あなたが自尊心だと思っているのは本当はナルシシズムかもしれない
by Lauren Anderson
これまで心理学の研究やメディアにおいて「ナルシシズム」はしばしば「いきすぎた自尊心」というような扱いを受けてきました。しかし、近年研究が進むについて、ナルシシズムと自尊心との間には大きな溝があるらしいことがわかってきています。自尊心はナルシシズムとどう違うか、自尊心はどうやって高めればいいのかなどが心理学者のScott Barry Kaufman氏によって記されています。
Narcissism and Self-Esteem Are Very Different - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/beautiful-minds/narcissism-and-self-esteem-are-very-different/
◆ナルシシズムと自尊心の発端
ナルシシズムも自尊心も、7歳ごろから発達しだすものと言われています。7歳という年齢は、自分が他人にどう見られているかを認識し始め、自分と他人とを比較して「私は負け犬」「私には価値がある」「私は特別」などと自分自身を評価しだすころ。しかし、自尊心は子ども時代に最も低く成長と共に高まっていくのに対し、ナルシシズムは子ども時代に高く徐々に低くなっていきます。人間の成長に伴い、自尊心とナルシシズムは全く反対のグラフを描くのです。
そして自尊心もナルシシズムの子育てのスタイルに大きく影響されます。ナルシシズムのレベルが高い子どもの親は、「この子は数学に関してなら何でも知っているんです」というように、子どもの知識を人に過大申告したり、IQを過大評価したり、パフォーマンスを過度に称賛したりします。また、大勢の子どもの中にいても目立つようにユニークな名前をつける傾向にもあるとのこと。子どもはこれら親の行動を無意識に内面化するため、最終的には子どもの他人に対する態度を親が決めてしまうという結果を生み出すことに。
一方で、自尊心のレベルが高い子どもの親は、慈しみや感謝の気持ちを持って子どもに接します。親は子どもを重要なものとして扱うため、子どもたちは無意識のうちに「自分は大切なものなんだ」というメッセージを内面化し、健やかな自尊心を育てることが可能になります。
◆自尊心とナルシシズム、それぞれが高いとどんな人になるのか?
by Septian simon
自尊感情を測定する方法「自尊感情尺度(RSES)」では「おおむね私は自分自身に満足している」「私にはよい資質がたくさんある」「私は他人と同程度には能力がある」といった項目が評価され、「他人よりも優れている」ということではなく 自己重要感・ 自己重要感などを測定します。つまり、自尊心とは「他人よりも優れていること」ではなく、「自分自身に満足していること」を中心とした感情です。
一方で、ナルシシズムは一般的に、横柄さ・優越感・虚栄心・搾取的であること・自己顕示癖・ひっきりなしに称賛を求めること、といった特徴で表されます。ナルシシズムは自尊心と関連している部分があるものの、「他人より優れている」という感覚が中心となります。そのため「他人よりも優れているけれど、自分には価値がない」という自己認識や「他人よりも優れていないけれど、自分には満足している」という自己認識もありえます。
ナルシシズムと自尊心の類似点・相違点について調べられた2017年7月に発表された研究では、両者とも外向性・積極性・ポジティブな感情・報酬へのモチベーションなどについて関連性を持つという共通点があるものの、そのほか評価項目の63%については異なったあり方をしていることが判明しました。
この調査において、自尊心はナルシシズムに比べて誠実さや忍耐力との関連性が高く、一方でナルシシズムは「他人に敵意を向ける」といった悪い意味での「同調性」項目と関連性が示されました。自尊心と同調性の間にも関連性は認められたものの、関連性は小さく、かつポジティブなものであったとのこと。
そして対人関係機能においては、ナルシシズムと自尊心は測定項目の75%で異なる結果となり、ナルシシズムは「怒りを表現すること」や、「大声で怒鳴ること」「脅すこと」「物理的な攻撃性」といった敵対表現と関連性が見られました。また、人間関係における問題が多いこと、不相応にリソースを得ようとする傾向もあったといいます。これらの特徴と自尊心との関連性は認められませんでした。
by breathtakingly
この時、ナルシシズムのレベルが高い人は自分を社会的なネットワークの中心だと見なし、他人を自己陶酔的・神経質・不愉快・脱抑制的なものとして見ているため、自尊心が高い人に比べ競争や論争に巻き込まれやすい傾向にあります。しかし自尊心が高い人は社会的ネットワークにおいて他人との親密性を感じやすく、ネットワークにおいて他人を魅力的・リーダーシップが高い・地位が高い・知的・感じがいい・親切といった観点で見ているとのこと。
そして、ナルシシズムはアルコール依存や反社会的な行動・攻撃性などの病理学項目との関連性も多く認められています。特に演技性パーソナリティ障害との結びつきが強いとのこと。自尊心が「他人と親密で深い関係を結びたい」という望みと関連しているのに対し、ナルシシズムは「他人を支配したい」「他人よりも優れた結果を得たい」というところに立っているわけです。
◆自尊心は際限なく高めればいいのか?
しかし、「自尊心を高めることで生活における全ての問題を解決できる」という見方はいきすぎ。社会心理学者のロイ・バウマイスター氏らのチームが過去に発表された自尊心に関する研究を再評価したところ、自尊心のもたらす影響は正しく一般に普及していないことが判明しました。
自尊心は幸福感やイニシアチブと強い関係を持ちますが、相関関係は因果関係とは異なり、また自尊心を高めることで実際に利益が生まれるという証拠は調査から見つかっていません。そして、子どもの自尊心を育てることでナルシシストにしてしまうという可能性は少なく、他人との比較をせず子どもに「自分には価値がある」「敬意を払われている」と感じさせることによって、子どもは幸福感を感じたり「自分は他人よりも優れている」という見方を行わなくなるそうです。つまり、自尊心が全ての解決策となるわけではありませんが、「自尊心を育てようとして子どもをナルシシストにしてしまうのでは」と心配しすぎる必要もないわけです。
by Wayne Dery
自尊心はビタミンのようなもので、健康な精神・肉体状態のためには必須ですが、基準値を満たした後に摂取し続けることでメリットを無限大に得られるものではありません。人が成長や学習を続けるには、自分の価値を認識した後さらに自分の価値に注視するのではなく、課題への挑戦、価値ある活動、人間関係の促進などを行っていく必要があるとのことです。
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