取材

中二病の発症年齢は14~18歳、さらに中二病の症例を6つに分類、そして中二ポーズを表現するための分析と理論、その実践について


バンダイナムコゲームスから発売された「ゴッドイーター」の制作に携わった河野紀子さんが、CEDEC2012にて、中二病のキャラクターに限らず、アニメーターがキャラクター付けを行う際に重要となるロジック、そしてキャラクターの内面(心理状態)を適確にポーズで表現する方法を学べる講演を「ユーザーに中二キャラクターとしての認知に成功したアニメーション・メソッド ~ゴッドイーターから贈るフィジカル中二論~」と題して行いました。


まず、ゴッドイーターのキャラクターをかっこいいポーズでキャラ表現をして欲しいとオーダーをもらいました。ここで課題です。1つ目はオーダーはもらったんですが、ゴッドイーターにとっての「かっこいい」とは何か。かっこいいには色んなかっこよさがあって、人の好みによってかっこよさも違います。そこで、ゴッドイーターにとってのかっこよさを探さなくてはいけません。2つ目です。「ポーズでキャラ表現」することなんですが、私は過去にいろいろなキャラクターにポーズを付けてきましたが、似たようなキャラクターは、似たようなポーズや仕草になってしまうんですね。なかなか個性を出すのは難しい。ポーズでキャラクターを表現するのは難しい、ということです。


次にゴッドイーターにとって「かっこいい」とはどういうことか。


まず、カットシーンを作るときに3Dのゴッドイーターのキャラクターモデルはこんな状態でした。キャラクターはとがった感じでかっこいいと思いました。ゴットイーターにとってのかっこよさとは何か。ターゲットのお客さんは中高生です。中高生がとがった絵柄でかっこいいと思うのは何だろう……


中二キャラクターじゃないかと。


中二キャラクターとは何だろうと思って、中二キャラクターの絵を集めて眺めてみました。「DEATH NOTE」「コードギアス」「ブラック★ロックシューター」「エヴァンゲリオン」「機動戦士ガンダム00」……中二キャラクターには独特のポーズ、共通したポーズがあるのか、見ていたんですけど、共通点が分かりませんでした。

参考1:小畑健画集「blanc et noir」の表紙に、「DEATH NOTE」の夜神月


参考2:「コードギアス 反逆のルルーシュ」BD第1巻ジャケット


参考3:グッドスマイルカンパニーの「ブラック★ロックシューター Black blade ver.


参考4:CD「EVANGELION ADDITION」ジャケット


参考5:「機動戦士ガンダム00」BD第7巻ジャケット


もしかしてチョイス自体が間違っていたのかもしれませんが、そもそも中二キャラクターとはなんぞや。


中二病のまっただ中にいる人にもの凄く好かれるキャラクターなんですね。だったら中二病とは何なのかと調べて分析しました。


中二病の発症年齢は14歳から18歳ぐらいが多く、思春期から青年期に発症することがわかりました。


で、これだけだと全然わからないのでインターネットで調べてみました。たくさん症例をみて、6つの行動理由に分けられるとわかってきました。それをご紹介します。1つ目に分類される症例として「うまくもないコーヒーを飲み始める」「洋楽を聞き始める」「プラモデルやプロ野球カードなどこれまで自分がコレクションしていた物が物凄く子どもっぽく見えるようになり、急に処分する」。この3つの行動理由は、「自分はもう大人であるとアピールしたい」ということです。


ポンポンいきます。2つ目の症例は「林間学校に来てまでタバコを吸う」「髪の色をスプレーで変えてみる」。これらの行動理由は何か、自分は社会の規制にひるまない強い存在だとアピールしたい。「そんな規制なんて知らないし主体的に行動できるんだ俺は」と強さをアピールしたいんですな。


3つ目。「自分の家族を友達に見られたくない」「母親に対して激高して『プライバシーを尊重してくれ』」「母親に『どこ行くの?』と聞かれて、『外』」、症例はこんな感じです。行動理由は「独立心と依存した現実との葛藤」、簡単に説明すると、中二病は思春期と青年期に症例が発症すると言われていますが、大人同然の主体性を持って動けると思ってるけど、現実は親に依存して暮らさないといけない。それを突きつけられると恥ずかしくて嫌という感じです。


