遺伝子操作した蚊でマラリア・デング・ジカを媒介するネッタイシマカを撲滅する放出実験がアメリカ本土で実施される可能性


遺伝子操作した蚊を放出して野生の蚊と交尾させることで蚊の個体数を激減させ、蚊が媒介するマラリアなどの蔓延を抑制しようという試みが行われており、ブラジルなどの一部の国や地域ではすでに遺伝子操作した蚊の放出実験が行われています。そんな中、アメリカでもついにマラリアなどの病気の原因となる「ネッタイシマカを撲滅するために作られた遺伝子操作された蚊「OX513A」の放出実験に対する許可がアメリカ食品医薬品局(FDA)によって出されました。

Mosquitoes Are Deadly, So Why Not Kill Them All? - WSJ
http://www.wsj.com/articles/mosquitoes-are-deadly-so-why-not-kill-them-all-1472827158

The FDA just greenlit releasing mutant Zika-killing mosquitoes in Florida | Fusion
http://fusion.net/story/333793/oxitec-zika-fighting-mosquitoes/

人間を最も多く殺している動物として知られる蚊の中でも、ネッタイシマカはマラリア、黄熱病デング熱ジカ熱など少なくとも4種類の原虫・ウィルスを媒介することが知られており、カリフォルニア大学リバーサイド校の生物学者であるオマール・アクバリ准教授をして「文字通り世界で最も危険な動物」と言わしめるほどです。

この人間にとって脅威であるネッタイシマカを根絶させることで、各種病気の感染を防ごうという試みが続けられており、近年、遺伝子操作技術を使ってネッタイシマカを激減させる技術が開発されて注目を集めています。それらの中でもイギリスのOxitec社が開発した遺伝子組換型の蚊「OX513A」は、オスに組み込んだ遺伝子が特定の酵素を高濃度に蓄積させるという性質を持ち、オスと交尾したメスが生んだ幼虫はこの酵素によって成長できずに死に絶えるという特長を持ちます。このため、OX513Aのオスを大量に放出することで、交尾したメスが生む幼虫は生き残れず、結果としてネッタイシマカが激減することが期待されています。


Oxitecの開発したOX513Aを野生に放出してネッタイシマカを撲滅するという野外実験は、すでにブラジル、パナマ、ケイマン諸島などで行われており、実験ではいずれもその地域におけるネッタイシマカの個体数を90%以上も減らすことに成功したとのこと。ブラジルのプラシカバで行われた野外実験では、実験した年のデング熱の感染例が前年に比べて91%も減少したという成果を上げています。

もちろん、このような遺伝子操作した蚊を自然界に放出することに対する懸念の声も上がっており、その安全性に対する見解は科学者の間でも一致していません。「人間の欲求を満たすためにある種を絶滅に追い込むべきではありません」と述べる生命倫理研究所のグレゴリー・カエブニック研究員のように、生態系のバランスを崩すことで取り返しの付かない可能性を秘める行為は避けるべきだという慎重論を採る科学者がいる一方で、昆虫学者のザック・エーデルマン氏は「蚊を排除することは私たち科学者の道徳的な義務です」と答えるように蚊の根絶が生態系に与える影響度は小さく、それよりも人道上のメリットが上回るという科学者の意見もあります。

すでに限定された地域での野外実験において劇的な効果を見せるOX513Aについて、FDAは2016年3月にアメリカ・フロリダ州の島で野外実験をする手続きを開始して、FDAやOxitecそれぞれの影響評価が30日間公開され、さまざまな意見や異議申し立てが受け付けられました。その結果、2016年8月6日にFDAはフロリダ州におけるOX513Aの野外実験の許可を出すことになりました。もっとも、このFDAの許可によってOX513Aの野外実験が直ちに認められるというわけではなく、地域や州での承認手続きを経る必要があります。


FDAによって野外実験が許可されたOX513A以外にも、蚊を撲滅するための遺伝子操作技術は開発されており、中でもCrispr-Cas9を使ったゲノム編集によって、マラリア耐性を持つ遺伝子をほぼ100%に近い確率で遺伝させることで、マラリア原虫の撲滅を目指す動きなどもあります。すでに放射線処理によって不妊化したウリミバエなどのように成果を上げている不妊虫放飼のように、蚊を遺伝子操作することで病気の感染を抑制できるのかについて、アメリカ本土でも具体的な野外実験の可能性が高まったことでその是非を巡る議論がより白熱していくことになりそうです。

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