「ガラパゴス化」は本当にSIMロックのせいなのか、KDDIが説明会を開催
端末価格が高騰する中、安価に購入できる中古携帯電話市場の盛り上がりや、Googleの「Nexus One」のように、対応する通信方式を採用しているのであればどの携帯電話会社でも利用できる携帯電話が登場したことなどを受けて、携帯電話の「SIMカード(電話番号を特定するための固有のID番号が記録されたICカード)」の行く末が注目を集めています。
そして日本の携帯電話端末に採用されている、特定の携帯電話会社のSIMカード以外を利用できない様に制限する機能である「SIMロック」について、KDDIが本日説明会を開催しました。
日本の携帯電話市場については、世界と異なる独自の進化を遂げた「ガラパゴス化」を指摘されることがあり、その原因とされることもある「SIMロック」ですが、どうやらSIMロックだけがガラパゴス化を招いているというわけではないようです。
詳細は以下から。
■そもそもSIMカードとは?
「SIMカード」はICチップ内にIMSI(International Mobile Subscriber Identity)と呼ばれる固有のID番号が記録されているカードで、この固有番号と電話番号を結びつけることでユーザーが通信サービスを利用できるようになるというもの。
一部を除く携帯電話には「SIMカードスロット」と呼ばれるものがあり、SIMカードを差し替えることで、1つの携帯電話端末で複数の電話番号を切り替えて利用することなどができるというわけです。また、中古の携帯電話を購入して自分のSIMカードを挿入するだけで機種変更が済むという、ユーザーにとってのメリットもあります。
SIMカードはこんな感じ。ちなみにこのカードはイー・モバイルの通信端末に採用されているもの。
■SIMロックに対するKDDIの説明会
本日行われたKDDIのSIMロックに対する説明会では、KDDIのスタンスとして「SIMロックを外すのは絶対いやだ」というわけでも「積極的にSIMロックを外したい」というわけでもなく、あくまで現状を踏まえた上で今後を考えるための説明会であるという前置きが行われました。
日本におけるSIMカードの状況。NTTドコモとソフトバンクモバイルは同一事業者内であれば、他のSIMカードを挿入しても携帯電話端末を利用できる「事業者ロック」をかけており、KDDIは最初に挿入されたSIMカード以外は端末の利用を認めない「ユーザーロック」をかけています。
また、NTTドコモとソフトバンクモバイルが通信方式にW-CDMAを採用しているのに対して、KDDIはCDMA2000を採用しているため、仮にSIMロックを解除してもauユーザーが他社の端末を利用できるわけではないほか、両方の通信方式をサポートした携帯電話端末が存在しないとのこと。
そして同じ通信方式を採用していても端末が各携帯電話会社の周波数帯域に対応していなければ利用できない上に、Eメールやウェブ、アプリなどは携帯電話会社によって仕様が異なるため共用できないとされています。
ちなみに欧米では携帯電話会社や国を超えてシームレスに利用できるGSM方式の第2世代携帯電話サービスを導入した時点で、1台の携帯電話で複数の携帯電話会社のサービスを利用できるようにするためにSIMカードが導入されています。なお、日本では第3世代携帯電話サービスからSIMカードが導入されています。
日本におけるSIMカードの状況。日本では他社との差別化を図ることができる携帯電話端末を発売するために、携帯電話会社が端末の開発費を負担するというビジネスモデルを採用しているほか、各社が提供するメールやウェブなどのサービスに互換性が無いため、そもそも1台の携帯電話端末で複数の携帯電話会社を利用することが想定されていませんでした。
さらに日本では携帯電話会社が販売店に通話料を原資とした販売奨励金を支払うことで携帯電話端末を安くする「インセンティブモデル」が携帯電話の普及のために積極的に活用されてきたため、短期で解約されて他社で利用されるようになると販売奨励金が回収できなくなることや、盗まれた端末が不正に利用される危険を防止するという目的で、SIMロックが実施されています。
端末開発の現状。携帯電話会社ごとに、その会社が採用している独自のプラットフォームに対応した個別の端末を開発するというモデルが主流の日本ですが、世界的にはAppleの「iPhone」などに代表される、メーカーが世界共通の独自プラットフォームを展開する開発モデルや、GoogleのAndroid端末のように、世界共通のオープンなプラットフォームを提供しつつも、携帯電話会社が独自にカスタマイズできる領域を設けた開発モデルも進展しています。
そして先日発表されたKDDIのAndroidスマートフォン「IS01」などは、AndroidにKDDI独自のカスタマイズを加えてありますが、市場で競争するために各社が自社のプラットフォームに合わせたカスタマイズを入れる場合があることを考えると、必ずしもSIMロックを解除することに対してメリットはないとのこと。
なお、携帯電話各社が導入を予定している第3.9世代携帯電話「LTE(Long Term Evolution)」において、通信方式は統一されることになりますが、当面は「データ通信をLTEに切り替えて、音声通話は既存の3Gネットワークを利用する」という方向となる可能性があるそうです。
