NASAの土星探査機「カッシーニ」が土星の大気に突入、20年に及んだ任務に終止符が打たれる


日本時間で2017年9月15日の19時30分ごろ、NASAやESA(欧州宇宙機関)などが運用してきた土星探査機「カッシーニ」が土星の大気圏に突入し、猛スピードによる高熱と高圧のために燃え尽きてその生涯を終えました。約20年にわたる運用の中で、カッシーニは土星に関する多くの科学的発見や美麗な土星の姿を人類に提供してくれました。

NASA’s Cassini Spacecraft Ends Its Historic Exploration of Saturn | NASA
https://www.nasa.gov/press-release/nasa-s-cassini-spacecraft-ends-its-historic-exploration-of-saturn

土星探査機カッシーニは正式名称を「Cassini-Huygens」(カッシーニ・ホイヘンス)といい、1997年10月15日にアメリカ・フロリダ州のケープカナベラル宇宙基地から打ち上げられ、約5年8カ月の旅の末に土星を周回する軌道に投入されました。そこから約13年間、カッシーニはそれまで知られていなかった土星の衛星を新たに発見し、衛星「エンケラドゥス」には水が存在して活発な表面活動が起こっていることなどを発見。また、土星を近傍から鮮明に捉えた写真画像を地球へと送り届け、また、搭載していた惑星探査機「ホイヘンス・プローブ」を土星の衛星・タイタンに着陸させ、大気の組成・風速・気温・気圧等を衛星から直接観測するなど、多くの科学的発見をもたらしました。

そしてアメリカ東部時間の2017年9月15日朝、カッシーニは「機体に付着している可能性のある微生物を衛星などに持ち込まないため」という理由により、計画どおり土星の大気に突入して高熱と高圧により完全に燃え尽きました。その最期の瞬間をモニタリングしていたNASAジェット推進研究所の管制室の様子が、YouTubeでも公開されています。以下のムービーはそのダイジェスト版です。

Final Moments in Cassini Mission Control - YouTube


カッシーニの最期の瞬間が刻一刻と迫る中、カッシーニから送られてくるデータをモニタリングして固唾をのんで見守る管制チーム。カッシーニから放たれた電波が地球に到達するまでには、この瞬間においては83分かかるとのこと。つまり、地球にいる我々は83分前のカッシーニの様子を見ていたことになります。


アンテナが捕らえる電波の周波数グラフには、1カ所だけシャープな出っ張りがあり、これがカッシーニからの電波を示しています。管制官が「いまデータ観測がハイレートモード(高速モード)に切り替わりました。大気に突入しています」との声が聞こえた後……


ついにその信号が途切れ、グラフは平らな形になってしまいました。


Radio Scienceと書かれたセクションの女性から「信号が消失しました」と状況が報告されます。


このダイジェスト版ではわかりませんが、実際のその瞬間、管制室は静寂に包まれました。


「Flight DirectorからProject Manager」「続けて」というやりとりの後、Flight Directorのジュリー・ウェバーさんから「11:56:46において信号喪失と判定」と宣告。この「11:56:46」は世界標準時を示しており、管制室のあるアメリカ東部標準時(夏時間)で午前6時56分46秒となっています。


これを受け、プロジェクトを率いてきたProject Managerのアール・メイズ博士が「FSO co-ord(共同フライトシステムオペレーション)のProject Managerより。まだ残りの信号が一部届いている状況ですが、お聞きのとおり探査機からの信号は喪失したことが宣言されました。そして今後45分のうちに、探査機そのものも喪失することになるでしょう」と全員に話しかけます。


「私たち全員が、この素晴らしい成果を誇りに思うことを願います。みんなおめでとう。これは素晴らしいミッション、素晴らしい宇宙船、そしてみんな素晴らしいチームでした。ここに、ミッションの終了を宣言します。これで通信を終わります」とコメント。拍手に包まれる管制室で、互いが抱擁して健闘をたたえあう様子が見られました。


13年にわたって土星を周回してきたカッシーニは、土星の環と惑星本体の間の空間を22回もすり抜けるフライバイを行うという最後のミッションを2017年4月26日に開始。文字どおり土星の大気に触れることで、最も正確な最後のデータ収集を行いました。そのプランの様子は、以下の記事でも触れられています。

