レビュー

安くて簡単に使えるドローンを目指した「Pocket Drone」の結果が散々でした


2012年ごろからのドローン(マルチコプター)の隆盛には目を見張るものがあり、その勢いに乗って自分もドローンで商売をしたいと考える人が出てくるのは当然のこと。2014年にKickstarterに現れた「Pocket Drone」も、そんなスタートアップの中の1つが作ったドローンです。Kickstarterでは最終的に出資者(バッカー)に対して何も送れないままにダメになるプロジェクトが少なくない中、Pocket Droneはドローン完成にまで至ったプロジェクトでGIGAZINE編集部にも実物が届いたのですが、「完成すればOKというものではない」ということを改めて突きつけられる結果となりました。

The Pocket Drone - Your personal flying robot by AirDroids — Kickstarter
https://www.kickstarter.com/projects/airdroids/the-pocket-drone-your-personal-flying-robot/

折り畳みも可能な超小型のマルチコプター「The Pocket Drone」 - GIGAZINE
http://gigazine.net/news/20140110-pocket-drone/


Pocket Droneは「AirDroids」というスタートアップが手がけたドローンで、市販品には「機能が限定されている」、ドローン自作キットには「組み立てや調整が難しい」とそれぞれデメリットがあることから、双方を排除して「マルチコプター界のGoProを目指す」という目標を掲げて作られました。

プロジェクトは2014年1月8日に出資受付がスタート、締切の2014年3月9日までに1946人のバッカーから92万9212ドル(約1億1400万円)を集めました。目標は3万5000ドルだったので、実に目標の26倍の金額が集まったことになり、これにはAirDroidsのスタッフも大喜びでした。

その後、順調に製作が進み、第1陣の出荷は2014年12月に始まりました

やがて、GIGAZINE編集部にも実物が届きました。輸送用の段ボールから取り出した外箱は角がちょっと破れていますが、これは当初から破れていました。


GPSナビで自動飛行したり、スポーツカメラ(アクションカメラ)を取り付けて空撮できたりと、楽しめそう。


「Ready To Fly!」と、手軽にすぐ使えることを謳っています。


箱をオープン、本体以外にもいろいろと入っています。


内容物はこんな感じ、本体やマニュアル、プロポ、カメラなどがセットになっています。


すでに組み立てられているので、あとはちょっとしたセッティングだけで飛ばすことが可能な状態。そこでまずはバッテリーの充電をしようと思ったら、電池を入れたりUSBケーブルを接続するのではなく、コレを使えということでちょっと驚き。


本体はこのようにコンパクトに折りたたまれていて……


手で両端のアームを開くと……


飛行時のスタイルに。


……なんだか、中央部のユニットからいろいろ出ていますが、いいのでしょうか。


どうも、パーツが大ざっぱな感じが……。


裏側はこんな感じ。


各アームの裏側についているランディングギアを展開。


ギアは内側にさらにもう1段収納されており……


完全展開するとこうなります。かなりひょろひょろ。


本体中央部に目を戻し、この青いパーツが四隅についたエリアの隙間に注目。ここはアクションカメラを取り付ける部位。


隙間には面ファスナーが貼られており、このような細いパーツが3本取り付けられているので、外します。


これを、アームの先端に近いところにある隙間に差し込んで……


反対側を先ほど展開したランディングギアへ取り付けます。


ギアの補強部材でした。


裏返して立ててみました。


バッテリーの充電が完了したら、中央部のユニット下部に取り付け。


このバッテリーとの接続プラグを差せば電源オン、引っこ抜けば電源オフという、実にシンプルな構造。


畳んでいたローターを開き、縮んでいたメインアーム(写真左下)を伸ばして、離陸の体勢ができました。



大きさは、本体中央部のユニットがiPhone 6s Plusより小さいぐらい。


展開したローターはこれぐらい。


バッテリーを接続すれば離陸準備は完了。


……ですが、飛行に大事なローターの羽根に至るまでバリ取りが不十分だったり、どうみてもランディングギアが着地時にドローンを支えられそうになかったりと、精密でなければならないはずのドローンなのに、とても「雑」という印象を受ける機体に不安を覚えます。AndroidとiOS向けに操縦アプリが後日リリースされるという情報があったので、自分たちで飛ばすのはそのときにして、まずはすでに手元にPocket Droneが届いている人たちの反応がどうなのかを確認してみました。

