インタビュー

ジビエ肉の流通拡大を目指す「九州狩猟肉加工センター」を運営する高田健吾氏にインタビュー


イノシシやシカの10倍うまい幻のジビエ肉「ムジナ(アナグマ)」のすき焼き専門店「むじなや」が開店するきっかけとなった高田健吾氏は、「九州狩猟肉加工センター」を運営する株式会社椿説屋(ちんぜいや)の創始者でもあります。「ジビエ」人気の向上に一役買っている人物としてテレビなどのメディアにも出演している高田氏に、ジビエや狩猟業界のことについて語ってもらいました。

GIGAZINE(以下、G):
先ほどは九州狩猟肉加工センターを見せていただき、ありがとうございました。いろいろお聞きしていきますが、まずは九州狩猟肉加工センターを運営している椿説屋について教えてください。


株式会社椿説屋 高田健吾氏(以下、高田):
もともとは友人と2人でコンサルティング会社を東京でやっていたんですが、2011年に静岡のとある市の市長から「シカやイノシシが増えすぎているのでなんとかできないか」という依頼がありまして、その頃は狩猟関係の知識もなかったんですけど、「なんとかしてみます」と言っちゃったのが始まりですね。それから「狩猟肉を有効活用する」というビジネスモデルを考えていたんですが、2011年当時の静岡ではシカの年間捕獲量が100頭未満と少なくて、ジビエ肉として流通させるには規模が小さすぎたんです。

そんな矢先に、「大分は年間数万体レベルでシカ・イノシシを捕獲している」という話を聞き、とあるジビエ関連組織の設立式に出席したときも、大分県庁の方から「大分は鳥獣害対策やその利活用に困っている」と言われたため、「それじゃあウチがいきます」ということになりました。それで狩猟や有害捕獲したシカやイノシシを流通させる「椿説屋」を2012年に立ち上げることになって、コンサルティング会社を一緒に経営していた友人が社長を務めてくれています。


G:
九州狩猟肉加工センターはハンターから捕獲された個体を引き取って精肉にする「解体処理施設」ではなく、解体処理施設から仕入れたジビエ肉をソーセージやミートボールなどのジビエに特化した加工品製造を目的とした施設ですが、「ジビエ肉専門の加工施設」というのは全国でもここだけですか?

高田:
地元でとれたシカやイノシシを使ってソーセージなどの加工品を製造販売しているところはありますが、九州狩猟肉加工センターは建物だけで486.83平方メートルあり、この規模感でやっているのはここだけですね。最初はジビエ肉の加工を扱ってくれる施設も探していたんですが、管理された豚や牛を扱う加工施設では、天然で捕獲された動物を同じラインで扱うのは非常に難しいんです。「それなら専門の施設を作ってしまおう」となって九州狩猟肉加工センターができたわけですね。

G:
椿説屋ではジビエ肉を安全に提供するために「加工プロセスの均質化」に取り組んでいるとのことですが、具体的にどういう取り組みを行っているのでしょうか?

高田:
捕獲個体は牛や豚のように管理されているわけではないので、同じ山で捕獲したイノシシでも、強い個体の方がたくさん食べるので脂がのっていたりと、個体差が激しくなります。それをハンターが捕まえて解体処理施設に持ち込むんですが、仕留め方や血抜きの方法などもハンターさんそれぞれに自己流のやり方があり、結果として最終的なお肉の状態を均質化しづらい、という問題がありました。もともと大分県には解体処理施設が26カ所くらいあったんですが、解体処理施設によって捌き方が全然違うので、肉質を安定させるのが非常に難しいという問題があります。

「肉質が安定しない」というのは飲食店からすると扱いにくい食材になってしまうので、ある程度ジビエ肉の品質を均質化しないと、全国的に流通させるのは難しいと感じていました。この問題を解決するため、大分県にあるすべての解体処理施設で、「全国に流通させるためにはお肉の規格統一、徹底した衛生管理が重要だ」と説いてまわり、それをご理解いただける施設から仕入れを開始していきました。現在、大分県内でお付き合いのある解体処理施設は5カ所くらいですね。


G:
捕獲から解体までの過程を均一化することで肉質を安定させているとのことですが、「各地域ごとに狩猟メンバーのリーダーたちと相談し、そのチームのノウハウをきちんと手順化している」ともお聞きしました。

