「ポーカーで人間を打ち負かしたAI」が世界を変える、天体物理学を愛するポーカーのプロが語る可能性とは?
相手の持っている手が読めるチェスなどと異なり、ポーカーは不完全な情報をもとに相手の心理を読みつつ戦う必要があります。この点がAIにとっては最適な手が読みにくいと考えられていますが、2017年1月にAIがポーカーのプロに完全勝利。この事態が一体どんな意味を持つのか、天体物理学を学び現在はポーカープレイヤーとして活躍するLiv Boereeさんらが語っています。
This Poker-Playing AI Could Change the World - YouTube
「夜空の星を見て、壮大な疑問に思いを巡らせるのは難しいことではありません。星は人を哲学者に変えるのです。そして後で、自分は人間の脳では見積もるできないくらいに遠く離れているものを見ていたのだということを振り返ります」
そう語るのは、Liv Boereeさん。
Boereeさんはイギリス・マンチェスター大学で物理と天体物理学を学んだ人物。幼い頃から宇宙に魅せられていたそうです。
自然豊かな素朴なケント州で育ち……
自然の背後にあるメカニズムやプロセスを理解すべく言語としての数学を使用します。
自然や地球で起こることに深い興味を持っているBoereeさんですが、実は、ポーカープレイヤーとして活躍していることでも知られています。Boereeさんは2005年にポーカーのリアリティ番組に出演したことをきっかけにポーカーに魅せられ、2010年には欧州ポーカーツアーで優勝して169万8300ドル(約1億9000万円)を手に入れました。
「『テキサス・ホールデム』というポーカーは、不完全な情報のゲームです。宇宙に存在する原始よりも、テキサス・ホールデムにはユニークな状況が生じます」とBoereeさん。
「ただの数字があぜんとするくらいのスケールで展開する、気が変になるくらいに複雑なゲームなのです。だから好きなんです」
テキサス・ホールデムをプレイするには可能な限り系統的である必要があり、一方で人間の心理を読む直感的な才能も必要となるとのこと。
「ポーカー、とりわけテキサス・ホールデムは、不完全情報ゲームに取り掛かるAIコミュニティにおいてベンチマークの1つとして使われます」と語るのはカーネギーメロン大学でコンピューター科学を研究するTuomas Sandholm教授。Sandholm教授は世界初のポーカーAI「Libratus」を開発した人物です。
Libratusはアメリカ・ピッツバーグにあるスーパーコンピューター「Bridges」を使用しています。
Bridgesは世界最大のシステムであり、人工知能やビッグデータを取り扱う分野で活躍しています。
写真の男性はピッツバーグ・スーパーコンピューティング・センターのNick Nystromさん。「LibratusとBridgesはこれまで歴史を作ってきました」とNystromさんは語ります。
場所は戻ってロンドン。Boereeさんは、テキサス・ホールデムのトップ・プレイヤーがチームを作り、Libratusと戦ったことについて語ります。
この時、多くのポーカー・プレイヤーが、人間の頭脳がどのようにしてスーパーコンピューターと戦うのかを目の当たりにしました。勝負において注目されたのは、テキサス・ホールデムには「複数のプレイヤーが存在すること」そして「情報が不完全であること」という2つの側面です。
しかし、Libratusのアルゴリズムは自動的にポーカーの戦略を作り出し、最終的にLibratusは4人のプロに勝利することになりました。チェスや囲碁のように相手の手が見られる「完全情報ゲーム」ではなく、相手の手を見ることができない「不完全情報ゲーム」においてAIが勝利したのは、非常に革新的な出来事と言えます。
Libratusの勝利は人工知能が人間に勝利した革新的な瞬間でしたが、Boereeさんにとっては「人間の頭脳がいかにパワフルなのかが示された」瞬間だったそうです。
そして重要なのは、「ここから何を学ぶのか?」ということ。
科学をポーカーに適用したり、科学を社会問題の解決に適用したりするように、人間を打ち負かしたスーパーコンピューターの技術を、別の何かに適用することができるはずです。
不完全な情報から最適な手を導き出すLibratusの能力は、患者の個人レベルで最適な治療方法を分析・選択して施すプレシジョン・メディシンの開発や……
環境破壊など、多くのことに適用できる可能性があります。
「私が個人的にわくわくしているのは、スーパーコンピューターやAIを適用することで、宇宙の性質など、非常に大きな問題を謎解くことができるのではないという可能性です」
「非常に小さく、取りに足らないような方法でも、それが人間の頭脳や、人間の頭脳が作り出したものと関わることで非常に大きな可能性を秘めるようになります」とBoereeさんは語りました。
・関連記事
人工知能と4人のプロとのポーカー対決は人工知能が完全勝利 - GIGAZINE
ポーカーで勝つためにカードが何かを一発で透視するいかさまスマートフォンとは? - GIGAZINE
「AI対ヒト」のポーカー対決で人工知能が再び勝利、6人を相手に5日間の戦いを制して3000万円ゲット - GIGAZINE
AIを競わせることで独自のスキルを身につけさせる奇妙なムービー - GIGAZINE
DeepMindが「AIの倫理」を研究する「DeepMind Ethics&Society(DMES)」を設立 - GIGAZINE
AIに常識を叩き込むために「Wikipediaを読ませる」と研究者 - GIGAZINE
AIを現実のものとする「ディープラーニング」の歴史はどこから始まったのか? - GIGAZINE
・関連コンテンツ