cancer-by-editing-genes

中国では当局による規制が行われていないどころか、むしろ政府が推進する方向にあり、2015年以降、86名に対してゲノム編集が施されたといわれています。ガン治療にCRISPRを使用するという研究もその1つで、中国・杭州市のガン診療病院の院長であるShixiu Wu氏は、患者の体内から取り出したT細胞をCRISPRで遺伝子編集するという免疫療法について研究しています。研究は臨床試験の段階にあり、被験者の1人である53歳のShaorong Deng氏は「この治療だけがガンを治すことができる望みです」と語りました。


Wu氏の研究の他にもCRISPRを使ったガン治療の研究は中国で複数行われており、少なくとも、アメリカ政府のウェブサイトには肺ガン、子宮ガン、前立腺ガンの治療を目的とした8つの研究が登録されているとのこと。

Wu氏の研究は、患者の血液サンプルからT細胞を採取し、CRISPRを使ってT細胞を疲弊させるPD-1を阻害します。その後、遺伝子編集が加えられたT細胞が体内に戻されるとT細胞はガン細胞を攻撃するようになるとのこと。Deng氏は1度目のT細胞注入を受けた後、気分が良くなり始めたと語っています。Deng氏を始めとする21人の被験者は難治性の食道ガンですが、被験者のうち40%は治療の効果が見られているそうです。Wu氏によると患者が訴えた副作用の多くは発熱や発疹といった微小なもので、これまでに9人の患者が亡くなっていますが、いずれのケースも治療ではなくガンのために死亡したとのこと。被験者の1人は高熱のため治療を続けることができなくなったそうですが、その他は状態が安定したり、症状が部分的に軽減したといいます。

もちろん、研究は臨床段階であり、結論づけるには早期です。Wu氏は論文を執筆していますが、査読は行われておらず発表にも至っていません。


中国には「死にたる人は生けるネズミに及(し)かず」ということわざがあり、文化的な背景からもCRISPRが認められやすい様子。Wu氏の研究は実施前に弁護士・看護師・医師・ジャーナリスト・生命倫理学者などからなる委員会の審査を受けましたが、許可を得るまでにかかった時間はわずか2カ月でした。

一方で、シカゴ大学の生命倫理学者であるLainie Ross氏は「私たちはCRISPRについて十分に理解しておらず、利益よりも害の方が大きくなることも考えられます。これは驚くほどにパワフルなツールであり、私たちは慎重になる必要があります」と語っています。また、Wu氏と同じ手法はCRISPRを使わなくとも実現でき、あえてCRISPRを使うことに対して疑問を呈しています。ペンシルバニア大学に勤務しCRISPRを使ったがん研究に携わるCarl June氏は、Wu氏の研究内容について懸念していないそうですが、実際に中国で行われている研究の中には質が高いものもあれば、低いものも存在すると語っています。

June氏はCRISPRにまつわる状況を宇宙開発競争の火蓋を切ることとなったスプートニク計画に例えており、アメリカにおいても安全性を確保しつつ、研究に集中できる状況の確保を優先課題とすべきだとも述べました。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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