観測から6年後にようやく「反物質(アンチマター)」が雷雲の中で発見

By gianni

ある物質と全く反対の性質を持つ物質のことを「反物質」と呼びます。この反物質が物質と衝突すると、2つは対消滅して莫大なエネルギーを放出すると考えられており、その性質から反物質はSF映画やアニメの中で取り上げられたりもします。そんな反物質が、なんと雷雲の中で検知されたことが明らかになりました。

Rogue antimatter found in thunderclouds : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/rogue-antimatter-found-in-thunderclouds-1.17526


エヴァンゲリオンシリーズで登場するポジトロンライフルは電子の反粒子である「陽電子」を使った架空の兵器で、伝説巨神イデオンに登場する反物質エンジンも反物質を応用した架空のエンジンです。SF作品で莫大なエネルギーとして扱われる反物質ですが、ニューハンプシャー大学で大気物理学者として働くジョセフ・ドワイヤー博士が、雷雲の中で予期せず反物質を検知していたことを明かしています。

これまでの長い期間、電子の反粒子である「陽電子」は放射性原子の崩壊により生み出されるもので、この崩壊現象は大気圏外から降り注ぐ宇宙線により引き起こされるものと考えられていました。しかし、過去10数年の研究により、ドワイヤー博士は激しい嵐が強い光とガンマ線を放出する際に陽電子を生成することを証明しました。

そこで、ドワイヤー博士はフロリダ工科大学と協力して大気中のガンマ線量の調査をスタートします。調査では粒子検知器をジェット機のガルフストリーム Vに取り付け、大気中のガンマ線量を計測していたそうです。

By Steven Byles

2009年の8月21日、ガルフストリーム Vがジョージア州の沿岸地域に向けて飛行していた際、激しい雷雨の中を飛行することになったそう。観測のためにガルフストリーム Vに乗り込んでいたドワイヤー博士が「本当に死ぬかと思った」と語るほど激しい嵐の中を飛んでいたわけですが、その時に検知器が偶然にも3つの波を検知します。検知したのは511キロ電子ボルトのガンマ線であったそうで、これは電子と陽電子が対消滅した際に発生したものと考えられました。なお、ガンマ線を検知したのはわずか0.2秒ほどのごくごく短い時間であったそうです。当時、研究チームはガンマ線を検知した時間からガルフストリーム Vは1キロメートルから2キロメートル程度の大きさの陽電子の雲に突っ込んだ、と結論をだしました。ただし、どうやって陽電子の雲が生成されたのかまでは不明であったそうです。

この陽電子生成のプロセスを明確にモデル化するのに、ドワイヤー博士たち研究チームは5年もの年月をかけています。しかし、検知したエネルギーは陽電子が対消滅した際のエネルギーとしては低すぎるものであったそうです。そういうわけで、研究チームは検知されたガンマ線が陽電子ではないとすれば、「陽電子から生じた宇宙線」もしくは「外宇宙から飛来してきて何かしらの粒子と衝突し、超高層大気中でにわか雨を発生させる高エネルギー粒子(ガンマ線を含む)」ではないかと推測しています。

By Mike Haller

そして観測から6年後の2015年になってようやく反物質が存在していたかもしれないことが明らかになったわけですが、CERNの粒子物理学者であるジャスパー・カークビー博士は、ドワイヤー博士の検知したデータには「確かに信号がある」としながらも、「ドワイヤー博士の解釈を裏付けるための説得力が足りていない」とコメントしています。より具体的に言うと、ドワイヤー博士の研究チームが推測した陽電子雲のサイズ推測があいまいすぎる、とのことです。

また、ロシアのLebedev Physical Instituteで働く大気物理学者のアレクサンンダー・ギュルヴィッチ博士は、雷雲の中では強力な磁場により航空機の翼付近が帯電し、これにより陽電子が生成される、とコメントしています。

結局のところ、ドワイヤー博士率いる研究チームが2009年に検知したものが陽電子だったのか、その他の未知の反物質であったのかは現在も不明なまま。そこで、現在ドワイヤー博士は粒子検知器を搭載した気球を激しい嵐の中に送り込むことで、反物質の検知を試みています。また、ドワイヤー博士は「雷雲の内部の奇妙な環境は、我々がようやく調査を開始したところである」と語っているので、今後の調査で何が検知されるのかに期待が高まるところです。

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in サイエンス, Posted by logu_ii