ノーベル医学生理学賞の受賞者の行方を大きく左右する「ラスカー賞」
アルバート・ラスカー医学研究賞(ラスカー賞)は、医学分野で貢献した人に与えられるアメリカ医学界最高の賞であり、2015年で創設70周年を迎えた、世界で最も権威ある科学賞の一つとして知られています。ラスカー賞を受賞後、ノーベル賞を受賞することも多いため、「アメリカ版ノーベル賞」とも呼ばれるラスカー賞ですが、2015年は「ダメージを受けて癌になる恐れのある細胞を修復させるメカニズム」の基礎となる研究を行った研究者が受賞しました。
The Lasker Foundation - 2015 Awards
http://www.laskerfoundation.org/awards/2015_b_description.htm
‘American Nobels’ awarded for cancer therapy and DNA damage discoveries | The Verge
http://www.theverge.com/2015/9/8/9277171/lasker-awards-recipients-dna-damage-cancer-nobels
アメリカ・ラトガース大学のイブリン・ウィトキン博士とブリガム産婦人科病院のステファン・エレッジ博士は、損傷したDNAを修復するメカニズムを発見した研究成果によって、2015年のアルバート・ラスカー基礎医学研究賞を受賞することになりました。
細胞内のDNA分子は、代謝活動や外的要因などさまざまな原因によるダメージを日常的に受けており、1日1細胞あたり5万~50万回程度、損傷が発生することが知られています。そのため損傷したDNAを修復するメカニズム「DNA修復」のプロセスが備わっており、DNA修復によって細胞が生存し続けることが可能になっています。なお、DNA修復のスピードがDNA損傷の発生速度に追いつかなくなると、老化や癌が起こります。
ウィトキン博士はまだDNAの概念が正確に理解されていない1941年に研究をスタートさせました。1944年にコールド・スプリング・ハーバー研究所で、大腸菌にX線や紫外線を照射させて細胞の変化を調べているときに、いくつかの大腸菌は紫外線に対して強い耐性を示すことを発見します。なお、当時はDNAの損傷・修復プロセスに関する知識が少なく、強すぎる放射線量によって5万個の細胞のうちわずかに4つの細胞が生き残る程度だったとのこと。
生き残った大腸菌を調べると、一時的に細胞分裂を停止させた後に、再び分裂することが分かりました。この実験から、DNAが損傷を受けるとSOSアラートが出され、特別な防御モードに入ることが明らかになりました。
「当時は遺伝子研究の黄金時代ともいうべき頃で、毎週のように新しい発見がなされ、研究成果に興奮することだらけでした」と振り返るウィトキン博士。
ウィトキン博士が発見した大腸菌の反応は、その後、エレッジ博士など他の研究者たちによって、DNA修復と呼ばれる反応であることが解明されていき、損傷したDNAが修復されるメカニズムの研究が大きく進みました。今ではDNAの損傷が癌や老化や神経疾患や免疫異常などの数々の疾病や症状に関係していることが分かっていますが、これらの関係性の理解を大きく助けたのがウィトキン博士の研究だとのこと。
その功績が認められて、今回、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞を受賞することになったウィトキン博士ですが、自分の研究がその後の研究者に多くの知見を与え、医学の発展に寄与することになったという事実は、予想だにしなかったことであり、非常に光栄なことであると語っています。
2015 Lasker Awards: Stephen J. Elledge and Evelyn M. Witkin - YouTube
ウィトキン博士の他にも、ラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞を癌に対抗する免疫系の抑制を解除する抗体療法の開発に貢献したジェームズ・P・アリソン博士、メアリー・ウッダード・ラスカー公益事業賞をエボラ出血熱大流行への医療援助活動を行った国境なき医師団が受賞しています。
ノーベル医学生理学賞は2015年10月5日に発表される予定で、今年もラスカー賞受賞者の中からノーベル賞学者が誕生するかもしれません。
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