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海底に沈む「古代の森」の謎を追う研究者たちのドキュメンタリー「The Underwater Forest」が公開中


氷河期時代に存在した「森」がメキシコ湾の海底にそのまま残っていることが、2004年に到来したハリケーンによって明らかになりました。何万年も経ているにも関わらず、木々は形をしっかり保ち、陸地に持ち帰ると「まるで今切ってきたばかりの木片」のような樹液の香りがしたとのこと。海底の森は現在では海の生き物たちのすみかとして機能しているのですが、なぜ古代の森が海底に沈んでいたのか、一体どれほど昔のものなのかなど、研究者たちの取り組みがYouTube上で約30分のムービーとして全公開されています。

The Underwater Forest - YouTube


アメリカ南部・アラバマ州の陸から約24km沖、メキシコ湾の水深約18メートルのところには「森」が存在します。


海底には切り株が沈んでいます。


切り株の中には、泥の中にまだ根付いているものもあります。何千もの木々は、今から5万年前、エジプトでピラミッドが建てられるはるか前に存在したものだと見られています。


森と言えば本来は鳥や昆虫たちであふれているものですが、今では魚やイソギンチャクたちのすみかとなっています。


これらの木々は、メキシコ湾に生えているイトスギと同じルーツを持つものです。


しかし、メキシコ湾の海底は砂漠のような状態で、ヒトデやクラゲなどはいるものの、地上における「森」と言える状態ではありません。では、岸から24キロメートルも離れているところに、どうして1カ所だけ「森」が生まれたのでしょうか。そして、沖に唐突に現れた「森」はどのようにして発見されたのでしょうか?


ことの発端は、観測史の中でも最大級の勢力を持ったハリケーン・アイバンにあります。ハリケーン・アイバンは2004年にメキシコ湾を直撃し、合計で死者94名を出し、多くの建物を破壊しました。


アイバンが去ったあと、ダイビングショップを経営するチャス・ブロートンさんは、「やたらと魚が釣れる場所がある」という連絡を受けます。そして、一体海で何が起こっているの?と報告を受けた場所を潜ってみたところ、海底に森ができていたとのこと。


ハリケーンによって海底がかき混ぜられることで、泥の下に眠っていた木々が現れたのです。25年のダイビング生活の中でも、このような光景は初めてだったとブロートンさんは語っています。


その後、チャスさんはジャーナリストのベン・ライアンさんに連絡し、海底に存在する森について伝えます。


海底に存在する森は、まるで珊瑚礁のような形で生物たちのすみかとして機能しています。


木の中にはタコが住み……


通常は洞窟や岩場でしか見られないようなカラフルな魚であふれています。このような状態は極めて珍しいとのこと。


森にはウミガメまでいます。ライアンさんが記事を書くと、海底の森の存在は瞬く間にインターネット上をかけぬけ、日本や中国を含めた世界中の研究者からメールが届いたとのこと。また、木をサルベージしてコーヒーテーブルやギターに使いたいという申し出まであり、お金を目的として森が破壊されることを避けるべく、ライアンさんらは情報を秘匿し森を守っていくとを決めたそうです。


そして同時に、ライアンさんらは世界中の研究者と連絡を取り、森まで研究者らを連れてくることで調査を開始しました。古代のサメの歯や化石類に詳しい古生物学者のマーティン・ベッカーさんも、初期にやってきた研究者のの1人。


ベッカーさんは普段、陸地で化石の発掘にあたっているのですが、調査が始まるとすぐに海底の森に夢中になりました。


その際、本物のサメに遭遇してしまうというハプニングもありました。


ベッカーさんによると、まだ恐竜が生きていた時代、現在陸地として存在する場所の多くが水の下に沈んでいました。そのため、陸地の土を掘り返すとサメの歯が出てくることがあります。それと同様に陸地から離れた場所にある海底の森も、海の水位の変化によりかつて陸地として存在したため、森が海底に残っていたわけです。


地球は、だいたい4万年から10万年ごとに氷河期を経験し、それによって海面の水位も変化してきました。


恐竜の時代は気候が暖かく、アメリカの多くの土地は海の下に沈んでいたと考えられています。


一方、氷河期になって気温が低くなると、氷河の影響で水位が低下します。直近の氷河期は1万2000年から1万8000年前に訪れたもので、今より海面は約122メートル低かったとのこと。