すると、この姿を見れば予想はつくことですが、評判は散々。まず、LakeHartwellSimonさんはその名も「Airdroids Pocket Drone DO NOT BUY IT(AirdroidsのPocket Droneを買ってはいけない)」というタイトルでYouTubeに動画を公開。2014年2月にKickstarterでPocket Droneを見かけてバッカーになった人ですが、「最悪の買い物だった」とコメントしています。

Airdroids Pocket Drone DO NOT BUY IT - YouTube


このムービーはPocket Droneからの空撮なので、まずはランディングエリアに止まっているところからスタート。


ゆっくりと上昇を開始。


上昇しつつ左に旋回していくので、操縦しているSimonさんの姿が映ります。


さらに左旋回が続くので、やがて先ほど飛び立ったランディングエリアが見えてきました。


続いては上昇。Pocket Droneを見上げるSimonさん。順調なようです。


しかし映像が切り替わってスローモーションになると……


建物に接近するPocket Drone。おそらく、さきほど見えていた2階のバルコニーに接触したものと思われる衝撃があり、カメラの前を外れたランディングギアが飛んでいきます。


すでにPocket Droneは操縦不能に陥っているらしく、身をかがめてドローンを回避するSimonさんの姿が映っています。


その際にもランディングギアが外れて飛んでいっています。


とうとう、壁に激突。


地上をごろごろ転がるPocket Droneと、それを見つめるSimonさん。


ようやく動きを止めたPocket Droneは逆さま。Simonさんは視線を外してしまいました。


それもそのはずで、SimonさんはDJI Phantom 2を購入してあまりにも気に入ったことから、異なるセットで他に2機購入し、今はDJI Phantom 2だけで3機所有しているというドローン愛好家。Pocket Droneには並々ならぬ期待を寄せていたので、この結果には「買ってきたものの中でも最低のクソだ」とお怒りです。


LakeHartwellSimonさんの操縦が下手、あるいはLakeHartwellSimonさんのもとに届いたPocket Droneが不良品でこんなことになったのかというと、決してそんなことはありません。

Pocket Drone part 1 - YouTube


Pocket Drone購入者のDeltaBlastさん。好天に恵まれたドローン日和にPocket Droneを飛ばします。


背面にはカメラ取り付け用のマウント。ちなみに、本体同梱の「スポーツカメラ」にも同じようなマウントは用意されているのですが、DeltaBlastさんはGoProを使用しているようです。


ランディングギアを最大展開してなお、カメラは地面すれすれ。


ケーブルを繋いで……


いざ、飛行。


LakeHartwellSimonさんはプロポのみの単純な操縦を行っていましたが、DeltaBlastさんは付属のGPSユニットを使ってマップを表示させています。


飛行自体はわりと順調にできています。


しかし、問題は着陸。よく見ると、Pocket Droneのランディングギアの先端がまだ着陸していないのにプラプラしています。


当然、きれいに着陸することはできず、ガックリと膝をつくような形に。


しかも、プロポとのペアリングを切ることでローターの回転が止まるのですが、ちょっと時間がかかりヘンな体勢のままで回り続けるローター。


裏返して確認したところ、ランディングギアの1つは外れてしまっていました。もともと折り畳める構造なので、曲がってしまうことは多々あるのですが、外れることも多々あるというのはどうなのか……。


このDeltaBlastさんはなんと「自分の犯したミスをみんなが繰り返さないように」と、ユーザーガイドを自作して公開しています。

Pocket Drone Community User Guide - Google ドキュメント
https://docs.google.com/document/d/1228qdHqRJl8wtawLndP614OMkK76A9CZbh0TrNuFp9o/

ユーザーガイドによれば、そもそも本体に不備があるため、飛ばす前にはその確認を行うことが必要だとのこと。いったい、どれだけハードルの高いドローンなんだという話ですが、NorthOlboさんはこのガイドに従った上で挑んだ結果を公開しています。