4つ目にいきます。症例は、「クラスメートとどこか違う感じを出したがる」「本当の親友探しを始めたりする」「ちょっとしたウケ狙いのキーホルダーを買いたくなる」。行動理由としては、「今までの自分に疑問を持ち、これまでと違うことをする」。母親が買ってきた量販店のモノじゃ物足りなくなって、ダメージの入ったジーンズやドクロの入ったシャツを着たりする。


5つ目。「曲も作れないのに作詞」「ドラクエやFFにハマり、ゲームプログラマーを目指すが、考えられることは続編のちょっとしたイベントのストーリーやアイテムだけ」、みなさんどうですかね。行動理由はやればできると思っている。どっかで学んだわけではないけれど、やればできると思っている。


じゃあ、6つ目。「売れたバンドを売れる前から知っていたとムキになる」、これはちょっと、私は身に覚えがあるのでちょっと心が痛いです。「大人は汚い」、「急にラーメンの美味い・美味くないを言い出す」。行動理由は、「他人よりも物事の本質を分かっていると思いたい」。俺知ってんだぜホントのこと、みたいに少し背伸びしている感じです。


以上6つが中二病の行動理由だと分かりました。そして、この行動理由は2つの心理から起きていることが分かったんです。

2つの心理状態を見ていきましょう。A群からです。先ほどの1、2、3番の行動理由です。どういう心理状態かといいますと、大人であることの主張、心理学でいうと承認欲求といいます。これは思春期から青年期へ、第二次性徴を経て、大人同然の見た目、そして知性・主体性を持ち合わせていますが、親や教師といったもののために、思い通りにならなくて、それに対して、俺は大人なんだ、認めてくれよという心理状態なんです


もう1つの心理状態であるB群です。先ほどの4、5、6番の行動理由です。どういった心理状態かというと、自分探しですね。難しい言葉で言うと自己同一性といいます。「自分とは何なのか、自分とは誰なのか、どうすべきなのか、どう生きていくべきか」、そういった自問自答を経て、自己形成をしていく思春期のプロセスなんです。ということで、中二病がどういった心理状態から生じたのかがわかりました。


中二病の人が好む中二キャラクターとは何か。先ほどの2つの心理状態に対して、共感、自己投影し、憧れらることができるのが、中二キャラクターだと分かりました。


つまり、ゴッドイーターにとっての「かっこいい」とは、どういうことか。「ゴッドイーター」の答えは、中二病の人が共感、自己投影し憧れられるかっこよさ、ということが分かりました。どうでしょうか、この2人のキャラクタに共感できるでしょうか。かっこいいなと思えるでしょうか。


ということでかっこよさはわかりました。次はこのかっこよさを、どうやってキャラクターのポーズに落とし込んでいくかですね。


まず人の姿勢や行動というのは内面を映し出したものです。だから、ポーズでキャラ表現するには、人の姿勢・行動の傾向をまとめたアニメーション・メソッドというものを用いてキャラクターの違いを表現しました。


アニメーション・メソッドとは、「キャラクター性の付け方」と「心理状態からの体の動き」、これらを独自に「体系的にまとめたもの」です。これらの中から3つのポイントを紹介したいと思います。


ポイント1。「相手への意識の強さ」です。相手が自分に対して、どれぐらい意識を持っているか皆さん見ただけで分かるでしょうか。実は見ただけで分かるんです。視線、頭、胸、腰、そこを見れば相手がどれぐらい意識を持っているかがわかります。口頭で説明するのが難しいのでイメージを作ってきました。


左側の青いシャツを着ているのが私の上司で、右側が私です。今、上司は部下への興味0%の状態です。どこを見たら、0%の状態だと分かるんでしょうか。何となくは分かると思うんですが、相手を見ていません。視線も頭も全く見ていません。相手への興味は0%です。口では「はい、はい」と言っていても、全然真剣に聞いていない状態。


