インタビュー

誕生して1年未満の新生アニメ制作会社「絵梦(えもん)」を訪問してきました


2015年10月、新たなアニメーション制作会社「絵梦(えもん)」が生まれました。既存のアニメ制作会社のプロデューサーやスタッフが独立して新しいスタジオが設立されるというケースはよく見かけますが、絵梦はこの例とは異なり、上海で創業した「上海絵界文化伝播有限公司」の日本の子会社として生み出されました。

今回は絵梦を訪問して、どんなところなのかを見た上で、広報の方にいろいろな話を伺ってきました。

絵梦株式会社 | 絵夢(エモン)株式会社
http://www.haoliners.jp/

絵梦株式会社(公式)(@tokyo_emon)さん | Twitter
https://twitter.com/tokyo_emon

絵梦の所在地は東京都武蔵野市吉祥寺本町1-32-1。JR吉祥寺駅の中央口を北側へ出て、JR中央線の高架沿いに東へ徒歩2分ぐらいです。


角地にある5階建ての建物、これが絵梦です。建物正面には「霊剣山 星屑たちの宴」DVD第1巻発売告知。フロアでいうと3階分の巨大広告で、中央線からよく見えます。


建物正面、入口の上には「CHAPEL PHOTO WEDDING Main」の文字がありますが、これは絵梦の前に入っていた会社の看板などがそのまま残っているためで、ちょうど訪問時は改装工事中だったのでした。


わかりやすいように、正面入口にアニメポスターと「絵梦株式会社」という表札が出ていました。


1階はまさに受付へと大改装工事中。


工事が終わってしまうともう見られない、貴重なタイミングでの訪問となりました。


正面に掲げる予定だと思われる「HAOLINERS ANIMATION 絵梦」の看板が用意されていました。


2階は制作部門のオフィス。


オフィスとしての利用で邪魔にならない内装などはそのまま残されているため、照明器具が非常におしゃれでした。


同じく2階にある会議スペース。


3階には作画部門がありますが、現在まさに多くの人がバリバリと作業中だということで、扉の外から見学させてもらいました。もとはフォトスタジオだったようです。


内部は机といすがぎっしり並んでいました。それぞれの机に目隠しがついていて作業に集中できる一方で、立ち上がればオフィスをほぼぐるっと見渡せるような感じになっていました。


4階・5階には3Dの会社が入ることになるとのことで、現在改装作業が進められていました。ちなみに、階段の外側には元チャペルらしくステンドグラスが設置されていて、これは改装後も残される予定。こじゃれたオフィスビルになりそうです。


会社の内部を案内してもらったのに引き続いて、広報を担当している弥永菜緒さんに、会社のことや作品のことについていろいろ話を聞いてみました。


GIGAZINE(以下、G):
先ほど建物の中を見せてもらったのですが、引き続き、会社についてお話を伺っていきたいと思います。

絵梦株式会社 広報 弥永菜緖さん(以下、弥永):
よろしくお願いします。弊社のもとをたどると、代表取締役の李豪凌が個人名義で2013年に「HAOLINERS STUDIO」を設立したところから始まります。その翌年、2014年に「上海絵界文化伝播有限公司」が設立され、アニメブランド「絵梦アニメーション」が立ち上げられました。その絵梦アニメーションの日本での組織が弊社です。

G:
「絵梦」というのはちょっと変わった名前ですね。

弥永:
「夢」という字を簡体字で書くと「梦」になって、「絵梦」で「夢を画(えが)く」という意味なんです。

G:
「HAOLINERS」というブランドで多数の作品を展開されていると伺いました。

弥永:
だいたい、中国のネット動画の80%は絵梦が制作したものです。テレビアニメとは違って、視聴者層は主に15歳から35歳ぐらいですね。

G:
この「HAOLINERS」ブランドが、2016年7月から放送の始まる「一人之下 the outcast」でいよいよ日本に進出されると。

TVアニメ「一人之下」公式サイト
http://hitorinoshita.com/

弥永:
原作は中国のウェブ漫画です。ゾンビが出てくるところにインパクトがあるのですが、超能力バトルものの要素も含んでいて、現地では3億PVを越える人気作品です。

G:
3億!最初から桁が違う……(笑)

弥永:
やはり中国は人口も多いですから、全人口のうちの1割の人が見るだけでも1億PVを越えますので、日本とは単位が違いますね。

G:
持っている常識がまったく通用しない気がします。向こうでも多数の作品があると思いますが、その中でも人気の作品なのですか?