土星に関する多くの発見を成し遂げた探査機「カッシーニ」が終焉へ、最後は土星の環の中を通るミッションを経て2017年9月には土星の大気で蒸発 - GIGAZINE


その「最期」の予定を改めて振り返っていきます。「グランドフィナーレ」の幕が開くのは2017年4月26日。


最期のミッションでカッシーニは、これまで成し得なかった貴重な調査を実施。それは、土星の環と土星の間を通過して、土星近傍のデータを収集するというもの。


そのデータは、これまで誰も得ることができなかった貴重なものになるはず。土星の環の起源を知る、貴重なインサイトを得られると期待されています。


土星は、地球のおよそ9倍という直径を持つガス惑星。そんな土星から見る環はこんな感じなのかも。カッシーニは、これまでで最も土星に近く接近した人工物になります。


そして22周目のフライバイで、カッシーニはその一生を閉じます。土星の大気に突入し、高速で飛行する機体には強い力がかかります。


そんな状況でも、カッシーニは地球に常にアンテナを向けるようプログラムされており、最期の瞬間まで得られる貴重な土星の大気のデータを地球へと送り続けます。


高度が下がり、徐々に大気との摩擦が強くなると……


カッシーニの機体は熱に耐えきれなくなり、崩壊が始まります。


そして2017年9月15日、ついにカッシーニは粉々に散らばり、蒸発して土星の大気の一部となって一生を終えることになる予定です。


カッシーニが最後に送ってきた写真の1枚がこれ。白く光る土星本体の向こうに、衛星「エンケラドゥス」が沈んでいく様子が収められています。


カッシーニは、事前に自らが大気圏突入する地点を撮影。以下の写真の中央付近をめがけて突入することが確認されていました。


カッシーニが最後に行った22回の土星フライバイのうち、最後の2回を示しているのが以下のムービー。少しずつ軌道を変えながら土星と土星の環の間を正確に周回してきたカッシーニでしたが、最後のフライバイの時、最も土星から離れた地点で衛星「タイタン」に接近します。この時にタイタンの引力によりカッシーニの軌道が微妙に変化し、最後は土星の引力から逃れられない軌道を取ることで土星の大気に突入します。その様子は鳥肌が立つほどに正確で精密なものなのですが、いったいどんな人がどんな計算をすれば、この軌道を計画できるのか、想像を絶するものがあります。

Animation of Cassini's Last Two Orbits of Saturn - YouTube


カッシーニの最後「グランド・フィナーレ」にまつわるインフォグラフィック。22回におよぶフライバイでは、土星の大気の雲まであと1628kmの地点にまで近づきます。土星本体と土星の環の間の空間はわずか2400kmで、その間をカッシーニは時速約12万3000kmという猛スピードで通過。そのうち5回は土星の大気をかすめ、4回は土星に最も近い環「Dリング」の内側を通ります。そして最後のフライバイで大気に突入後、1分でカッシーニとの交信は途絶えます。


カッシーニが撮影した写真の数々はNASAのギャラリーサイトで公開されており、補正が行われていない生データ39万5921件をダウンロードすることも可能。一括ダウンロードができるようになっていますが、記事掲載の9月16日時点では「トラフィックが落ち着くまで一括ダウンロードはできません」というコメントが表示されていました。

Cassini: The Grand Finale: Images
https://saturn.jpl.nasa.gov/galleries/images/


カッシーニが最後に行った土星フライバイから、グランド・フィナーレまでのタイムラインも公開されています。これによると、カッシーニが最後に写真を撮影したのは9月14日で、その後、9月15日の午前3時ごろにアンテナを地球に向ける回転を行い、データのリアルタイム転送を行う体勢に移行。その際のスループットは27kbps (3.4kB/s)というものだった模様です。

Cassini: The Grand Finale: End of Mission Timeline
https://saturn.jpl.nasa.gov/mission/grand-finale/cassini-end-of-mission-timeline/


グランド・フィナーレの時の管制室の様子を360度カメラでライブ中継した様子も公開されています。カッシーニの最期の瞬間は、ムービーの57分30秒ごろ以降に訪れます。

NASA Mission Control Live: Cassini’s Finale at Saturn (360 video) - YouTube


◆おまけ
天体に突入して最期を迎えた探査機といえば、ESA(欧州宇宙機関)が運用した彗星探査機「ロゼッタ」が有名。相棒である彗星着陸機「フィラエ」とともに困難の多いミッションを終え、最期を同じ彗星の上で迎えるというドラマチックな展開と、アニメーションで描かれるその様子に思わず感情移入してしまう人も多かったようです。

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