生き物

人間は左右の脳の連絡をコントロールして「マルチタスク脳」を実現している可能性が判明

By amy leonard

コンピューターが同時に複数のタスクを実行する「マルチタスク」と同じような働きを、人間の脳は行うことが可能です。テレビを見ながらアイロンをかけたり、ラジオに耳を傾けながら自動車を運転する行為がこれにあたるわけですが、マルチタスク状態にある人間の脳では、脳の左右の半球が別々の動作をしていることが最新の研究でわかってきています。

The brain has more than one multitasking mode | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2016/12/the-brain-has-more-than-one-multitasking-mode/

健康的な人間の脳では、左右に分かれた「左脳」と「右脳」をつなぐ「脳梁」と呼ばれる部分が情報をやりとりして処理を行っています。よく「左脳人間」「右脳人間」という表現が使われることがありますが、実際には脳は左右で情報を伝達して処理しており、どちらか片方だけで活動しているというわけではありません。

この脳梁を含む脳の疾患が原因で異常な神経活動が起こる「てんかん」の症状を持つ人を治療する際に、脳梁をある程度切断して情報伝達を弱める「脳料離断術」という処置が施されることがあります。処置の結果、患者は一部の行動に支障をきたすこともありますが、実際には周囲が予想するよりも普通に生活を送ることができ、さらにはある種のマルチタスク作業に優れた能力を発揮するケースもあるそうです。これは、左右をつなぐ脳梁の機能が弱まったり失われたりしたために、左右の脳がお互いに何を実行しているのかが把握できないために起こる現象と考えられています。

By Kenny Stoltz

ウィスコンシン大学マディソン校の神経科学者による研究チームは、このような脳の動作がマルチタスク状態にある健常者の脳でも起こり、実際には脳梁が存在しているにもかかわらず、左右の脳が別々に情報の処理を行っていると考えました。笹井俊太朗博士らによる研究チームはコンピューターを使った運転シミュレータを使い、被験者が運転中に与えられた情報をどの部分で処理しているのかを調査しました。

研究チームは、脳内の血流を視覚化することができるfMRI(機能的磁気共鳴映像装置)を使うことで、シミュレーターを操作する被験者の脳の活動を詳細に調査。また、運転シミュレーター「Racer Free Car Simulation」を用いることで、同時に複数のことを処理する状況を、より実際の環境に近い状態で再現することが狙われています。


検証実験で被験者はまず、交差点や他の車両が走っていない2車線の道路を走行します。次に、その状態で2通りのタスクが与えられます。1つは「統合型(Integrated)」タスクと呼ばれるもので、運転中の被験者に対してカーナビのように車線を変更する指示を与え、被験者は指示に従って走行することが求められます。この時に被験者は「運転すること」と「指示を聞くこと」の2つのタスクを同時にこなすことになりますが、お互いの内容はいずれも運転に関わるものである「統合型」のタスクとなっています。

もう一つのタスクは、同じように運転しながら今度は道路標識などに従って車線を変更し、さらにラジオから流れる架空の番組を聞くように求められます。このラジオ番組を模したコンテンツは、運転する行為には全く関係ないものになっており、被験者は運転しながら全く関係のない内容を耳にするという「分離型(Split)」タスクを与えられます。なお、ナビによる指示とラジオの音声は同一人物のものが用いられているそうです。

このようにして2通りのタスクを与えて脳の活動を調べたところ、「統合型タスク」の場合は2種類のタスクを同じ1つのタスクとして脳内で処理している状態が明らかになったとのこと。逆に、「分離型タスク」の場合は、2つの脳の活動はお互いにあまり関わりを持たず、別個に動作している状態であることがわかったそうです。研究チームはこの状況について「運転に関係のない内容を聞くタスクが与えられている場合、脳は機能的に『運転』と『聞く』という2つの処理を分離させているようです」と記しています。

By Abhijit Bhaduri

今回の検証に参加した被験者は13名と少数であり、今後はさらに多くの検証を実施することが求められるところではありますが、脳内で同時に複数のタスクが独立して処理されていることが確認されたのは非常に重要な成果といえます。今後はタスクの種類を増やすことでマルチタスクしやすい機能とそうでない機能を把握したり、脳内のどの仕組みがマルチタスクの「スイッチ」を操作しているのかを突き詰めたりと、全容の把握にはさらに多くの検証が必要になりそうです。

研究チームによる論文は、以下のリンク先で公開されています。

Functional split brain in a driving/listening paradigm
http://www.pnas.org/content/early/2016/11/22/1613200113

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in サイエンス,   生き物, Posted by darkhorse_log

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