サイエンス

地球の化石や石に残された痕跡から「地球の始まり」の姿や「地球外生命体」に対する新しい考え方がもたらされる

By Martin Heigan

地球の歴史は古く、約45億年前に最初の形が作られたと考えられています。当時の地球は「溶けたマグマのかたまり」とも言える灼熱地獄でしたが、徐々に温度が下がることで水が存在できる環境が生まれて海と陸地が誕生し、生命が生まれるに至ったと考えられているのですが、地球でも最古に分類される地層に残された化石の調査により、最初の生命は従来考えられてきたよりも早い段階で地球に存在していた説が支持されるようになってきています。そんな状況について、アメリカのサイモンズ財団が運営するサイエンス系メディア「Quanta Magazine」がまとめています。

Fossil Discoveries Challenge Ideas About Earth’s Start | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/fossil-discoveries-challenge-ideas-about-earths-start-20180122/

人間は記号や文字を使うことで各時代の記録を残してきましたが、その方法で過去をさかのぼることができるのは「有史時代」と呼ばれる過去数千年前までに限られています。それ以前の時代の姿を記録から知る方法はありませんが、その代わりに地質を調査するという方法で、時代ごとの気温や大気の組成、その時に生息していた生き物や植物の特徴を分類し、地球の歴史をひもとくことができます。この方法によって分類される時代は地質時代と呼ばれ、最も古い時代である「冥王代」や、生命が一気に多様化した「カンブリア紀」、恐竜が生息していた「ジュラ紀」「白亜紀」などどこかで耳にしたことがある時代区分が並んでいます。

現在地球で見つかっている最も古い地殻は、オーストラリアの北西にある乾燥して太陽がさんさんと降り注ぐ地域で見つかっています。海岸沿いの都市・ポートヘッドランドからしばらく車で走ったところにある小高い丘に、ピルバラクラトンと呼ばれるクラトン(安定陸隗)が露出しています。このクラトンは、地球ができて約10億年が経過した、今から35億年前に形成されたものがそのまま残されています。

このクラトンでは、「Apex Chert」と呼ばれる沈殿物の層が発見されています。ここで採取されるオレンジ色がかったクリーム色の岩を顕微鏡で観察してみると、そこには管状の物体を確認することができます。これは、35億年前に生きていたと思われる生き物の化石と考えられており、現在地球で見つかっている最も古い生命の痕跡であると見られています。

By James St. John

しかし、2017年に実施されたいくつかの調査によって、これよりさらに古い生命の痕跡を示す証拠が発見された可能性があります。古い地殻を掘削、粉砕、レーザー発破などの方法で採掘し、詳細な調査を行うことで、37億年前と39億5000万年前、さらに42億8000万年前の生命体を含む可能性のある痕跡が明らかにされています。

地球が誕生した直後の冥王代の時代、原始の地球は火山に支配された灼熱地獄で、他の惑星からの度重なる隕石爆撃を受けていたために、生命は存在していないとも考えられてきました。また、原始地球の誕生からまもなくの頃、現在の火星と同じほどの大きさの天体「テイア」が地球に衝突するジャイアント・インパクトが起こったと考えられており、この時のエネルギーで蒸発した地殻の一部が宇宙空間に放出され、後に月を形成するようになったと考えられています。その他にも、若い太陽から浴びせられる強烈な太陽風の影響などで、とても原始地球に生命が存在していたとは考えにくいというのがその根拠です。

一方、多くの地質学者は今、地球は従来考えられてきたよりも早い段階から冷やされており、水が存在していたと考えています。これまでに見つかっている痕跡からは、地球の地殻の一部が44億年前までに冷やされ固化したことが示唆されています。また、これらの古代の岩石には酸素が含まれており、地球には43億年前から水が液体で存在していたことを示しています。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の地球化学者、エリザベス・ベル氏は、「実際には、当時の世界は考えられていたよりも現代の世界と同じようなものに近かった可能性があります。地球には水があり、安定した地殻があった可能性もあります。居住可能な世界とある種の生命が存在していたと考えることは、いまや『見当外れ』ではありません」と述べています。

By mobil'homme

2000年代に入ってから発見されるようになった「ジルコン」と呼ばれる小さな結晶が、その説を裏付けるものとなっています。液層モニターの1ドット分ほどの大きさしかないジルコンには、43億年前の地球に涼しくて湿った、そしておそらく生き生きとした世界が広がっていたことを示す痕跡が残されているとのこと。前出のピルバラクラトンでもこのジルコンが見つかっており、そこには竜巻状の微化石が含まれていることが分かっています。

2017年3月、ロンドン大学の地質学者であるドミニク・パピノー博士と学生のマシュー・ドッド氏は、カナダのケベックで見つかった化石の中に、古代の地球の痕跡を見いだしました。「Nuvvuagittuq (ヌヴウォギトゥック)グリーンストーンベルト」と呼ばれるこの構造物は、原始地球の海底の姿を今に伝えるものです。化石の幅は人間の髪の毛の半分ほどで、長さは数ミリ程度。それが海底の地層の中から発見されました。この構造物は酸化鉄からできたヘマタイト(赤鉄鉱)と呼ばれるもので、微生物が集まって形成していたコロニーが42億年前までにそのまま化石になったものであるとドッド氏は述べています。

