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どうやってソビエト連邦の子どもの贈り物が7年間もアメリカ大使を盗聴できたのか?

By NelC

第二次世界大戦後、在ソ連アメリカ大使の住居では「壁に耳がある」とささやかれていましたが、言葉とは裏腹に、盗聴器はまったく見当たりませんでした。結果的には、ボーイスカウトグループから寄贈された木彫りのアメリカ合衆国の国章の中に、この時代としては驚異的な技術で作られた盗聴器が埋め込まれていたのですが、見つかるまでには実に7年もの月日がかかりました。

How a Gift from Schoolchildren Let the Soviets Spy on the U.S. for 7 Years | Atlas Obscura
http://www.atlasobscura.com/articles/how-a-gift-from-schoolchildren-let-the-soviets-spy-on-the-us-for-7-years

1946年にVladimir Lenin All-Union Pioneerというソビエト連邦のボーイスカウトグループが、当時のアメリカ大使であるエーヴレル・ハリマン氏に木彫りの国章を寄贈しました。木彫りの国章は第二次世界大戦の同盟国の友好の証として、モスクワにあったアメリカ大使の住居「Spaso House」のドアに7年間にわたって飾られていたのですが、国章の中にはバッテリーもケーブルも不要な盗聴器「The Thing」が埋め込まれていました。


The Thingを発明したのは、楽器「テルミン」の発明者としても知られるレフ・セルゲーエヴィチ・テルミン氏。アメリカに住んでいたテルミン氏は、第二次世界大戦の勃発直前にソ連に帰国したのですが、すぐにソ連当局によって秘密研究所に送られ、Spaso House用の優れた盗聴器の開発を命じられたとのこと。


そこでテルミン氏が思いついたのは、アンテナとシリンダーにマイクとして機能する薄膜を備えた盗聴器。無線信号の周波数を合わせることで盗聴を開始でき、離れた場所から無線受信機で室内の会話を聴き取ることができたとのこと。電源・バッテリー・ケーブルなどを使わずに音波を無線信号で飛ばすという、当時としては画期的な技術で作られた盗聴器であり、誰もドアに設置された木彫りの国章の中に盗聴器があるとは考えなかったそうです。ソビエト軍の無線を傍受していたアメリカ軍とイギリス軍のオペレーターが、たまたま自国の外交官の会話をキャッチしたことから、「ソ連が高性能な盗聴器を使っている」という事実が知られることになりました。

1952年にジョージ・ケナン氏が新アメリカ大使として就任した時、Spaso Houseの壁に仕掛けられているとみられていた盗聴器の捜索が行われましたが、「どこからも盗聴器は発見されなかった」と報告されています。その後、アメリカ国務省でセキュリティ技術者を務めていたジョン・フォード氏とジョセフ・ベジアン氏が、より徹底的な捜索のため来賓を装ってSpaso Houseを訪れました。

2人がより高性能な検波機器を持って家中を捜索した結果、ある部屋のドア付近から信号が反響していることが判明。ドアに設置されていた木彫りの国章を撤去してドアを破壊しようとしていたところ、信号の反応が立てかけていた国章の方向に移動したことから、盗聴器はドアの中ではなく国章の中にあることがわかったそうです。国章の中からはなんと鉛筆よりも小さい盗聴器が発見され、7年間にわたる盗聴に幕が下ろされたわけです。


のちにSpaso Houseの盗聴に携わっていたソビエト連邦のチームが「冷戦で有利になるための情報を集めていた」と盗聴を認めています。

なお、着任からしばらく「見当たらないけれど、どこかには盗聴器があるはず」という状況のままSpaso Houseで生活していたケナン氏は、真夜中にロシア語でソ連批判を行うなど、別人を装って「見えない盗聴器」に話しかけていたとのことで、「本当に私がロシア人と一緒にいたと思ったのか、それともからかっているとバレていたのか、ソ連側の反応がどうだったのか気になります」と語っています。

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in ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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