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自動車産業におけるソフトウェアの重要性はどのように高まってきているのか?


近年は世界的な半導体不足が自動車メーカーに打撃を与えていることが報じられていますが、この報道は最新の自動車が半導体およびソフトウェアに強く依存していることを浮き彫りにしました。アメリカに本拠を置く電気・情報工学の学術研究団体・IEEEが運営するウェブサイトのIEEE Spectrumが、「自動車産業におけるソフトウェアの比重はどのように高まっているのか」を解説しています。

How Software Is Eating the Car - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/cars-that-think/transportation/advanced-cars/software-eating-car

◆車載ソフトウェアの増加
アメリカ・クレムゾン大学で自動車工学を研究するZoran Filipi氏は、「自動車産業ほど急速な技術的変化を遂げている産業は他にありません」と述べ、温室効果ガスの排出規制や自動化、車載システムの進化、快適性の向上といった要求に応えるためにソフトウェアの重要性が高まっていると指摘。車載インフォテインメントの発達や車両各部の制御、さまざまな走行制御装置や安全装置などを搭載した車は、買い物の往復だけで数千万行ものコードを実行しているとIEEE Spectrumは述べています。

2010年頃には、マイクロプロセッサを用いたエレクトニックコントロールユニット(ECU)を100個以上搭載し、1億行以上のコードを持つソフトウェアを実行する自動車は一握りのプレミアムカーだけでした。ところが記事作成時点では、先進運転支援システム(ADAS)を搭載したBMW・7シリーズのような高級車には150個以上のECUが搭載され、フォード製のピックアップトラックであるF-150は1億5000行を上回るコードを実行するそうです。


近年では横滑り防止装置や、車の背後を見るためのバックカメラ、EU圏で義務化されている緊急自動通報システムのeCallなどが普及しました。また、アダプティブクルーズコントロールや自動緊急ブレーキといった機能が標準装備となりつつあり、ローエンドの車両でさえ100個ものECUを搭載する時代が近づいているとのこと。

コンサルティング企業のデロイト トウシュ トーマツ リミテッドは、2017年の時点で新車のコストのうち40%は半導体ベースの電子システムによるものだと(PDFファイル)推定し、2007年から電子システムのコストは2倍になっていると指摘。今後も車両に占める電子システムのコストは上昇していき、2030年にはコストの50%を占めると予想しています。

自動車用ソフトウェアの第一人者でありミュンヘン工科大学の名誉教授を務めるManfred Broy氏は、「かつてソフトウェアは自動車の一部でした。今では、ソフトウェアが自動車の価値を決定します」「自動車の成功は機械的な側面よりもソフトウェアに大きく依存しています」とコメント。近年では車両イノベーションのほとんどが、機械的な機構ではなく車載ソフトウェアに結びつけられているとのこと。


◆ソフトウェアのテストにおける困難
多くの自動車メーカーは複数の国や大陸でさまざまなモデルの車を販売しますが、たとえ同じモデルであっても販売地域や購入者ごとに微妙な差が存在しています。これは各地域における政府の規制要件の違いや、各オーナーが注文時に選択するオプションの違いによって生じるもので、自動車メーカーによって販売されうる全てのバリエーションを把握することは不可能とも言われています。

近年では車両の機構やソフトウェアの複雑さが増している関係で、開発段階におけるシステムの統合やテストにかかるコストが増大しています。デロイト トウシュ トーマツ リミテッドの推定によると、車両開発予算の40%以上はシステムの統合やテスト、および妥当性の検証などに費やされる可能性があるとのこと。車載ソフトウェアやそれを実行するECUは、ブレーキシステムやエンジンなど相互作用するセンサーやアクチュエーターの近くに配置する必要があり、その物理的な制約も自動車メーカーの負担になっているとされています。


たとえ自動車メーカーが可能な限りのテストや確認を行ったとしても、特定の電子機器やオプションの構成からなる車両が作られるのは顧客の注文が入ってからが初というケースもあります。そのため、2019年には車輪速度センサーの不具合で意図しないブレーキ作動が起きる可能性があるとして、ゼネラルモーターズがシボレーシルバラード1500やGMCシエラなど計63万8000台をリコールする騒ぎにもなっています。

この問題を悪化させているのが、多くの自動車メーカーはソフトウェアを自社開発しているのではなく、サプライヤーに外注しているという点です。特定のサプライヤーは「車載インフォテインメントシステムのソフトウェア」「車体制御用のソフトウェア」「自動運転支援の機能に関するソフトウェア」など、多岐にわたるソフトウェアのうち1つのみを開発しているケースが多く、最終的な統合段階でどのような問題が発生するのか予期しにくいそうです。

また、近年では車載ソフトウェアを通じたハッキングも問題視されており、ハッカーが自動車を遠隔で操る手法がたびたび報告されています。ソフトウェアの増加に伴って潜在的な攻撃対象も増加していることから、政府は自動車メーカーに対してサイバーセキュリティ上の義務を課しているほか、自動車メーカーは異常を検出した場合はソフトウェアの更新などで対応しています。

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◆ECUおよびソフトウェア関連の故障
車両に搭載されるECUやソフトウェアの増加によって、これらに起因するリコールも増加しています。アドバイザリー企業のスタウト・リシウス・ロスがまとめたレポートによると、2019年には1500万台もの車両が電子部品の欠陥でリコールされており、この半分ほどがソフトウェアに起因する欠陥に関係していたとのこと。また、ソフトウェアに起因しない欠陥の修正においても、50%以上の割合でソフトウェア更新による修正が行われたそうです。

電子部品やソフトウェアの導入は全体的なリコール件数を減らす役に立っているとの指摘もありますが、故障した場合の修理費用に占める電子部品の割合も高くなっています。また、高度な安全機能を備えた車両が衝突した場合は修理作業の60%を電子部品関連の作業が占めているほか、電子部品を搭載した箇所が破損した場合は通常の部品が破損した時よりも高額の費用を請求されてしまうとのこと。

近年では電子部品を搭載した車両の修理費用が高くなったことを受け、保険会社が部品の取り換えによる修理をあきらめ、車両を「全損」と判断する基準が引き下がっていることも指摘されています。クレーム管理企業のMitchell Internationalが発表したレポートでは、電子部品を搭載した車両の修理価格が上昇していることを受け、全損だと宣言された車両の平均使用年数が低下していることが示されています。


◆電気自動車やAIの導入による複雑さの上昇
自動車メーカーは気候変動に対する関心の高まりから、ガソリン車から複雑なソフトウェアを要求する電気自動車への移行を余儀なくされており、さらにAIを用いた自動運転機能に対する注目の高まりも相まって、車載ソフトウェアの複雑さは年々加速しています。コンサルティング企業のマッキンゼー・アンド・カンパニーは、車載ソフトウェアの複雑さが過去10年で4倍に増加したと指摘しており、さらに今後の10年で複雑性はさらに3倍に上昇する可能性が高いとのこと。

一方で、それに伴って自動車メーカーやサプライヤーの生産性が増加したとは言えず、新たなソフトウェアの開発や既存のソフトウェアを保守する能力を上回るスピードで複雑性が増しているとマッキンゼー・アンド・カンパニーは述べています。自動車メーカーは、ソフトウェアを外注して後で統合する従来の方法に限界を感じ始めているとのことで、今後は適切な専門知識を持つソフトウェアチームを組織し、維持することが重要になってくるとみられています。

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in ソフトウェア,   乗り物, Posted by log1h_ik

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