大規模農家が直面する大量廃棄から生まれた野菜とは?

By Julie Jordan Scott

ミニサイズのニンジンで、根はやわらかく甘みがあってみずみずしく、野菜スティックやサラダに適しているのが「ベビーキャロット」です。そんなベビーキャロットの誕生秘話にPriceonomicsが迫っています。

The Invention of the Baby Carrot
http://priceonomics.com/the-invention-of-the-baby-carrot/


1986年、カリフォルニアにアメリカでも最大級のニンジン農場兼加工工場がありました。この農場では多くのニンジンを生産していましたが、販売するには品質が足りていないものを毎日何十トンも廃棄していたそうです。廃棄は最大400トンにもなり、これは収穫量の最大70%にもなっていたとのこと。

しかし、廃棄されるニンジンのほとんどが栄養満点の食べられるものでした。廃棄されていた理由は、スーパーマーケットで販売してOKなものと比べて形がいびつだったことでした。

このニンジン農場の主であったマイク・ユロズクさんは、標準サイズに満たないいびつなニンジンを廃棄せずに済むような革新的な方法を思いつきます。その方法は、これまでのニンジンよりも小さなサイズのニンジンを発明するというもので、それもただの小さなニンジンではなく、味や栄養面でも異なるものの開発でした。

By cookbookman17

現在のアメリカのスーパーマーケットでは、売場に並べられるものが厳格に管理されており、厳しい選択基準を通過したものだけが販売されています。この選択基準について元農家でワシントン・ポストのライターでもあるアンナ・リーさんは、「いくつかの基準は食品安全性と保存期間に基づいて設けられています。しかし、その他の基準は見当違いのものばかりで、きれいな見た目のものを販売するための基準です。例えば、キュウリは真っすぐに伸びているものが好まれ、ダイオウは真紅色であることが好まれます。もしもそれらの基準を満たしていなければ、スーパーマーケット側は農家から野菜を購入しないでしょう」と述べています。

By brianna.lehman

マイクさんは1960年代に「バニーラヴ」というビニール袋にニンジンを詰めたブランド野菜の販売をスタートさせました。それ以降、「バニーラヴ」はひとつのブランドとして成り立ち、これらを販売するスーパーマーケット側もマイクさんのブランドを信用しきって農場に視察に訪れることもなくなっていったそうです。しかし、「バニーラブ」というブランドが信頼を勝ち取ってしまったため、マイクさんは長すぎたり短すぎたり少し色の悪かったりする「バニーラブ」として販売できないニンジンを、全て破棄しなければいけなくなったわけです。

マイクさんは少しでも廃棄を有効活用するため、基準に満たないニンジンを家畜のエサにするという施策をとりました。しかし、マイクさんの運営する農場は非常に広大で、廃棄の量は1日で400トン近くにものぼったため、マイクさんの飼っていたブタだけでは廃棄ニンジンを処理しきれるものでもなかったそうです。

By Tracie Hall

その後、1986年に廃棄野菜を活用する新しいアイデアが登場します。それは冷凍ミックス野菜などで廃棄野菜を使用するというものでした。冷凍ミックス野菜などでは野菜が豆粒大のサイズに細かくカットされてから冷凍処理されるので、形のいびつなものも使用できるというわけです。しかし、冷凍ニンジンは解凍に時間がかかり、冷凍にあまり適していなかったため、解決策として完璧なものにはなり得なかったそうです。

マイクさんはこういった廃棄野菜の活用法を目の当たりにして、自身にも何かできるのでは、と取り組み始めます。そして最初に行ったのは、解凍までの時間が短くて済むカットニンジンを作成することでした。当時はインゲンをカットするためのカッターで冷凍用のカットニンジンを作成していたそうですが、初めにインゲン用のカッターでニンジンをカットし、その後にポテト用のカッターでさらに細かくニンジンをカットすることで、より冷凍に適したサイズにすることにしたそうです。そういった試行錯誤の結果、冷凍ミックス野菜に向いているニンジンは皮なしの2インチ(約5センチ)サイズの小さなものが最も適していることも判明し、このミニサイズのニンジンが現在のベビーキャロットの原型となっているそうです。

By Steven Depolo

冷凍ミックス野菜に適したサイズのニンジンを発見した後、マイクさんは取引相手のスーパーマーケットにこれらを送り出します。しかし、スーパーマーケットからは冷凍用にではなく通常販売用にミニサイズのニンジンが欲しいと言われ、これがベビーキャロットとして世の中に売り出されることとなったわけです。

ミニサイズのニンジンがスーパーマーケットの店頭に並び始めると、それはたちまち大ヒット商品となります。見た目は非常に清潔で、軽食サイズであったこともウケ、通常のニンジンよりも多く売れたそうです。1980年代、スーパーマーケットではニンジンは1ポンド(約450グラム)10セント程度で売られていましたが、ベビーキャロットは1ポンド50セントで販売されました。


マイクさんは多くのベビーキャロットを販売して成功したにも関わらず、これを商標登録したり製造方法の特許を取得したりすることはありませんでした。なので、ベビーキャロットはすぐさま不完全な廃棄されるはずだったニンジンを有効活用するための方法として、多くの農家に取り入れられていったわけです。現在では専用の加工機械も存在しており、誰もインゲンとポテト用のカッターを駆使してベビーキャロットをカットするような面倒を行うことはないそうです。

登場から瞬く間に一般家庭に浸透していったベビーキャロットですが、その特徴は通常のニンジンよりも甘くて水分が多い、という点にあります。Fast Companyは「ベビーキャロットの登場でアメリカの家庭ではより多くのニンジンが消費されるようになったように思える」とまで評しており、そのインパクトがいかに絶大なものであったかが分かります。なお、ベビーキャロットの登場後10年間で、アメリカでのニンジンの消費量は2倍に増加したそうです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
砂煙の中ウサギとニンジンが種の存続をかけてぶつかり合う瞬間 - GIGAZINE

年間約100万人を死に至らしめる病・マラリアの治療薬製造技術がさらに進歩、クソニンジンの遺伝子を利用 - GIGAZINE

タバコの代わりにニンジンスティック、ニュージーランドの刑務所が導入したヘルシー禁煙法 - GIGAZINE

ニンジンを電子レンジで加熱したらスパークした - GIGAZINE

in , Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.