がんの治療薬を体内へ直接運ぶ3Dプリンターで作られたやわらか極小バイオボット
血中を移動して正確にがん腫瘍を攻撃できるナノロボットのように、人間の体内の必要な場所まで必要最低限の治療薬を運び、薬の副作用を最小限にとどめることができるバイオボットが開発されました。このバイオボットは3Dプリンターで作られており、わずか15mmというサイズながら内部に複雑な機構を有しているという独特のものになっています。
Squishy Clockwork Biobot Could Dose You With Drugs From the Inside - IEEE Spectrum
http://spectrum.ieee.org/the-human-os/biomedical/devices/squishy-clockwork-biobot-could-dose-you-with-drugs-from-the-inside
スイスの時計職人が発明したジェネバ機構は、2つのギアを内蔵したもので、時計や映写機に使用されます。このジェネバ機構をなんとわずか15mmのバイオボットに適用することで、体内の狙った場所に確実に治療薬を届けることができるようになりました。
このバイオボットを開発したのはコロンビア大学で生物医学工学を教えるサミュエル・シア教授です。バイオボットはバッテリーもワイヤーも使用していませんが、人間の体外からコントロールして少量の薬を運ぶことができます。「このバイオボットはそれぞれの患者に適した治療法をとる現代にピッタリの装置です」と語るのは開発者のシア教授。
シア教授はすでに研究所のネズミを使ってバイオボットの骨肉腫の治療を行う実験を行っており、その結果はScience Robotics誌で公表されています。
シア教授の研究チームは、最初に極小のジェネバ機構を3Dプリンターで再現可能にするための方法を考案しました。研究チームが考案したアイデアは、弾性のある固形物を作り出すためにヒドロゲルを層状に出力してジェネバ機構を再現するというもの。通常、3Dプリンターで出力したパーツは人間の手を使って組み立てるわけですが、この工程を飛ばして出力した瞬間にジェネバ機構が完成するように設計されています。
3Dプリンターを用いてジェネバ機構を出力する様子を撮影した写真
その結果、バイオボットを3Dプリンターで出力するのにかかる時間はなんと30分未満にまで縮められることができたそうです。なお、通常の3Dプリンターで素材を出力し、ジェネバ機構を内蔵するバイオボットを組み立てるとすると少なくとも数時間はかかる模様。そもそも、大半の3Dプリンターがヒドロゲルのようなやわらかい素材を扱うことすらできないそうです。
出力したジェネバ機構が正確に動作している様子は以下のムービーで見られます。
Soft clockwork biobot could dose you with drugs from the inside - YouTube
以下の真ん中にあるダルマのようなシルエットのものがジェネバ機構で、この中にある黒色の半円が鉄ナノ粒子。鉄ナノ粒子が埋め込まれているので、磁石を近づけるとジェネバ機構を遠隔操作することもできます。以下のムービーではジェネバ機構の下にある銀色の円(磁石)を使って機構を動作させているそうです。なお、ジェネバ機構の中には6つの部屋があり、そのうちのひとつに入っている黄色い物体が薬です。
なお、シア教授の研究チームは磁石以外のものを使ってジェネバ機構を動作させる方法を考えている最中。ただし、バイオボットの開発で最も困難だったのは、人体のやわらかい内臓と適合し、シリコンとは異なる材料を用いてバイオボットを製作しなければいけなかった点だそうです。「もしあなたが選んだ素材が崩れてしまうなら、それを使ってロボットを作ることなどできません。素材はインプラントできるくらい十分に硬い必要があります」とシア教授。
研究チームはこのバイオボットを実際にネズミの体内に入れ、機構がしっかり動作するのかどうかを検証。被験体となったネズミは骨肉腫を患ったもので、これに局所的に治療薬を届けることに成功。バイオボットを使用しない場合よりも、治療薬の副作用による人体への悪影響は小さくすることができたそうです。
ただし、シア教授いわくこのバイオボットはあくまでも概念実証であるそうで、これを急いで実用化しようという考えはない模様。「我々は費用対効果を分析し、これが本当に商用化できるものかどうかを調査する必要がある」と語っています。
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