超有名ゲームメーカー「ブリザード」が25年もトップを走り続けることができた理由

By Holger Fischer

「ウォークラフト(Warcraft)」「ディアブロ(Diablo)」「スタークラフト(スタークラフト)」シリーズなど、世界中で大ヒットしいまだにトップクラスの売上を誇るオンラインゲームを生み出したのが「ブリザード(Blizzard Entertainment)」という企業です。創業から25年が経過した2016年現在でもブリザードはオンラインゲーム業界のトップに君臨しているのですが、IT関連メディアのVenture Beatがブリザードの創業者や開発者にインタビューを実施し、その秘密に迫っています。

How Blizzard stayed laser-focused on quality games for 25 years | GamesBeat | Games | by Dean Takahashi
http://venturebeat.com/2016/02/08/how-blizzard-stayed-laser-focused-on-quality-games-for-25-years/

◆シリコン&シナプス(Silicon&Synapse)創業
ブリザードは、もともと「シリコン&シナプス」という1991年8月に設立された会社。創業メンバーの1人で、前CEOのアレン・アダム氏は高校時代の夏休みに自らのコーディングテクニックを生かしフリーランスとして仕事を受けてお小遣いを稼ぐ青年でした。当時はアーケードゲームが主流で、スペースインベーダーアステロイドといったゲームが大流行していた時代です。

アダム氏は兄弟と相談し「勉強に使うため」とちょっとしたウソをついて父親にコンピュータを購入してもらいます。コーディングのためにコンピュータを使用することもあったそうですが、大半はゲームをプレイするのにコンピュータを使用していたとのこと。

アダム氏は1990年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)コンピュータサイエンス学部を卒業し、父親からヨーロッパで勉強するための資金1万ドル(当時のレートで約150万円)をもらいましたが、ゲームを愛しゲーム関連の仕事で生活していきたかった同氏は父親からもらった1万ドルを使って「シリコン&シナプス」を設立。

アダム氏の同級生だった現CEOのマイク・モーヘイム氏は、すでにハードウェアメーカーのWestern Digitalに就職していましたが、アダム氏による1年がかりの説得の末にシリコン&シナプスの立ち上げに協力することになりました。ブリザードで開発部門のエクゼクティブ副社長を務めるフランク・ピアース氏も、ほぼ同時期にアダム氏の説得を受けて創業を手伝うことになったそうです。

ブリザードで欠かせない人物にまでなったモーヘイム氏とピアース氏を口説き落としたのは「僕たちはまだ若い。住宅ローンも家族も持っていない。失うものは時間だけだ。1年だけでもいいからやってみよう。成功すれば万々歳。もし失敗しても経験の糧とすればいい」というアダム氏の説得でした。モーヘイム氏は「彼は最高の営業マンだったと思うよ」と、当時のアダム氏を形容しています。

創業当時はリリース済みのゲームを異なるプラットフォームに対応させるのが主な仕事でしたが、この仕事っぷりが地元の販売会社だったInterplayのブライアン・ファーゴ氏の目にとまり、スーパーファミコン用ゲームの開発に取り組むことになりました。スーパーファミコンは日本製のため、開発用のマニュアルが英語に翻訳されていない現状があったそうで、3人は四苦八苦しながらゲームを作り、ついに1991年に「R.P.M.レーシング」というゲームをInterplayから発売。

R.P.M.レーシングで4万ドル(当時のレートで約600万円)を得たシリコン&シナプスは、次に「Rock n' Roll Racing」というゲームをメガドライブ・スーパーファミコン向けにリリースしました。

シリコン&シナプス時代の写真。手前右のストライプのシャツを着ているのがアダム氏で、一番右側に写っているのがモーヘイム氏です。


シリコン&シナプスが次に着手したのが「The Lost Vikings」というゲームです。同社が完成間近のThe Lost VikingsをInterplayのファーゴ氏に見せたところ「難度が高すぎるし、登場するバイキングたちのキャラクターデザインが全員同じに見える」など、かなり厳しいフィードバックが返ってきました。シリコン&シナプスはファーゴ氏の指摘を修正する資金がほとんどなくピンチに陥りますが、ファーゴ氏から追加資金を得て何とか修正を反映。バイキングのキャラクター数を50体から3体に減らすなど修正は大きな負荷がかかる作業になったものの、何度も繰り返されたフィードバックによりクオリティは大きくアップ。

モーヘイム氏は「修正作業から学んだことはとても多く、私たちにとって有益なレッスンになりました。『フィードバックを繰り返し完全なものを作るまでリリースしない』という開発プロセスは、今までにリリースした全てのゲームで採用されています」と語っており、The Lost Vikingsがシリコン&シナプスの未来を占う大きなターニングポイントになったようです。