この微生物は、海底から熱水が噴き出す噴出口の周りに生息していたと考えられており、現代の海底でも同様の構造物が見つかっています。ドッド氏はまた、この近くにチューブ状の構造物を見つけており、そこには有機材料を含む小さな炭素のリング「ロゼット」を見つけているとのこと。ロゼットは非生物学的なプロセスによっても形成されることがありますが、ドッド氏はその中にアパタイト(燐灰石)と呼ばれる鉱物の一種を発見しています。これは、生物学的な活動が行われていたことを示す可能性がある発見です。

By NOAA Ocean Exploration & Research

ドッド氏らはまた、構造物に含まれる炭素の同位体などを分析。一般的に、生物は同じ元素でも軽いほうの同位体を選ぶ傾向にあるため、炭素13よりも炭素12がより多く見つかることが多くあるとのこと。ロゼット付近の構造物からも軽量な同位体が多く見つかったため、やはりそこには生命が存在したことを示す結果が得られています。

その後の2017年9月には、東京大学の佐野雄司教授と小宮剛准教授らのチームがカナダのラブラドルにあるSaglek Blockと呼ばれる堆積岩から、39億5000万年前の生物の痕跡を示す構造物を発表しているほか、オーストラリアのウーロンゴン大学のアレン・ナットマン教授らはグリーンランド南西部で、37億年前の細菌の化石を含むストロマトライトを発見したと報告しています。


しかし、この見解に異論を唱える科学者も存在しています。例えば、ナットマン氏らが発見したストロマトライトは、地球上で最も古い既知の堆積岩のあるグリーンランド南部「イスア緑色岩帯」で見つかっているのですが、その解釈は非常に難しいといわれています。ロゼットが非生物学的なプロセスによっても形成されることがあるように、ストロマトライトも化学的な作用により形成されることがあり得るためです。このことから、これらの地域で見つかった「生命の痕跡」は、実は単なる化学反応よって作られたものであるという疑問が解消されずに残されています。ウィスコンシン州立大学の地球化学者であるジョン・バレー氏は、「私はこれら他の研究が間違っているとは考えていませんが、その内容が確固たる証拠であるとも考えていません。私が言えるのは、ナットマン氏が発見した岩はストロマトライトのように見え、非常に魅力的だということです」と述べています。

一方、古代の地球に水が存在していたかどうかについても議論が交わされています。前出のバレー氏は2001年、地球には44億年前から地殻が存在していたことを示唆するジルコンを発見していました。ジルコンは、ケイ素、酸素、ジルコニウムなどの元素を含む結晶性鉱物であり、マグマの内部で形成されます。炭素結晶のように強固な構造を持つ物質であることから、高い圧力や温度の環境下においても極めて長い時間にわたって安定して存在することができるため、ジルコンは地球の冥王代から残された唯一の岩石として貴重な「タイムカプセル」となっています。

By Martin Heigan

バレー氏は、西オーストラリア州ジャックヒルズにある岩の一部を採取して詳細な調査を実施。すると、液体の水で変質した物質から形成された結晶であることを示唆する酸素同位体が発見されました。このジルコンは、これまで見つかっていた最古の堆積岩よりも4億年も古い時代に生まれていたものだったことから、従来考えられてきた時代よりも4億年も前に地球には海が存在し、冷却されて凝固していたことが浮き彫りになってきました。バレー氏はそのような海が地球のあちこちに存在していたはずだと考えており、「冥王代は地獄のような世界ではありませんでした。それがジルコンから分かったことです。確かに火山は存在していました、おそらく海に囲まれていたと考えられます。少なくとも、いくつかの陸地が存在していたはずです」と述べています。

ジルコンからは、地球や月に隕石や小惑星が降り注いだと考えられている後期重爆撃期の痕跡とみられる証拠も見つかっています。1960年代から70年代にかけて月に降り立ったアポロ計画の宇宙飛行士は、多くの月の石を地球へと持ち帰りました。それらの石を詳細に調査したところ、39億年前に急激な温度上昇を起こしたことを示唆する証拠が、石に含まれるジルコンから見つかったとのこと。ただし、これをもって「後期重爆撃期があったことを示す証拠である」と断定するには時期尚早の段階であることにも留意する必要があります。特に、宇宙飛行士が持ち帰った月の石の分布が、月の表面の一部に限られていることから、「たまたまそこに落ちた一つの隕石をかけらを持ち帰っただけ」という可能性が排除できないため、今後もさらなる詳細な調査を経た上で結論を導く必要があります。

このように、惑星の規模から考えると取るに足らないほど小さな石のカケラから知られざる太古の地球の姿を知ることができることがわかります。このような実態がわかってくることで、太陽系以外の惑星にも生命が存在する可能性が上がるとも考えられています。

By fotomanu_93

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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