サイエンス

2017年のノーベル生理学・医学賞は体内時計を生み出す遺伝子機構を発見したアメリカ人科学者が受賞

By National Human Genome Research Institute (NHGRI)

日本人科学者による3年連続受賞も期待されていたノーベル生理学・医学賞が発表され、生きものに備わっている体内時計を生み出す遺伝子とたんぱく質による機構を発見した3人のアメリカ人科学者へと贈られることになりました。

The 2017 Nobel Prize in Physiology or Medicine - Press Release
https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2017/press.html

受賞が決定したのは、ブランダイス大学のジェフリー・ホール名誉教授、マイケル・ロスバッシュ教授、そしてロックフェラー大学のマイケル・ヤング教授の3氏です。受賞理由は「discoveries of molecular mechanisms controlling the circadian rhythm」(概日リズムを制御する分子メカニズムの発見)というもので、3氏はキイロショウジョウバエの遺伝子を調べ、そこに体内時計を調節できる仕組みが存在していることを発見してその後の研究に大きな礎を残しました。

生物に備わる体内時計の研究は古くから行われており、18世紀にはフランスの天文学者、ジャン゠ジャック・ドルトゥス・ドゥ・メランがマメ科の植物を使った観察を行っています。この植物は夜になると葉を閉じる運動を行うことが知られているのですが、ドゥ・メランはこの植物を一日中暗い場所に置いておいても同様に葉を閉じる動きを行うことを発見。つまり、この植物は日光の影響を受けるのではなく、自らの中にある時計をもとに運動するタイミングを決めていることが浮き彫りになりました。


このようにして実際の事象は確認されましたが、その仕組みは長いあいだ謎のままでした。1930年頃にはドイツの生化学者ビュニングが植物に加えてショウジョウバエの羽化の内因リズムなどをも研究し、体内の生化学反応が基礎となって日周リズムを定めるという仮説を発表していましたが、この研究に突破口を開いたのが、カリフォルニア工科大学のシーモア・ベンザー教授とと遺伝学者のロナルド・コノプカの2人でした。概日リズムが遺伝子によって制御されているとする仮説を立てた2人は、ショウジョウバエに遺伝子の突然変異が起きやすくする物質を与え、その子孫の変化を観察しました。すると、2000匹の子孫の中に他の個体とは明らかに異なる睡眠パターンを持つ個体が存在することを発見。その遺伝子を調べたところ、X染色体の中に概日リズムに作用する遺伝子が含まれていることを発見しました。

その内容をさらに追求して、具体的な仕組みを解明したホール、ロスバッシュ、ヤングの3名に2017年のノーベル生理学・医学賞が贈られました。1984年、ホール氏とロスバッシュ氏の研究チーム、そしてヤング氏の研究チームがそれぞれ見つけた遺伝子はperiod(期間)から「PER遺伝子」と名付けられました。さらにヤング氏の研究チームは1995年に概日リズムを生みだしているもう一つの遺伝子を見つけ、timeless(時間に関係ない)から「TIM遺伝子」と名付けました。

3氏の研究では、これらの遺伝子がどのようにして24時間の概日リズムを生み出しているのかが明らかにされています。ショウジョウバエでは、PER遺伝子が作るPERタンパク質とTIM遺伝子が作るTIMタンパク質が細胞内で複合体を作り、遺伝子の働きを制御する転写因子となります。この複合体がPER遺伝子とTIM遺伝子に転写フィードバックループを生みだし、24時間の概日リズムが生みだすことが明らかになっています。


日経サイエンスの記事では、その仕組みの一端が解説されています。

2017年ノーベル生理学・医学賞:体内時計を生み出す遺伝子機構の発見で米の3氏に | 日経サイエンス
http://www.nikkei-science.com/?p=54610


具体的なサイクルを上の図に示しました(画像はM. W. ヤング「生物時計を動かす遺伝子」日経サイエンス2000年6月号より)。

1.朝になってショウジョウバエに光が当たると,細胞内にあるPERとTIMの複合体が分解を始める
2.昼までに複合体はすべて消える。一方,CYCLEとCLOCKという別のタンパク質の複合体がper遺伝子とtim遺伝子を活性化し,それぞれのタンパク質を活発に作り出す
3.夕方になると,生成したPERとTIMが互いに結合し複合体になる
4.夜の間にPERとTIMの複合体が核に移動し,CYCLEとCLOCKを不活化して,per遺伝子とtim遺伝子を抑える。再び1に戻る


3氏による研究の成果は、人間を含めた生物の体内時計の仕組みを遺伝子レベルで解明することに大きく役立つことになり、そのことが評価されたことで今年度の受賞となりました。授賞式は2017年12月10日にスウェーデンのストックホルムで行われ、賞金900万スウェーデンクローナ(約1億2500万円)が3氏に贈られます。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
体内時計の「リセットスイッチ」を京都大学が発見、時差ぼけや生活習慣病の改善へも - GIGAZINE

「夜型人間」か「朝型人間」かを決める体内時計は生まれる前から既にセットされている - GIGAZINE

iPadは不眠の原因?寝る前のパソコン使用に医師が警告 - GIGAZINE

なぜ朝なかなか起きられないのか&遅くまで寝ているのかという理由・原因を科学的に説明 - GIGAZINE

動物が寝る理由は「記憶の一部を忘れて整理するため」という研究結果が発表される - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.