高田:
地域のハンターは解体処理施設を拠点として活動していることが多く、解体処理施設のオーナーさんが地域のハンターコミュニティのリーダーであることが多いんですね。各所の解体処理施設のオーナーさんに「この捌き方だと売れる肉にならない」ということを納得してもらえるまで丹念に説明することで、捌き方を改善してもらったところもあり、そのノウハウが地域の他のハンターにも共有され、解体処理プロセスの均一化につながっていきました。


G:
なじみのないジビエ肉を食べやすいソーセージやベーコンに加工して卸すというのは、狩猟コミュニティ全体にとって素晴らしい取り組みだと思います。九州狩猟肉加工センターを設立されたことで、大分県の捕獲個体の捕獲量などに影響はありましたか?

高田:
取引のある解体処理施設に限ってしかわかりませんが、ハンターからの持込み数は段違いに増えていると聞いています。椿説屋も解体処理施設から精肉を卸していたんですが、加工食品として販売することで、飲食店からの需要も上がっています。

G:
九州狩猟肉加工センターの加工食品は主に飲食店向けに販売されているとのことですが、今後個人向けにジビエ加工食品を販売する予定はありますか?

高田:
以前は、大手レシピサイト運営企業にお声がけいただき、個人消費者向けにもネット販売をしていましたが、今現在ではイオン・マックスバリュといったスーパーマーケットに並べていただけるまでになっています。

G:
全国的には農作物の鳥獣被害額が年間200億円もの金額にのぼっています。九州狩猟肉加工センター以外で何か狩猟・ジビエ関係のビジネス展開も考えていれば教えてください。

高田:
すでに大分県で炭火焼きジビエ「焼山」の立ち上げにもご協力しました。また、現在、宮崎県都農町・熊本県山都町・福岡県八女市・大分県大分市から鳥獣被害対策とその利活用に関して公共機関からご相談を受けています。必要と判断されれば、これらの地域にも解体処理施設を作りたいと考えています。

以下は新メニューとして試作したというシカ肉をジンギスカン風のタレにつけ込んだもの。特製のタレに一晩つけ込んで焼き上げたとのことで、脂身がなくパサパサになりがちなシカ肉が、ジューシーでうまみあふれる味わいになっていました。


G:
野生のシカやイノシシが過去に類を見ないほど増加しているのは、若いハンターが少なくなっていることが原因のひとつだと考えられます。高田さんはジビエ肉を流通させる事業を行っているわけですが、若いハンターを増加させるために考えているアイデアはありますか?

高田:
冗談半分で考えていて、安直なアイデアのためまだ実現していませんが、2012年くらいにムキムキの男性ハンターを集めた「アイドルハンターグループ」のプロデュースを考えていたことがあります。県や市からの委託を受けて行う「害獣捕獲」というのがあるんですが、どこかでイノシシが出たと通報を受けると、飛んでいって捕獲するカッコイイアイドルが誕生すれば、若い女性が狩猟業界に興味を持つきっかけになるんじゃないかなと。

あとは、女優の杏さんが狩猟免許を取られていますし、「水曜日のカンパネラ」のコムアイさんもステージでシカを捌くというパフォーマンスを行っています。ムキムキの男性ユニットだけじゃなく、「狩猟女子」をアイドル化するというのも、若い男性ハンターの増加を促すことができるんじゃないでしょうか(笑)

G:
とても面白いアイデアなので、可能であればぜひ実現してほしいところです。最後に「ハンターになりたい」という若い世代に向けて、何かメッセージがあればお願いします。

高田:
すごく現金な話になるんですけど(笑)、解体処理施設によって異なるんですが、仕留めた捕獲個体を持ち込むと、基本的には施設に個体を買取ってもらえるんです。解体処理施設のオーナーで自身も狩猟をしている人がいるんですが、その人が捕獲した個体の精肉を椿説屋で買い取っていたら、その買取金額合計が月に200万円近くになったことがありました。現状では専業のハンターという人を聞いたことはありませんが、やり方によっては十分な対価を得られる職種になりつつある、ということを知っていただければと思います。

G:
狩猟だけで生計を立てることも夢ではないのですね。本日はありがとうございました。

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in インタビュー,   生き物,   , Posted by darkhorse_log

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