インタビュー

Blizzardのアジア地域を統括するマイケル・フォン氏に日本市場・eスポーツの展望・Blizzardのゲーム作りの理念などを聞いてきました


Overwatch(オーバーウォッチ)Hearthstone(ハースストーン)などの人気ゲームで知られるBlizzard Entertainment(ブリザード)が、台湾・台中に全高10フィート(約3メートル)のArthasのブロンズ像を建造しました。Arthasブロンズ像(Statue)のアンベールイベントのタイミングで、アジア各地域のオフィスを統括し、日本を含むアジア全域のマーケット開発の責任者であるマイケル・フォン氏に、日本市場での戦略、今後のeスポーツの展望、Statueに込められた意味、Blizzardのゲーム作りで貫かれている理念とはどのようなものかなどについて聞いてきました。

Blizzard Entertainmentのリージョナル・マネージング・ディレクター兼アジア方面パブリッシング担当上級副社長のマイケル・フォン氏。


GIGAZINE(以下、「G」と表記):
オーバーウォッチやハースストーンが日本でもヒットしています。とはいえ、海外に比べると、まだまだ大ブレイクというほどではありません。何が難しいのでしょうか?日本市場をどのように捉えていますか?

マイケル・フォン氏(以下、「フォン」と表記):
まず、ブリザードとしては日本のマーケットで成功していると思っています。ブリザードがビジネスを日本市場に広げたのはごく最近です。ディアブロ3でコンソールから始めて、2015年にハースストーンを日本語版で、そしてオーバーウォッチとリリースしてきました。

日本は世界でも最も大きなゲームマーケットの一つで、またユニークなマーケットでもあります。けれども、私たちは日本のマーケットに対してとても情熱を持っています。すでに、ハースストーンのようなとても強いゲームタイトルを持っています。ハースストーンのモバイルでの成功については非常に嬉しく思っていますし、興奮しています。そしてオーバーウォッチのコンソール(PS4)やPCでの成功についてもです。これらのゲームの成功を足がかりにして、日本にいる熱狂的なブリザードのファンに、ブリザードの勇壮なゲーム体験を提供することで、近い将来、日本での我々のサービスをさらに拡大するつもりです。


G:
ウォークラフトからハースストーンのリリースまで、少し間が開いたように思うのですが、これは準備を整えていたということですか?

フォン:
いろいろと理由はあるのですが、まず一つはゲームのローカライズには多くの作業があり、リリースまでに時間がかかります。ブリザードのコアバリューの一つとして「Commit To Quality(クオリティを約束する)」というものがありますが、われわれの要求するクオリティを満たすために必要な作業というものが多くあります。

G:
日本市場の特殊性というものは特に意識することなく、今後、日本で成功を収める自信がありますか?

フォン:
ええ。私は自信があります。ブリザードには世界中に多くのファンがいます。ブリザードは強いIP(intellectual property:知的財産)を持っています。そして、これまでにも日本人のわれわれに対する非常に強いパッション(情熱)を感じてきていますし、将来については楽観的で、強い自信を持っています。

G:
ブリザードとしては、特に「PCゲーム」市場を成長させたいと考えているのですか?仮に日本市場でコンソールやモバイルのゲーム市場が成功すれば、PCゲームが伸びなくても良いというように考えていますか?

フォン:
私たちはPCだけでなく、コンソールやモバイルでもゲームを開発しリリースしています。「できる限り多くの人にブリザードのゲームを届ける」というのが、常に私たちの目的となってきました。私たちは、ゲームのプラットフォームを決める上で、さまざまな要素を考慮しています。しかし、究極的にはそのゲーム性に照らして、最適なプラットフォームを決定します。これが、例えばハースストーンはPCやタブレット・スマートフォンで、オーバーウォッチやディアブロ3はPCやコンソールでリリースしたやり方です。

ブリザードの多くのゲームがPCをプラットフォームにしているので、PCゲームの市場が成長し続けることは喜ばしいことです。けれども、それ以外のプラットフォームにもブリザード・クオリティのゲーム体験をサポートし続けることについても同じように興奮しています。

G:
PCゲームだけでなく「eスポーツ」もまだまだ日本ではポピュラーではありません。どうして他のアジアの国と違って日本だけeスポーツがブレイクしていないと考えていますか?