次に20%ぐらい興味を持っている状態です。何が変わったでしょうか。頭だけ相手の方を向いて、手はキーボードの上です。まだ、上司は自分の仕事に集中しています。一応、顔は向けてくれているので、「話しは何?」「要件早く済ましてよ」ぐらいの興味は持ってくれています。


じゃあ、50%ぐらい興味を持ってくれている状態とは、どんな感じになるのでしょう。先ほどとの違いは、頭と胸が向いているんですね。頭と胸が相手の方へ向くことでキーボードに置いていた手も外れました。これでようやく、仕事の手を止めて、部下の話をちょっと聞いてくれる感じになりました。でも、100%ではないですね。じゃあ100%はどんな感じになるのか見ていきましょう。


部下への興味100%ですね。何が100%かというと、頭と胸と腰が部下の方に向いています。これでようやく人は100%人の話を聞こうという姿勢になっています。ちゃんと人の話を聞いてくれるいい上司です。


それではポイント2。「オープン・ポジションとクローズド・ポジション」にいきたいと思います。心理学でいう「受け入れ」と「拒絶」というものが姿勢に出たものなんです。これもどんなものか見てみましょう。


受け入れ、解放の姿勢です。これがオープン・ポジションといいます。どこが受け入れ、解放の姿勢になっているのでしょうか。何となく話しを聞いてくれそうですが、見るべきところは、腕と足が開いている状態で、腕を足を組んだりしていません。この状態がオープン・ポジションです。


では、クローズド・ポジションはどうか。拒絶、防御の姿勢、これがクローズド・ポジションです。さっきとは逆で、腕と足が閉じた状態です。顔がおもむろに嫌そうになっていますけど、これは人によっては笑顔でうんうん首を振りつつ、腕を組んでる場合があります。みなさんも上司に話しを持っていく場合に、上司がクローズド・ポジションをしているときは、出直した方が賢明でしょう。


手のひらについて。左側が受け入れ・解放を意味するオープン・ポジションです。手が開かれています。右側が拒絶・防御を意味するクローズド・ポジションです。手のひらが握られています。


昔、女子高生がプリクラを撮るときにするeggポーズというのがありました。あれは手のひらを開いています。あなたに対して友好を示していますよ、というオープンな姿勢を意味しています。


続いて背中。左が受け入れ、解放、そして「自信」の表れを示すオープン・ポジション。背中が反っています。そして右側です。拒絶、防御、「思考」を表すクローズド・ポジション。考えている最中、背中は丸まります。こんな感じで、背中にも表れます。


昔からのヒーローポーズって胸を反った姿勢で、腕を組みます。これは背中を反っているオープン・ポジションですね。自信の表れです。腕を組んでいるのは、拒絶の表れです。悪役に対して、自分は影響を受けないぞ、という確固たる信念の表れとなっています。オープンとクローズドが混ざった、非常にユニークなポーズです。ヒーローで思い出したんですけど、いろいろキャラクターの資料を集めているときに、TVアニメのキャラクターで完璧なオープン・ポジションをしているキャラクターを見つけました。せっかくなので、ご紹介したいと思います。「TIGER & BUNNY」のスカイハイ(Sky High)の決めポーズなんですが、背中を反り、腕が開いていて、手のひらもちゃんと前を向いているという完璧なオープン・ポジションだなと。これを見つけたときは、すごいキャラ表現だなと思い感動しました。


ポイント3。性別による違い。よく私は、女の子らしさをポーズで表現するときに、女の子だったら、肘を内側にとか、膝を内側にだとか、やっちゃいがちだったんですが、それをやっちゃうと、どんな個性のある女の子のキャラクターでも、みんな同じに見えてしまうんです。個性はちゃんと、壊さないようにしつつ、女性らしさ、男性らしさを表すには、どうすればいいのか。そのポイントをお教えします。


これは左と右どちらが男性で女性でしょうか。左側が男性、右側が女性です。どのような違いがあるのか。ポーズ自体が異なりますが、男性の場合は、力が外向きに解放・拡散するイメージです。あくまでイメージです。女性は、力が内向きに閉じるイメージです。3Dでもそうなんですが2Dでドローイングする際も、筋肉の流れだったり、関節の流れってものを意識して、描いてみると、女性らしさ、男性らしさが個性を壊さずに表現することができますので、是非使ってみて下さい。