Life (brief) and Death of the AirDroid Pocket Drone - YouTube


Kickstarterのページを確認するNorthOlboさん。これはまだ出資受付中で、1545件ものコメントが寄せられていました。


そして届いた実物に付属するのはぺらぺらのマニュアル……。


平衡を保てない羽根。


バッテリーの充電速度は非常に遅く……


充電が終わって本体下のスロットにバッテリーを取り付けましたが、カチッとはまったはずなのに左右に機体を振るとフラフラと動きます。


テイルローターの件は、前述のユーザーガイドに従って飛行前に修理を行います。


ネジをしっかり固定して、これでOK。


しかしまだ準備は終わっていません。キャリブレーションのためにミッションプランナーというソフトが必要になってきます。


ようやくPocket Droneを正常に飛ばせる状態になったはず。


いざ、フライトへ!


……


くるん、と裏返ってしまいました。


リトライして、今度は無事離陸。


しかし、操縦が非常に難しいようであっという間に高く昇っていってしまいました。


かと思うと、NorthOlboさんのそばに戻ってきてぶつかりそうに。


再び上昇しましたが、動作音が聞こえなくなりました。


まっすぐ落ちていくPocket Drone。


野バラの上に落ちたおかげで機体は無事。しかし、トゲのせいで回収が大変。


何度目かのチャレンジで、うまく飛ばせるようになってきたように見えるのですが……


本来、ホバリングはその場で動かずに空中静止すること。


しかし、Pocket Droneは風もないのにゆらゆらと動き回ります。


さらに、「ここから先には行かないように」と設定したはずのフェンスを越えてしまいます。


やがてヨーイングが始まりました。ヨーイングというのは、機体の垂直(上下)方向を軸として回転する動きのこと。これが、水平(機体の前後)を軸にした回転ならローリング、機体の左右方向を軸にするとピッチング。なぜかドローンが横に(左右方向に)回り始めたということです。


回転が止まりません。


安全のために、着陸させることにしたNorthOlboさん。


しかし、これまでの例の通り、Pocket Droneをきれいに着地させることは至難の業。


またもランディングギアが吹っ飛んでいました。


1本目のムービーを公開したLakeHartwellSimonさんもコンパスがダメということには気付いており、このユーザーガイドの通り、ミッションプランナーを使って修正を行っていたとのこと。「マルチコプター界のGoProを目指す」というPocket Droneでしたが、典型的な「安かろう悪かろう」で、LakeHartwellSimonさんは「DJIの製品を買いなさい、お金が無駄にならないし、いい結果も得られます」とコメントしています。

ちなみに、これだけのユーザーガイドがあるのなら公式が取り入れて、少しでも改善を進めていけばよいのではないかと思ったのですが、すでに公式サイトは消滅済み。


http://www.thepocketdrone.com/(2015年11月現在、404エラーが出ます)

公式TwitterアカウントはPocket Drone製作途中で更新が止まったまま放置されています。Kickstarterのプロジェクトページでは進捗を報告していたので、そちらに軸足を置いたのかと思っていましたが……。

AirDroids, Inc.(@AirDroids)さん | Twitter
https://twitter.com/airdroids

最後のツイートはAirDroidsのCTO(最高技術責任者)がPocket Droneの組み立てを指導しているというもの。

AirDroids CTO TJ Johnson teaches workers at our manufacturing facility in Indiana to assemble Pocket Drones. pic.twitter.com/DJTR7q4Iut

— AirDroids, Inc. (@AirDroids)


オンラインストア(shop.airdroids.com)もありましたが、airdroids.comはthepocketdrone.comに転送されるのでつながらなくなっています。すでに開発チームの行方が分からない以上、Android・iOS向けの操縦アプリが出ることも期待できそうにありません……。

Kickstarterには多くの夢のようなプロジェクトが存在しますが、4億円以上集めた超小型空撮ドローン「ZANO」プロジェクトが頓挫したように「多くのお金が集まったから成功する」というわけではないので、出資を考えている人は「プロジェクトは失敗して当然、成功すればラッキー」ぐらいの心持ちでいてください。

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in レビュー,   ハードウェア,   動画, Posted by logc_nt

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