フォン:
たしかに「eスポーツ」という呼び名はメジャーではないかもしれませんが、これまでにも日本でも数多くのゲーム大会がありました。ストリートファイターや鉄拳などです。eスポーツに近いゲーム大会は各地に多くあります。けれども、大きなトーナメント方式のゲーム大会やプロゲーマーの数はごくわずかです。最も大きな理由の一つは、法律(景品表示法)の制限のせいで大会の勝者に巨額の賞金を贈ることができないということでしょう。加えて、コンソールやアーケードのゲームイベントにスポンサーを募る難しさもあります。

しかし、eスポーツは日本でも徐々に人気を得てきています。Brizzcon 2015で行われたハースストーン世界大会で、日本を代表するハースストーンプレイヤーのKnoが、世界中から選りすぐられた才能あふれる多くの選手を打ち破ったとき、数え切れないほど多くの日本人ファンが声援を送りました。時差があるのにライブストリーミングを見ながらです。このときに私たちは日本でのeスポーツの可能性を感じることができました。

別の例もあります。2016年6月に横浜で行われたハースストーンのスプリングJAPANチャンピオンシップでは、500人を超える観客が集まりました。これは日本のeスポーツシーンにおいては巨大な数で、公式のウェブサイトで登録を開始してからわずか数時間で登録者数がリミットに達したほどです。TBSのNスタも大会を撮影に来ましたし、フジテレビも「いいすぽ!」というeスポーツ専門チャンネルを開始しました。多くの日本人が、「ゲーム大会はなんて楽しいんだ!」というように見始めています。近い将来、日本でのeスポーツは他の多くの国と同じようにビッグになる可能性はあると思います。


G:
ブリザードのゲームはどれも強力なコミュニティを持っています。長年に渡ってコミュニティづくりの「舵取り」でわかってきた、コミュニティの大切さをどう考えていますか?なぜ、ブリザードはコミュニティをそこまで大切にしているのですか?

フォン:
まず、ブリザードでは「Every Voice Matters(重要でない言葉などない)」ということを信じています。また、素晴らしいアイデアはどこか別のところから来るものだということも。ブリザードが今日あるのは、プレイヤーの声に耳を傾けてきたからです。コミュニケーションを継続的にとるというのは難しいことですけれど、私たちはコミュニティの助けによって素晴らしいゲームが作られることを理解しています。そしてコミュニティとやりとりをして連動します。それにはいろいろなチャンネルがあり、例えばウェブサイトだったり、redditなどの掲示板だったり。

コミュニティは、ブリザードにとって最も大切な資産の一つです。コミュニティに私たちの感謝の気持ちを伝えるために、2005年からBlizzconという大きなイベントをアナハイムで開催して、2日間、ファンの方と体験をシェアしています。そのイベントの中で最新のゲームをどこよりも早く紹介しています。イベントを通じて私たちのゲームに対する情熱をコミュニティと一緒に共有するためです。

25年間のブリザードの歴史から、「情熱的なコミュニティ」こそがゲーム会社にとって最も大切な物だと学んできたのです。ですから、今後もコミュニティとともにゲームを作っていくつもりです。もちろん、日本でもそうです。日本のコミュニティと、これまでよりももっと頻繁に、さまざまなチャンネルを通じて交流したい。将来は、Fireside Gatheringsのようなコミュニティイベントができればと考えています。


G:
いきなりコミュニティ作りに成功した、というわけではないと思います。コミュニティ作りで難しいことは何ですか?

フォン:
継続的にコミュニケーションを取っていくのは大変だと感じています。プロアクティブだったり、リアクティブだったり、両方の側面があると思います。例えば、ファンからもらった声を、実際にゲームに活かすこともあれば、活かせないことも当然ながらあります。そういった場合でも、「Every Voice Matters(重要でない言葉などない)」にあるとおり、ファンが「ブリザードは(自分たちの声を)ちゃんと聞いている」と思っていただくことが大切だと考えています。

G:
たしかに、オーバーウォッチのトレーサーの「勝利ポーズ」に対する「性的な表現ではないか?」という過剰とも思える声にも真摯に対応していたのが印象的でした。そこでなのですが、日本のゲーマーがフィードバックをもたらすために、ブリザード・ジャパンのような組織を設立する予定はないのですか?窓口があると非常に助かるのですが。

フォン:
今のところ具体的なプランはないのですが、これまでリリースしたゲームから日本のプレイヤーのパッションは強く感じています。日本での展開に向けてどうすればいいのか、というのは常に検討・評価するプロセスにはあります。

G:
このインタビューでもたびたび出てきている、ブリザードのゲーム開発の姿勢そのものとも言える8つのコアバリュー「Gameplay First(ゲームプレイ第一)」「Commit To Quality(クオリティを約束する)」「Play Nice; Play Fair(ナイスかつフェアにプレイする)」「Embrace Your Inner Geek(内なるギーク魂を大切にする)」「Every Voice Matters(重要でない言葉などない)」「Think Globally(グローバルに考える)」「Lead Responsibly(責任をリードする)」「Learn & Grow(学び、成長する)」はどういう経緯で決まったのですか?

