遺伝子上の「第3の親」を持つマウスは長生きするという研究結果

by Stuart Caie

生物は細胞核にあるDNA(核DNA)に加えて、細胞質のミトコンドリアにも独自のDNAを持っています。マウスを用いた実験で、核DNAのミトコンドリアDNAの組み合わせによって生物の寿命が延びることが判明しています。

Mitochondrial and nuclear DNA matching shapes metabolism and healthy ageing : Nature : Nature Research
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature18618.html

Having three genetic parents makes mice age better | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2016/07/having-three-genetic-parents-makes-mice-age-better/

ミトコンドリアが独自のDNA「ミトコンドリアDNA(mtDNA)」を持っているのは、はるか昔にミトコンドリアが好気性細胞だったためです。その後ミトコンドリアは安全性を確保するために、真核細胞に共生して、宿主となる細胞のエネルギーを増幅する役割を担うようになりました。

by NIH Image Gallery

ミトコンドリアは、細胞の中で酸素を取り入れて好気呼吸を行い、エネルギーの放出や貯蔵、物質の代謝や合成を担うアデノシン三リン酸(ATP)を合成するため、細胞の中で発電所や製造工場に例えられます。mtDNAは好気呼吸を必要とするタンパク質をコード化していますが、全てのタンパク質をコード化しているわけではありません。理由としては、好気呼吸自体にも、細胞の染色体によってコード化されるタンパク質を必要とするためです。

多くの疾病にはmtDNAの突然変異(塩基置換)が関係しているため、ミトコンドリアに由来する疾病を避けるためにミトコンドリアの移植の影響が研究されています。ミトコンドリアを第三者から譲り受けた人は、母親から譲り受けた核DNAと、父親から譲り受けた核DNAに加えて、第三者から譲り受けたmtDNAを持つようになり、3種類のDNAが体内に存在します。このような手術はあまり前例がないため、倫理的な理由から討論が巻き起こっています。

しかしながら、最新の研究では、第3のDNAを持つ人間について研究する価値があることが示唆されています。科学雑誌Natureに掲載された論文には、核DNAが同一でmtDNAが異なるマウスを使った実験について記されています。実験室では遺伝子が全く同じマウスを作ることが可能なため、ある種類のマウスの核DNAを使い、別の種類のマウスからmtDNAを取り出すことでこのような実験を行うことができるとのこと。

実験では、マウスに対して総合テストを行い、マウスの体内で生成されるRNAとタンパク質、代謝作用に関係する化学物質を検査し、核DNAとmtDNAのマッチングの影響をマウスの生理的・生化学的な機能と合わせて分析しました。すると、ほとんどのmtDNAがマウスにいい影響を与えていることが判明したとのこと。外来種のマウスからmtDNAを与えられたマウスは寿命が延びて、腫瘍が発生しにくいことが明らかになりました。また第三者から与えられたmtDNAを持つマウスは、そうではないマウスに比べて、代謝作用の副産物として発生する活性酸素によるダメージに耐性があることも判明し、さらに体内の糖とコレステロール値を調整する機能も優れていることが判明しました。論文では、「mtDNAは健康寿命を延ばすことができる」と結論づけています。

by Charles Clegg

しかし、核DNAとmtDNAのマッチングが非常にうまくいったのは、何十種類もの異なる核DNAとmtDNAの組み合わせのうちたった1組だけだったとのこと。また、論文では人間が持つ複雑な遺伝的背景には触れられておらず、第三者から与えられたmtDNAの好影響が人間にも当てはまるのかどうかは、今後の研究が待たれます。