◆伝説のゲームの誕生
シリコン&シナプスの競合であったウエストウッドスタジオが1992年に「Dune II」というゲームをPC向けにリリースしました。Dune IIは、リアルタイムで進行する時間に対応しつつ敵と戦う「リアルタイムストラテジーゲーム(RTS)」の走りとも言えるタイトルで、アダム氏がよく言葉にしていた「手に汗握るゲーム」という表現がピッタリ当てはまるものでした。

モーヘイム氏は「初めてDune IIをプレイしたとき、むちゃくちゃ面白いと思いました。リアルタイムストラテジーというジャンルに一瞬で魅了されましたね。ただし、Dune IIはシングルプレイ専用。我々は、マルチプレイヤーに対応したリアルタイムストラテジーゲームを作ったらかなり面白くなると考えたんです。あと、ファンタジーの世界観が大好きだったので、それもリアルタイムストラテジーゲームに取り入れられたらと考えました」と、Dune IIからマルチプレイヤー対応のリアルタイムストラテジーゲームのヒントを得たことを明らかにしています。

こうしてシリコン&シナプスの開発陣は後の大ヒット作となる「Warcraft: Orcs & Humans」の開発に乗り出したというわけです。


シリコン&シナプスは「カオススタジオ」へと社名を変更した後、資本不足から教育向けソフトウェアを手がける「Davidson&Associates」という企業に会社を売却。ただし、Davidson&Associatesは経営には一切口を挟まず、若者たちで自由に開発してもよい、という好条件を提示しました。Davidson&Associatesの下で、カオススタジオから「ブリザード」へと社名を変更し、「Warcraft: Orcs & Humans」の開発が続行され、1994年に同ゲームがMS-DOS向けに発売されました。


「Warcraft: Orcs & Humans」の発売から1年後の1995年、ブリザードはたった8人の開発メンバーだけで「Warcraft II: Tides of Darkness」をリリース。このゲームは、ローカルネットワーク経由で他のプレイヤーと対戦する前作と違いインターネットを介して世界中のプレイヤーたちと対戦できるということで、同社として初めてゲームの販売ランキングの1位を獲得。翌年の1996年には拡張パックをリリースし、ブリザードはリアルタイムストラテジー市場でしのぎを削っていたウエストウッドやMicrosoftなどと肩を並べる企業にまで成長していきます。

◆Diabloで開かれたMORPGのドア
ブリザードは1996年に「Condor」というゲーム開発会社を買収。買収の後、Condorは「ブリザード North」へと社名を変更し、同社のMax Schaefer氏、Erich Schaefer氏、David Brevik氏たちが1996年に「Diablo」を世に送り出しました。ハックアンドスラッシュ系アクションRPGのDiabloは専用のサーバーを介して複数人が同じ空間で同時プレイできるというオンラインゲーム。Condorのときから開発が進められていましたが、ブリザードによる買収の後は一気に開発スピードが上がりリリースにこぎつけました。


Diabloはリリース直後から爆発的に販売本数を伸ばし、1996年の「GameSpot Game of the Year Award」を受賞。Schaefer氏は「我々はブリザードに買収された後、ゲーム開発におけるプロフェッショナルがどういうことなのかを学びました。これは今でも弊社の社員に受け継がれています。ブリザードは競争があり、かつサポートも充実していてゲーム開発者として働くのには最高の職場。ゲームの質を下げないためのたゆまぬ努力を学ばせてくれたことには、感謝の言葉しかありません」と当時を振り返っています。

◆予想できなかったスタークラフトのヒット
ブリザードが開発した名作ゲームの1つが「スタークラフト」です。SFリアルタイムストラテジーゲームとして開発が始まったスタークラフトでしたが、予定されていた1996年のリリースは間に合わず、最終的にリリースされたのは予定よりも約2年遅れの1998年でした。


なぜスタークラフトの発売が遅れたのかというと、ディアブロのヒットを受けたブリザードが「スタークラフトのクオリティーをもっとあげななければいけない」と決めたから。スタークラフトと並行して80タイトル以上のゲームが開発中で、その中で勝ち残るには質をもっと高める必要があったというわけです。開発中のスタークラフトはWarcraftと比べると完成度が低く、バグも多かったためテストプレイすらままならないこともありました。

スタークラフトの開発には当時のCEOだったアダム氏が深く関わっていて、最終的には30もの開発チームがスタークラフトに参加。2年遅れのリリースとなったスタークラフトですが、1998年のリリース時には発売延期に対するユーザーからの大きな批判はありませんでした。