フォン:
1994年に設立されてすぐに、ブリザードは短い期間でとても人気のあるゲーミング会社になりました。そして、コンピューターゲーム業界において、リスペクトされる会社になりました。会社が成長するにつれて、マイケル・モーハイムたちブリーザードのリーダーは、設立当初から存在していたブリザードの「価値観」を共有する必要性を感じました。そうして、「dedicated to creating the most epic entertainment experiences ever(史上最高のエンターテインメント体験を創り出すことに捧ぐ)」というミッションステートメントと、8つのコアバリューが誕生したのです。これらのコアバリューは、長年を通してブリザードを導いてきた原理や信念を表しています。それらは、従業員の日々の意志決定や行動に反映されています。

G:
コアバリューはある日突然生み出されたものではなく、徐々に徐々に培われてきたものでしょうか?

フォン:
コアバリューはブリザードがスタートした当初からあったもの、創業者たちが持っていたものです。時間がたつにつれて従業員も増えてきて、理念をシェアするためにこうやって具体的な文章にしたものなのです。


G:
ゲーム製作についてお聞きします。ゲーム開発は大作であればあるほど時間がかかるものですが、ブリザードは時間をかけて開発してきたタイトルであってもダメだと判断したら容赦なく捨ててしまうことがありますね。どういう基準で「これはダメだ」と判断しているのですか?どういう判断の積み重ねで中止の決定を下すに至るのですか?

フォン:
ブリザードがしているあらゆることが、ゲームプレイヤーに「最高のゲーミング体験をしてもらう」という目的に基づいています。先ほど挙げたブリザードの8つの原理は、すべてこのゴールのためです。映像美、プログラミング、カスタマーサポートなどあらゆる点で、ブリザードがリーチできるすべての人に、可能な限り楽しんでもらいたいというのがゴールなのです。

ブリザードで働くすべての人がゲーマーであり、ブリザードが開発するゲームのプレイヤーです。私たち自身が開発中のゲームを楽しめるならば、ブリザードのファンにも楽しんでもらえる準備ができているということです。もしも、そうではなくゲームが私たち(の思い)について来られず、私たちが追い求めているものを満たしていないならば、「そのプロジェクトにさらなる投資をするべきか?」それとも「開発を辞めるべきか?」という非常に難しい判断をしなければなりません。そして、私たちは別のものに注力していかなければなりません。

ブリザードのコアバリューの一つ「Commit to Quality」に従って、私たちはゲーム開発プロセスでの「反復」に重きを置き、できる限りゲームを洗練させるために多くの時間とリソースを投資します。また、ゲーム開発プロセスを通じて、クローズドなアルファ版からオープンなベータ版まであらゆるテストからフィードバックを受けています。これはBlizzconのようなイベントで初めてファンの反応を確かめるパブリックなテストも含まれます。こういったテストを通じて、これは「史上最高のエンターテインメント体験を届けられる」と思えた場合は、リリースすることになります。さらに重要なのは、ゲームをリリースした後にコミュニティを注視し続けて、フィードバックを続けて、ゲームをずっと楽しめるようにしていくことがすごく重要な事だと考えています。


G:
ゲーマーである開発者自身が楽しめるものが前提条件ということですね。そうすると逆に、上級者のみが楽しめるようなゲームになってしまうという危険もありそうですが、上級者向けのゲームになってしまうことはないのですか?

フォン:
「できる限り多くの人にepicな体験を届ける」というのが最優先課題としてあります。そのために、PCだけでなくコンソールやモバイルでもゲームを出しています。コアバリューにはない一つの哲学として「Easy to play, Hard to master(プレイするのは簡単だけれど、マスターするのは難しい)」というものがあります。ですから、上級者だけのためにゲームを開発するということは考えていません。

G:
最後に。ブリザードは台湾・台中でアジア初となるStatue(銅像)を建造することになりましたね。ブリザードはStatueが大好きですが、なぜStatueを作り始めたのですか?

アジアでは初となるBlizzardの理念を象徴する巨大な「Arthas」Statue(銅像)のお披露目イベントに行ってきました - GIGAZINE


フォン:
エンターテインメントカンパニーとして、ブリザードのゲームの世界観を可能な限り体験してもらう機会を作りたいと考えています。いろんな人にブリザードの世界にアクセスしてもらいたいと思っています。例えば、ゲームやトレーラームービー、映画、コミック、フィギュアなどの商品を通じてブリザードの世界を紹介してきました。日本でWarcraftのムービーを2016年7月にリリースしたように。そういった取り組みのひとつが、Statueなのです。

G:
アジアでは台中が初とのことですが、今後も世界中にブリザードのStatueを作る予定ですか?将来的に日本でも作る可能性がありますか?

フォン:
台中でお披露目するもの以外にも2つ銅像があって、一つは2009年にブリザード本社にできた「オーク」のStatueが、もう一つはEUのオフィスにあるスタークラフトの「カラガン」のStatueが2012年にできて、今回が3体目です。もちろん、日本でも作れたらいいなあと思っています。


G:
本日は、お忙しい中、ありがとうございました。

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in 取材,   インタビュー,   ゲーム, Posted by darkhorse_log

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