弥永:
人気作品の中から選りすぐってアニメ化企画を進めています。

G:
この作品については「中国で人気を博したアニメを日本に持ってきた」というわけではないんですよね。

弥永:
はい、日中同時放送です。日本ではTOKYO MXさんでの放送がありますが、中国では配信がメインです。

G:
おおー、同時なんですか。

弥永:
日本でもいろいろなサイトでのネット配信が行われることが決まりました。

G:
これは嬉しいですね。どうしても、放送局によって放送時間や放送日にずれが出て、「Twitterで先に盛り上がってる!悔しい!」みたいなことがありますから(笑)

弥永:
多くの人に盛り上がってもらえると幸いです。

G:
AnimeJapanのときにブースを拝見したら「銀の墓守り(ぎんのガーディアン)」がメインの展示になっていて、続々と作品を送り出す予定だというお話を伺いました。

2016.03.16『銀の墓守り』アニメ化始動!Anime Japan2016出展
(PDFファイル)http://www.haoliners.jp/EMON_files/press_2016animejapan.pdf


『銀の墓守り』ティザープロモーションムービー - YouTube


弥永:
そうですね、「銀の墓守り」が2017年公開予定の作品となっていて……他にも様々な作品が放送されることになっています。


G:
! AnimeJapanのときに銀の墓守りを拝見して「ほほー、この作品で切り込んで来るわけか」と思っていたら、「一人之下 the outcast」が7月から始まるという情報がやってきて、そして他作品も出てくることになっているんですね。中国ではバトルものの作品が人気ですか?

弥永:
中国の漫画を原作とした作品では、バトルものの人気が高いという印象があります。中国はテレビの規制が厳しい代わりに、ネット配信のアニメや漫画の方が自由がきく部分があって、テレビでは放送できないようなバトルものが発達しているという部分はあるのかもしれません。

G:
2016年に入ってからか、中国アニメはすごく質が高いという話をよく耳にするようになったのですが、何か劇的な変化があったのでしょうか。

弥永:
劇的な変化があったかどうか、私自身は実は事情に詳しいわけではありませんが、質が高いかどうかは上海絵梦がYouTubeにデモリールを公開しているので、それを見ていただくのがよいかもしれません。これは2014年から2015年に制作した映像を集めたものです。

上海絵夢デモリール(中国・韓国製作分)2014-2015 - YouTube


G:
2016年に入ってから注目を集める機会があっただけで、以前から品質は非常に高いんですね。「2016年10月開始アニメのPVを先取りしたものです」と言われたら信じそうです。

弥永:
やはりバトルものが多めですね(笑) でも、絵やアニメーションを見ただけでは、どこで作られたものなのかわからないですよね。

G:
日本で制作されている作品でも海外の方に作ってもらっている部分があるので、「日本のものと遜色ない」という言い方もおかしい気がしますが、違いなんてないんだなと。

弥永:
そしてこちらが「一人之下 the outcast」のプロモーション映像です。

テレビアニメ『一人之下 the outcast』PV Hitori No Shita The Outcast - YouTube


G:
背景美術やキャラクターの服装に中国らしさを感じますが、キャラクターデザインや動きなどは今放送されているアニメの中の1つとしてまったく違和感ないものですね。


弥永:
うちの会社の目的である、技術を相互に高めつつ、ビジネスもうまく回していくということができている作品ではないかなと思っています。

G:
この「一人之下」については、上海と日本の役割の分担みたいなものはあるんですか?

弥永:
企画を上海が担当していて、制作は日本の制作会社が行うという形です。作中に出てくるカンフーは、監督の王さんがこういったアクションを取り入れたいということで力を入れておられる部分です。

G:
絵梦という1つの大きなグループの中で、世界で展開していける作品をいくつも作っていて、今回はその企画を上海が、制作を日本の会社が担当することになっただけという感じでしょうか。

弥永:
そうですね。「日本で作る」という点においては、社長や上海の経営陣が「日本のアニメに貢献したい」という志を持っておられて、「日本で作品を放送したい」「日本で作品を作りたい」という思いから、弊社ができています。

G:
もちろんビジネスとして成り立つからこそやっておられるのだと思いますが、かなり強い思いが作用していそうな……。

弥永:
私も入社するまではビジネスライクなのかなと思う部分があったのですが、まず「日本のアニメが好きだ!」という気持ちがあるんだな、とわかりました。文化的な違いはあるかもしれませんが、日本のアニメ制作に寄り添っていこうという会社です。

G:
社内で文化の違いを感じるようなことはありますか?

