サイエンス

「瞬間移動(テレポーテーション)」を科学するとこうなる

By Emilio Küffer

「もしも、ひとつだけ好きな超能力を得られるとしたら?」と問いかけられ、意思の力だけで物体を動かす「念力」や発火能力の「パイロキネシス」などを自由自在に操る自分の姿を夢想したことがある人は多いはず。そんな幼い頃に憧れた超能力のひとつに、離れた場所に物体を一瞬で転送したり自分自身が瞬間的に移動したりする「テレポーテーション」があります。

The Trouble With Teleportation - Facts So Romantic - Nautilus
http://nautil.us/blog/the-trouble-with-teleportation

テレポーテーションは、ある場所に存在する物体を非物質化し、その正確な原子配置を別の場所に送るというものです。この時、原子配置などの情報は転送先で精巧に物質を再構成するために使用されると考えられます。FAXは通信回路を使って瞬時に画像データを転送することができますが、「情報を転送する」という意味において、FAXもテレポーテーションのようなものと考えることができます。

By Amos

しかし、量子レベルで考えるとこのテレポーテーションという現象はより複雑になります。

最初に「量子テレポーテーション」を公表したのは、IBMの物理学者であるチャールズ・ベネット氏とその同僚でした。公表されたのは1993年で、量子もつれの効果を利用した方法でした。その方法というのは、まず初めに転送したい粒子Aと量子もつれの状態にある2つの粒子(BとC)を用意します。次に、BとCを別々の場所に転送し、Aの情報をBに送信します。この時、BとCは量子もつれの状態にあるため、Bに転送されたあらゆる情報がCにも自動的に同期(転送)されます。ただし、Cには物理的な時間や空間を使用して情報を送信したわけではないので、CはAに姿を変えます。これは、Aを元いた場所からCが送られた場所まで転送、つまりはテレポーテーションさせたということになるわけです。

By Cezary Borysiuk

量子テレポーテーションが1993年に公表された後、1997年に物理学者のアントン・ツァイリンガー氏率いる研究チームが量子テレポーテーションの実験を成功させ、その後も2014年にジュネーブ大学の研究グループが25kmの量子テレポーテーションに成功するなどしています。

2001年にはデンマークの研究者がそれぞれ1兆個以上の原子を含むガス雲同士を量子もつれの状態にすることに成功しました。しかし、この2つのガス雲はたったひとつの窒素分子にぶつかるだけでも量子もつれが失われてしまうそうです。よって、量子テレポーテーションを実現させるには量子もつれの状態にあるペアがそれぞれ他の粒子などと反応しないように隔離する必要があるそうで、それを実現することは非常に困難なことだそうです。

そして、人体には10の28乗個の原子が存在し、その数は天文学的な数字だそうです。このとてつもない数の原子を量子もつれの状態でキープするだけでもとても大変なことは明らか。さらに、少数の原子を同時に振動させるだけでもとても困難なのに、量子テレポーテーションを実現するにはこれらを完璧に同期させる必要があるので、これがいかに大変なことかよくわかるはず。自然環境では物体が環境と常に相互に作用しており、一瞬にしてデコヒーレンスが生じます。よって、もしもテレポーテーションのために自分を構成する原子の情報を量子もつれを利用して転送しようとしても、デコヒーレンスにより瞬時に構成原子の情報が変わってしまうでしょう、とNautilusは記しています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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