ということで、アニメーション・メソッド3つのPOINTをお伝えしました。


次は、アニメーションメソッドの実践です。


では、実際にポーズを作っていいきます。ただ、ポーズだけを純粋に見てもらいたいので、バンダイナムコスタジオの標準的なモデルを使います。実際にゴッドイーターのキャラクターのポージングをしていこうと思います。パーソナリティは、18歳の男性で、他人より優れた能力があり、他人とのなれ合いを好みません。心理状態は中二病の共感できるポイントである「大人であることの主張」と「自分探し」、この2つを取り入れていきます。ではやっていきます。


体全体を斜め45度ぐらいに向けます。相手への意識の強さです。なぜ斜め45度ぐらいに向けるのかというと、大人であることの主張と他人とのなれ合いを好まない性格を表現するためです。真っ正面を向くと、とても素直なキャラクターになりますね。だから少し斜めに向けます。このとき、自分に自信があるキャラクターは左胸を前に、深層心理の中で自信がないキャラクターは右胸を前にします。


では、次に両足を調整します。これはオープン・ポジション。自信があるほどスタンスを広げます。このキャラクターは、自信はあるんですけど、他人とのなれ合いを好まないというところで、スタンスの幅はそこそこにしておきます。


外向きに関節を向けます。性別の違いによるものです。こんな感じです。


軽く背中を丸めます。クローズド・ポジションです。自分探しの状態なので、少し背中を丸めます。


次に、片足に重心を乗せます。背中を丸めただけだと、ちょっと下半身が緊張した状態になるので、片足に重心を乗せます。このとき背筋がS字になります。S字にバランスを取って下さい。


最後です。やや正面に頭を向けます。相手への意識の強さです。真っ正面に向けすぎると、とても素直で人の話を聞く子になります。真横に向けると、無関心になるので、このキャラクターは少し正面に頭を向けます。


これで中二ポーズが完成しました。


完成した中二ポーズは、ゴッドイーターのこのキャラクターのポーズとして、実際に使っています。このように、アニメーション・メソッドを用いてゴッドイーターのキャラクターを作っていきました。


メソッドを用いたポーズと、用いていないポーズを並べるとこんな感じになります。右側は何となく作ったポーズです。


メソッドを用いて出来上がったゴッドイーターのキャラ達です。左から2番目の黄色いキャラクターは、性格がオープンで、隠し事がないキャラクターなので、真っ正面を向いています。右から2番目のおかっぱで黒い服を着ている女性は、胸を張ってとてもオープンな姿勢ですね。姉御肌というキャラクターなので、こんな感じになっています。女性は、内肘、内股にしていません。ゴッドイーターの女性は芯の強い女性なので、キャラクターが壊れないようにその辺は、注意しています。


まとめに入ります。ゴッドイーターにとっての「『かっこいい』とは?」「『ポーズでキャラ』を表現するには?」という課題に対して、「中高生が思うかっこよさをアニメーション・メソッドを用いて的確に表現できた」ということですね。


最後になりました。忙しい人のためのフィジカル中二論ということで、今日は中二病の分析をいっぱいしました。そして、アニメーション・メソッドの3つのポイントを説明しました。ですが、もっとさくっと、中二キャラってできないのか。ポイントだけお伝えします。


メソッドをお伝えした上で、先ほど例に挙げた中二キャラクターの絵をざっと眺めてみるとどうでしょうか。みんな、「くねくね」しています。メソッドで、自分探しをしている場合、背中を丸めてクローズド・ポジションになります。その姿勢を楽な休めのポーズにするときに、骨盤が斜めになります。バランスを取るために胸を開けます。すると、自然なS字になるんです。

ということでつまり、中二キャラは……


くねくねさせればOK!


ご静聴ありがとうございました。


おまけ

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in 取材,   ゲーム, Posted by darkhorse_log

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