歴史上最も多くの人間を殺している「蚊」のマラリアを根絶する「遺伝子組み換え蚊」問題まとめムービー
蚊を媒介して年間2億人もの人々がマラリアに感染し、毎年50万人もの命を失われています。遺伝子工学によりマラリアに抵抗を持つ「遺伝子組み換え蚊」がすでに創られており、人造の遺伝子を確実に遺伝させる技術も確立されているのですが、一度実行すれば元に戻すことはできないほど自然に変更を加えることから、いまだ実用化には至っていません。そんな遺伝子組み換え蚊の詳細がイラスト&日本語訳付きで理解できるムービーが公開されています。
How To Eradicate One Of Our Deadliest Enemies – Gene Drive & Malaria - YouTube
もし遺伝子工学によって最も危険な怪物を倒すことができたとしたら?
歴史上最も多く人間を殺している恐ろしい怪物は「蚊」と知られています。
蚊はデング熱・ジカ熱・黄熱や……
マラリアを媒介します。
マラリアは歴史上最悪の殺し屋と言われており……
2015年だけで感染者数は2億人にのぼり、そのうち50万人が死に至っています。
そんなマラリアは新しい技術で撲滅できるかもしれません。
その技術は生物全体を作り替えてしまう遺伝子組み換え技術であり……
すでにマラリアに耐性を持つ「遺伝子組み換え蚊」は完成しています。
この「遺伝子組み換え蚊」を実際に自然の中に放つかどうかが議論されています。
マラリアはマラリア原虫というたった1つの細胞からなる真核生物が、吸血昆虫を通じて脊椎動物に移動することで感染します。
マラリア原虫は蚊の中にひそんで、吸血の瞬間を狙っています。
蚊の唾液から人間の体内に侵入したマラリアは肝臓に向かい、免疫系に攻撃されないよう細胞内に隠れます。
肝臓の中で1カ月ほどかけて増殖したマラリアは「メロゾイト」という形態に変化し……
やがて肝臓内の細胞を飛び出して全身に拡散していきます。
血流に乗って移動する間は赤血球をターゲットにするのですが、マラリアは破壊した細胞の皮を被って移動することで、免疫系をやりすごすことができます。
殺した相手の皮をかぶって成り代わるというゾンビのような存在。
赤血球に入っては増殖して次の赤血球を攻撃する、という行動を繰り返すのですが……
壊れた細胞は有毒物質を放出するため、強い免疫反応を引き起こします。
免疫反応により人体には高熱・発汗・寒気・頭痛や……
筋肉痛・嘔吐・下痢などの症状として現れます。
脳まで感染すると昏睡状態になり、最悪の場合死に至るというわけです。
さらに感染者の血を吸った蚊を経由することで新たなターゲットに移動することができ、蚊と人間を行き来するサイクルを持っています。
2015年に小頭症を引き起こすジカ熱の分布が広がりましたが……
これも蚊が原因となっています。
蚊は優秀な病気の運び屋であり、2億年以上前から地球に存在しています。
地球上に数兆匹が生息しており、1匹が1度に300個もの卵を生んでものすごい勢いで繁殖していくため、絶滅させるのが不可能な「寄生虫のタクシー」とも呼ぶことができます。
そんな蚊の対抗手段として期待できるのが「CRISPR(クリスパー)」と呼ばれる新技術。
これまでに前例のない、1つの種全体を変えてしまうことができる遺伝子組み換え技術で、特定の遺伝性因子に対する抵抗性を持たせることができます。
クリスパーを使えば蚊を殺すのではなく、蚊の性質を変えることができ……
マラリアに特化した遺伝子抗体を蚊の遺伝子に加え、刺されても病気を媒介しない無害な蚊をつくり出すという試みです。
しかし「遺伝子組み換え蚊」をつくるだけでは十分ではありません。なぜなら遺伝子の型には2通りあり、人造の抗体を受け継ぐのは子孫の半分であるため……
自然の中に放っても抗体を持つ蚊はやがて少数派になってしまうからです。
この問題を解決する方法として確立されたのが「遺伝子ドライブ」と呼ばれる遺伝子操作技術。
特定の遺伝子を次世代に確実に受け継がせるというもので、「遺伝子組み換え蚊」の子孫の99.5%にマラリアを無害化する性質を遺伝させることに成功しています。
このように遺伝子を編集した蚊を自然界に放てば、マラリアに耐性を持つ蚊の遺伝子を急速に広めることができます。
遺伝子は永久的に残るため、マラリアは蚊の中に生息できなくなります。
また急速に環境を変化させることで、耐性を持つマラリアが出現する前に決着がつくと見られています。
マラリアでは毎年50万人の子どもが死亡しているため、このムービーが始まってからすでに5人が亡くなっていることになります。この技術を「すぐに使うべき」と主張する人も存在します。
蚊と寄生虫やウイルスは共生関係にあるわけではなく、マラリアが撲滅されても蚊の生活に問題は生じないとされています。
これが成功すれば、ほかにも蚊が媒介するデング熱やジカ熱、ダニのライム病、ハエのアフリカ睡眠病、ノミのペストにも対処できることになります。
一度に数多くの人の命を救うことができる技術なのですが、まだ開発されたばかりの新技術であるため、さまざまな懸念から実用化には至っていません。懸念の1つはこれまでに人類はこれほど大規模な変更を自然に加えたことがなく、一度実行すれば元に戻すことはできないということ。
前例がないため悪い結果になる可能性もゼロではなく、予測不可能な恐るべき状況を招くかもしれません。
マラリアの場合は蚊の形を改造するというわけではないため「問題ない」という声もあるのですが……
失敗すれば不用意に遺伝子を編集した蚊が繁殖してマラリアも撲滅できないということになり、いまだ議論に終わりは見えていません。
強力な技術であるため、慎重な議論が必要なのはもちろんなのですが、「技術を使わない」という決定は「毎日死んでいる1000人の子どもを見捨てる」ということを意味します。
そのためこの問題については公的な議論が求められており、どちらにせよ数年内の決断が迫られています。
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