弥永:
それこそ、作品のタイトルを決めるのだけでも大変です。中国の漫画が原作だと、タイトルは当然中国のものなので、それを日本でもなんとか違和感のないものにしつつ、かつ世界での展開も視野に入れて……となるとやはり時間はかかります。「一人之下」も、日本ではちょっとわかりづらいかもしれませんが(笑)

G:
ぱっと見た時に日本ではわかりやすいタイトルではあっても、グローバルに通用するタイトルだとは限らない、ということですね。

弥永:
はい、やはり大変な部分はあって、探り探り進めているところです。

G:
スタッフの方々はみなさん日本の方ですか?

弥永:
このスタジオに今いるのは中国人やフランス人もいますがほとんど日本のスタッフで、上海の監督たちも時々来ますが、今はネット経由でのやりとりができるので、指示などはそちらで行っていることが多いです。

G:
なるほど。この建物は上から下まで、まるごとアニメ制作スタジオだと伺いました。

弥永:
そうですね、すべての制作機能が1つの建物に集まる形です。ただ、作画のスタッフに関してはすでにフロアがいっぱいになっていて、人数が入りきれなくなったらどうしようと早くもざわざわしています(笑)


G:
今、スタッフはどれぐらいいらっしゃるんですか?

弥永:
40名〜50名ほどだと聞いています。

G:
広報の仕事は何名でなさっているんですか?

弥永:
海外担当は別にいるのですが、広報全体のスケジュールの管理などは私が1人でやっています。何人も広報担当者を置ければいいのですが、今夏から放送予定の作品は親会社からの出資100%の作品なので、他の会社さんが関わらないため私だけでやっています。

G:
なるほど、「音楽についてはレコード会社さんが担当を」という分担がないんですね。

弥永:
はい、音楽については日本語・中国語のどちらでも歌えるLilithというグループを起用しているのですが、もしも音楽関係のイベントをやるとしたらこれも私が計画することになります(笑)

G:
すべて1人でやられていて、苦労することがいろいろとあるのではないかと思うのですが。

弥永:
入社して3か月ですが、この環境でバリバリと鍛えられています(笑) まず、1人でプロモーションのスケジュールを組んで、予算の割り振りを組むので、協力会社を得ることが大事だなと思いました。でも「自分が把握していないことはない」ということでもあるので、スケジュールがキツいところもすぐにわかるというのはいいところかもしれません。

G:
弥永さんは、以前はアニメミライのリポーターをなさっていたんですよね。

弥永:
そうです、アニメミライ2013のときに「リトルウィッチアカデミア」のリポーターをさせていただきました。

リポーターオーディションの様子が以下の記事にちょっとだけ掲載されていて、当時の弥永さん(LUPICAさん)の姿を見ることができます。

「マチ★アソビ vol.9」全記事一覧まとめ - GIGAZINE


G:
すごい作品を担当しましたね。昔からアニメに関する仕事に就こうと考えていたんですか?

弥永:
もともと、アニメとか漫画とかがすごく大好きなオタクだったんです。でも、アニメ業界への就職は全然考えていなくて、服を作ることも好きだったからアパレルの方にいました。ところが、服飾専門学校に通っていたとき、アニメミライの公式リポーターを募集するポスターが貼られていたのを見かけたんです。「アニメが好きな人、仕事をしてみませんか。」と書かれていたので、「アニメは好きだし、バイトもしたい」と思って気軽に申し込んだら、あれよあれよという間にリポーターになってしまい、そして今に至っている……というところです。広報を目指すきっかけになったのは、あのポスターだったということですね。もしあのとき、あのポスターに出会っていなかったら、ここにはいなかったかもしれません。

G:
アニメミライの「公式リポーター募集」はちょっと変わった企画でしたね。通常の作品なら、ライターさんや作品の広報担当の方がするようなインタビューや取材を、一般から募集したリポーターにやってもらおう、という。

弥永:
アニメ業界への就職を考えている人や声優を目指している人にはとてもいい機会だったと思います。実際、リポーターさんはみなさん何かしらアニメ業界を目指す人だったので、「私だけ一般人だ、なんで選ばれたんだろう!?」と驚きました(笑)

G:
むしろ、そこでリポーターに選ばれて、その後アニメ業界に入っているのだから、審査員には適性が見えていたのかもしれませんね(笑)。それまでに何かのリポート経験があったというわけではないんですか?