仮に全社がLTEに移行して通信方式が統一されたとしても、会社によって周波数帯が異なるため、すべての周波数帯に対応できる端末を作る必要があるほか、さらにサービスエリアや会社ごとにサービス開始時期が異なるという問題も抱えており、現在SIMロックを解除してもメリットが生じる状況にありませんが、日本の携帯電話市場のビジネスモデルが変わらない限り、LTEに移行しても状況は変わらないとされています。
諸外国におけるSIMロックの状況。6ヶ月~24ヶ月と開きがありますが、「一定期間SIMロックをかける代わりに端末価格を下げる」といったビジネスモデルなどを採用している国は多く、中にはSIMカード自体を採用していない携帯電話会社もあります。
会場で行われた質疑応答は以下の通り。
Q:
SIMロックを解除するということはEZwebやiモードなどの各携帯電話会社が独自に展開しているサービスを従来とは別のレイヤーに切り離すということになると思うが、それはできるのか。
A:
大胆な試みであると思うが、現状のプラットフォームでは難しいと思われる。今動いているモデルをわざわざ変えることにどれだけのメリットがあるのかという問題と、技術的な問題で考えると、周波数の問題などを解決する必要があり、事業者自らが考えていける領域ではないと考えている。
Q:
各社ともにSIMフリー端末に対しての料金プランが整備されていないが、KDDIはどうするつもりなのか。
A:
ちょっとお答えできる状態にない
Q:
SIMロックを解除してもユーザーにメリットはないとされていますが、総務省が法律で義務付けるなどしてSIMロック解除に踏み切った場合、どのような影響があるのか。
A:
法律で義務付けるのであればやらざるを得ないが、auとしてはユーザーロックをかけることで、他人が不正に取得した携帯電話の中にある個人情報を見ることができなくなるようにしてセキュリティを確保しているため、セキュリティ面に影響が出る。ユーザーのメリットとしては、中古端末を使えるようになるなどがあるのではないか。
Q:
短期解約によって奨励金が回収できなくなるおそれがあるためSIMロックをかけているとされているが、販売奨励金モデルが転換を迎えた今でも意味はあるのか。
A:
販売奨励金モデルが薄れてきているので、以前ほど強くはありません。
Q:
LTEに移行しても音声通話は3Gネットワークを利用する可能性があるということは、音声通話にデータ回線を使ったIP電話を導入するのであれば、SIMロックを解除できるのか
A:
各社とも同じ方式を導入するのであれば共通化される可能性があるが、技術的なハードルもあり、いつになるか分からない。技術的な検討は続けている。
Q:
「SIMロック解除に踏み切ることで端末メーカーの国際競争力が増す」という意見についてはどう思うのか。また、端末の価格が高くなる可能性はあるのか。
A:
国際競争力の面については、端末メーカーが世界共通のプラットフォームを提示するようなやり方をするのであれば、メーカーの国際競争力は増すのかもしれない。端末が高くなるのかという意見については、各社の仕様をすべて内包する端末となるのであれば、(SIMロック解除のハードルである)販売奨励金の問題というよりも、端末の開発コストが自体がかさむようになる。
Q:
au初のAndroid端末を発売したが、今後Androidにはどれくらい注力するのか。
A:
端末戦略の担当ではないので、今はお答えすることができません。
Q:
欧米の状況だが、SIMロック解除を義務化している国はあるのか?
A:
我々も全部把握できているわけではないが、少なくともアメリカとイギリスは義務化していない。
Q:
LTE以降の端末についてだが、音声通話とデータ通信用にそれぞれSIMカードスロットを用意して「データ通信だけSIMフリー」という方法はあるのか。
A:
課題はたくさんあるけれども、技術的に可能かどうかの検討をしないといけないと考えている。
Q:
通信方式が異なるためSIMロックを解除しても意味がないというが、CDMA2000とW-CDMAのマルチモード端末が出た場合、前提が変わるのか。
A:
技術的な面についてだが、弊社の運用している周波数に対応しているものであれば、接続を受け付けることになると思う。事業的な面については答えられるものはない。
Q:
KDDIとして、マルチ対応のチップセットを使うという考えはあるのか。
A:
答えられる状況にはありません。
Q:
端末の国際競争力についてだが、総務省はSIMロックが日本の携帯電話のガラパゴス化につながると考えているが、KDDIとしてはどう考えているのか。
A:
SIMロックのみの問題ではなく、携帯電話のビジネスモデルを含めたトータルな問題であると考えています。
Q:
SIMロックフリーを検討するなどの総務省の動きについてどういう考えをもっているか。
A:
LTEを前にした動きであると考えられるが、我々の考えとしてはSIMロックの解除に対してネガティブではないが、SIMロックの問題だけではないので状況を理解いただきたいと考えている。
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