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日本のソフトウェアの品質が低すぎる理由とは?


ソニーやカシオ、パナソニックなど、日本には世界有数のハードウェアメーカーが数多く存在している一方で、ソフトウェアの多くは海外製品に頼っていることが多く、日本のソフトウェアの品質の低さが指摘されています。その理由について、ポッドキャスト配信者のティム・ロメロ氏が解説しています。

The forgotten mistake that killed Japan’s software industry - Disrupting Japan
https://www.disruptingjapan.com/the-forgotten-mistake-that-killed-japans-software-industry/


日本製ソフトウェアの品質が低い原因は、明治時代に生まれた財閥にあるとのこと。大企業グループまたは家族経営の企業グループである財閥は、当時の政府に対して強い影響力を持っており、政府による全面的な支援を受けて経済を動かしていました。19世紀末には、「三菱・住友・三井・安田」という4大財閥が生まれ、各財閥は独自の銀行や鉱業および化学会社、重工業会社などを保有するようになり、政治的および軍事的に大きな力を持つようになります。

その後、これらの財閥は第二次世界大戦時に日本経済の50%以上を支配する大きな影響力を持つようになりましたが、日本の敗戦に伴い、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)はこれらの財閥を「日本が自由かつ民主的に発展するための深刻な経済的および政治的リスク」と判断し、解体または大規模な再編を実施しました。

しかし、冷戦の激化や元財閥従業員などからの請願に伴い、旧財閥は社長会・取引先組織・広報委員会など、企業間で構成される組織「企業間組織」という形で再編されることとなります。その後、系列の銀行や商社、工場などを持つ企業間組織が主体となって日本は高度経済成長など、第二次世界大戦での敗戦から奇跡的な回復を遂げることになります。


1960〜1970年代の日本についてロメロ氏は「当時の日本は現代ほど経済が発展しておらず、生き残るためには海外に目を向けてグローバルな競争を行い、長期的な投資を実施して世界最高の製品を作るためのイノベーションがありました」と評しています。しかし、1980年代に入ると日本は世界トップクラスの経済大国に成長、当時の経済学者は「10年以内に日本の国民総生産(GNP)はアメリカよりも大きくなる」と予測していました。

このような状況で多くの企業間組織は「不確実で新興のグローバル企業に対してリスクが高く、高額な投資をするよりも、稼ぎやすい市場に焦点を当てる」という方策を採用しました。1980年代後半にコンピューターが市販されるようになると、組織系列のテクノロジー企業は同グループ内の法人にPCやソフトウェアを販売して多くの収益を得ました。その結果、企業間での競争や海外製品との競争がなくなり、海外の大手システムインテグレーション企業が台頭。日本は世界に通用するPCソフトウェア産業を発展させる機会を失うこととなりました。


さらに、日本のソフトウェア開発の現場では、「顧客の要請を受け、契約を締結した後に機能を実装する」という方式が採用されてきましたが、ロメロ氏は「日本が世界のソフトウェア産業から遅れる原因となっただけでなく、日本の産業全体におけるイノベーションの崩壊の始まりとなりました」と指摘しています。

また、当時の日本企業の多くがソフトウェアエンジニアを軽視していたことも日本のソフトウェア産業の停滞の原因とされています。1980年代から1990年代のソフトウェア開発は、低スキルの仕事と考えられており「コンピューターで新しいことをしたい」「テクノロジーが他の業界に大きな影響を与える」「ユーザーを喜ばせるソフトウェアを作りたい」という熱意を持った多くのソフトウェアエンジニアがいたにもかかわらず、昇進などの面で過小評価されていたとのこと。


一方でハードウェアエンジニアは高い評価を受けており、1980年代から1990年代にはウォークマンやファミリーコンピューターなど、多くの革新的な製品がリリースされ、世界的な成功をおさめます。しかしその間でも海外の多くの企業は、専用のハードウェアで動作するソフトウェアから、標準のハードウェアプラットフォーム上で動作するソフトウェアの開発に取り組んでいました。

その後のITバブルにおいて、日本の各企業は優秀なソフトウェアエンジニアを求めましたが、ソフトウェアエンジニアの軽視の結果、市場にはソフトウェアエンジニアを実際に評価するソフトウェア業界もなければ、ソフトウェアエンジニアを見つけるためのノウハウもありませんでした。また、ソフトウェアエンジニアを高く評価する企業が存在しなかった結果、ソフトウェアエンジニアを志す学生は奇特なものとしてみられていたことも指摘されています。

また、「出る杭は打たれる」という言葉があるように、日本において過剰に目立つことは避けるべき行為とされています。さらに、残した結果よりも「忙しそうに見えるか、一生懸命働いているか」が重視される結果、質のいいソフトウェアが生まれなかったことも批判されています。

1990年代にバブルが崩壊すると、多くの企業間組織の力が弱まり、系列銀行などの一部に倒産や合併などの動きが生まれました。バブル崩壊後の日本を象徴する言葉として「失われた10年」という言葉も生まれています。しかし、これに伴い、多くの企業が終身雇用制度を終了したり、生産拠点を海外に移したりと多くの改革を実施。経済成長は確かに鈍化しましたが、今後のスタートアップのイノベーションに関する基盤がこの期間に整えられました。


その後は、クラウドコンピューティングの発達やシリコンバレーの発展に伴うソフトウェアエンジニアのイメージ向上などがあり、多くの優秀なプログラマーが誕生しました。終身雇用制度や昇進保証というセーフティネットがなくなった結果、一部の労働者は「フリーランス」という業務体系を選択しており、日本の柔軟なスタートアップ労働力の中核を形成するようになり、一部の企業はこれに合わせてビジネスモデルの再考を行うようになっています。

ロメロ氏は日本の今後について「財閥が江戸時代に続く日本の経済を発展させ、企業間組織が戦後日本の経済を発展させてきたように、スタートアップ、企業、教育の新たな組み合わせから、日本の次の経済成長を生み出す何かが誕生するでしょう」と語りました。

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in メモ,   ソフトウェア, Posted by log1r_ut

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