バグやクラッシュといった問題はリリース後のパッチ配布で修正し、結果的にスタークラフトは大ヒットを収めることに成功。特に韓国では専用のリーグが誕生するなどすさまじいほどの人気を誇りました。Interplayでブリザードの成長を目の当たりにしてきたピアース氏は「ディアブロとスタークラフトのヒットによって、ブリザードは我々の予想を大きく上回るほど発展しました。スタークラフトは世界で初めて巨大なプレイヤーコミュニティを作り上げ、e-Sportsを誕生させたゲームです。ディアブロとスタークラフトの登場で、世界に巨大なオンラインコミュニティが生まれました」と語っています。

◆アダム氏の辞任
ウォークラフト・ディアブロ・スタークラフトシリーズの大ヒットを見届け、創業者の1人であるアダム氏はCEOの座を辞任し自身でヘッジファンドを設立。1997年にブリザードに加わりスタークラフトの開発に携わったロブ・パドロ氏によれば、アダム氏はいつも仕事に熱心で時には働き過ぎではないかと心配するほどだったとのこと。また、ゲームではない他のことにチャレンジしたいという願望もあったそうです。


アダム氏の後を引き継いでCEOに就任したのは、創業者の1人であるモーヘイム氏。モーヘイム氏はCEOに就任したことで親会社のDavidson&Associatesと業務を行うことが増えたものの、2016年時点でもゲーム開発に携わっています。

◆リリースのキャンセルに隠された事実
ブリザードは創業以来、「Nomad」「Raiko」「ウォークラフトアドベンチャー」など少なくとも10タイトルのゲームのリリースをキャンセルしてきました。ゲームのリリースをキャンセルすることは、ファンにとってはつらいモノがありますが、これもゲームのクオリティを保ったり、勝ち目のない勝負をかけたりしないためです。


例えば「ウォークラフトアドベンチャー」の場合、同じ時期にLucasArtsの「Grim Fandango」というゲームのリリースが控えていました。Grim Fandangoはクオリティが非常に高く、同ジャンルのウォークラフトアドベンチャーに勝ち目がないと考えたモーヘイム氏は迷うことなくリリースをキャンセル。

開発が進んでいるゲームでもやめる勇気が必要という企業文化について、モーヘイム氏は「説明するのはとても難しいのですが……私たちは巨大なロックバンドのようなものです。ゲームをキャンセルせざるを得ない場合、私たちがそのゲームに魂を感じられていないということ。私たちは強いチームであり、強い力で結ばれています。今回のゲームをキャンセルしても、次のゲームでホームランを打てばいい。時にはうまくいかないこともありますが、私たちは自分たちがなぜブリザードにいるのか、その理由を長期的な視点で捉えているのです」と説明しています。

◆ブリザードの現在と今後
ブリザードは2014年3月11日にウォークラフトシリーズの世界観を背景とするトレーディングカードゲーム「ハースストーン(Hearthstone: Heroes of Warcraft)」をリリース。日本語版も2015年10月21日に配信されたハースストーンはダウンロードおよび基本利用料金が無料でアイテム課金制というビジネスモデルを採用しています。リリースから2016年2月までで、なんと5億ドル(約560億円)という驚異的な売上をあげ、e-Sportsやストリーミングの市場で最も人気があるゲームの1つにまで上り詰めました。


また、2015年6月3日には自社タイトルのキャラクターを使用した「Heroes of the Storm」のサービスを開始。Heroes of the Stormは5人対5人の2チームにわかれ、「ウォークラフト」「スタークラフト」「Diablo」「The Lost Vikings」などの過去作品に登場した主要キャラクターたちを操作して相手チームの拠点制圧を目指すというMOBA(Multiplayer Online Battle Arena)です。「League of Legends」を代表とするMOBAというジャンルに切り込んだ同タイトルはテストに1年以上の期間が費やされました。

新しいジャンルでもヒット作を連発するブリザードは、2016年現在「Overwatch」というゲームを開発中。OverwatchはFPSのジャンルのゲームで、キャンセルされた「Project Titan」というゲームの開発者が開発に携わっています。クローズドベータテストでは世界中から700万人ものユーザーがテストプレイを行い、リリース前から注目度はかなり高いと言えそう。また、日本でもスクウェア・エニックスからPS4版の発売が決定しており、発売は2016年春ごろに予定されています。

◆ブリザードがトップであり続ける理由
モーヘイム氏はブリザードがトップであり続けるのは「クオリティへのこだわり」と説明しています。そのために、BlizzConというイベントを開いてファンとの交流を深め、開発者たちもファンとのコミュニケーションをSNSで行っています。これらは全てファンの期待を裏切らないため。「最高のゲーム体験をファンに届けることを創業以来ずっと最優先事項にしてきました。その1点にだけ集中し、ファンが満足してくれたときの達成感は素晴らしいものがあります。これが私たちの足を前に進ませているのです」とモーヘイム氏は話しています。

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in ゲーム, Posted by darkhorse_log