そのため、当時のメキシコ湾の岸は、現在よりも48キロメートルほど外側にありました。


このことから、海底の森は、この時に存在したものが水面が上昇することによって海底に潜ったように見えます。しかし、研究者らは、海底の森が直近の氷河期よりもさらに昔、約5万年前の氷河期に由来するものだと考えています。


木々の年代については、古気候学者のクリスティン・デロングさんが調査することで、徐々に情報が明かになってきました。


最初に海底に潜った時のことについて、「一見すると、ただ土砂が沈殿しているように見えるのですが、地面を触ってみると、木が何層にも重なっているのがわかりました」と語るデロングさん。表面に見えている木だけでなく、その下までずっと木々が折り重なっているようです。2004年にハリケーン・アイバンによって海底が掘り返されてから、木々は海底でずっと露出しているので、通常であれば既に劣化してしまっているはずですが、イトスギは通常の木よりも耐久性が強いこともあって、形を残している状態。


木の幹に器具をねじこむデロングさん。木の表面は海水や生き物たちによってダメージを受けていますが、中心は手つかずの状態です。そこで、木の中心部分を採取し放射性炭素年代測定法で調べることによって、木が厳密にどのくらい前のものなのかがわかります。


こんな感じで、細い棒状の木片を採取。


さらに、デロングさんによって泥の中から取り出された木片はこんな感じ。何万年も前のものとは思えないほどに、形を残した状態です。これは、木々が泥の中に沈むことで無酸素の状態が作り出され、微生物による分解が行われなかったため。


一部の木片は研究のため海底から引き上げられました。実際にカットしてみたところ。


年輪年代学者のグラン・ハーレイさんは「思っていたよりもずっといい状態」だと語っています。


木片の表面にみぞができているのは、動物や昆虫による接触があったためだそうです。また、状態から木が環境的要因などによってストレスを受けていたこともわかりました。


今度は、風船の力を借りて大きな大木を引き上げようとしています。


慎重に木を海面まで浮かび上がらせましたが……


あまりに重すぎて船の上にまで持ち上げることができず。


やむを得ず、木を海中でカットすることになりました。ハーレイさんにとっては、これが切り株全体を触れる最後のチャンス。


このダイブで初めて、古代の木のかけらがラボへと持ち帰られることになりました。


ということで、ハーレイさんが働く南ミシシッピ大学の研究施設に木片は持ち帰られました。


慎重に木片を乾かし……


カットしていくと、まるで真新しい木をカットしたかのような樹脂の香りがしたとのこと。


調べてみて驚いたのは、木片を切った時にしみ出してくる樹液が、何万年も前のものだったこと。そして、それほどに前のものにも関わらず、木の繊維がしっかりと見えたことでした。


また、顕微鏡を使って見てみると、現在のイトスギは細胞のサイズにばらつきがありますが、海底の森から採取したイトスギは細胞のサイズが全て同じだったとのこと。これは当時のイトスギが、私たちが知っている現代の環境とは全く異なった環境・気候で育ったことを示しています。


最初に海底に潜ったとき、木々は1万~1万2000年前のものだと思われた、とデロングさん。しかし、放射性炭素年代測定法で調べたところ、木々は4万2000年前のものだと示されました。


放射性炭素年代測定法で測定できる年代には限界があるため、実際には、木々は5万~6万年前に存在したのではないかとデロングさんは見ていますが、いずれにしても、正確な年代は、ムービーが公開された時点ではわかっていません。


4万~4万2000年前、地球の海面レベルは急激な上昇と下降を繰り返していて、安定していませんでした。デロングさんら古気候学者が知りたいのは、これらの環境の変化がエコシステムにどのような影響を与えたのか、イトスギの森は環境の変化にどう対応していったのか、ということ。多くの環境ストレスにさらされることにより、木々がどう変化していったのかを、海底の森に沈む木々を調査することで明らかにしていきたいとのこと。それにより、今後地球に起こりうる環境の変化がどういうものなのか、そして私たちがどのように対応できるのかのヒントが得られるとしています。

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in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by darkhorse_log

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