弥永:
コスプレをするのは好きだったので、ポーズを決めて写真を撮られるということはありましたけれど、リポーター経験というのはないですね。……ちょっと待ってくださいね、そういえば地元の小さなラジオ局、FMだったと思いますが、そこでちょっとだけですがラジオをやっていたことがありましたね。


G:
それはすごい経験じゃないですか!

弥永:
いえいえ、リポーターみたいなこともやっていなかったですから。

G:
アニメミライでのリポーターをやってみて、「アニメの広報の仕事をしてみたい」と思うようになったのですか?

弥永:
そうですね、それまではまったく考えたことなかったですけど、実際にやってみて「面白いな」と感じたのが大きいです。

G:
コスプレも、かなり広報として役立っているのではないでしょうか。AnimeJapan 2016のときに、ブースでコスプレなさっていたのを拝見しました。

AnimeJapan 2016での弥永さん(写真左)。


弥永:
あの衣装はさすがに一人で作るのには限界があったので、コスプレコンパニオンをしていた時のつてで、衣装制作会社に作ってもらいました。その会社は、有名アミューズメントパークのキャストの衣装も手がけられているんですよ。

G:
ええー、すごい衣装だ。あれは他の場所でも使われる予定があるのですか?

弥永:
気合いの入った衣装ですので、7月にパリで開催されるJapan Expoに弊社が出展する時に着ようかと思っています。

G:
ちなみに、入社して3か月ほどで、現在広報を1人で担当されているということですが、仕事はどうやって身につけていったのですか?こういった仕事だと「独学」というのは難しそうですが……。

弥永:
そうですね……私の直属の上司から「普通、リリースのスケジュールはこんな感じだよ」「ここはこうするよ」などとノウハウを教わりつつ私がやっている、という感じです。「この情報をどこで解禁するのか」ということについても、ノウハウを参考に手探りで私が決めています。実務をすべてやらなければいけないという点は大変ですが、他社さんとの調整を必要としないという点は助かるポイントかもしれません。

G:
製作委員会方式が採用されている作品がほとんどの中で、かなり異色な存在ですね。

弥永:
でも、公開のタイミングというのも難しくて、どのタイミングで出せばうまく広まるだろうかというのを見計らっています。普段からTwitterをよく使っているので、他作品がどう動いているかというのを見たり……、あとは消費者の一人としてどのタイミングで何が出たら嬉しいかという視点が大きいかもしれません。たとえば、6月中旬になると最終回ラッシュが来るので、次に始まるアニメの情報を収集するよりもまずは最終回に目がいくはずだろう、とか(笑)


G:
7月から次の作品が始まることはわかっているので、積んだまま全話溜まってしまったアニメを一気に見るか消すか、どうしようという時期ですね(笑)

弥永:
なので、最終回ラッシュも終わり新作品が始まるところですので、7月9日(土)から放送の始まる「一人之下 the outcast」にも注目していただければと思います。

G:
7月の第1週目は監督やキャスト陣による放送直前スペシャルだったので、本編には今からでも間に合います……というところですね。本日はいろいろとお話をありがとうございました。

インタビューの中でもありましたが、「一人之下 the outcast」は中国のネット漫画が原作。「騰訊動漫(テンセントマンガ)」という1万作品以上が公開されている漫画サイトで、常にランキング上位に入ってきているという作品。ストーリーは、普通の大学生だった張楚嵐が、ゾンビに襲われたところを謎の少女・宝宝に救われ、だんだんと大きな事件に巻き込まれていくというもの。

主人公の張楚嵐を演じるのは「学戦都市アスタリスク」天霧綾斗役や「俺がお嬢様学校に『庶民サンプル』としてゲッツされた件」神楽坂公人役などで知られる田丸篤志さん。ヒロインである宝宝を演じるのは「赤髪の白雪姫」白雪役、「終物語」斧乃木余接役、「魔法科高校の劣等生」司馬深雪役など多くのヒロイン役で知られる早見沙織さん。

地上波放送はTOKYO MXのみですが、TOKYO MXのインターネット番組配信サービス「エムキャス」の配信対象番組なので、PC・スマホならテレビ放送と同じタイミングでの視聴が可能。また、dアニメストア・ビデオパス・アニメ放題をはじめとする動画配信サービスでも配信が行われることになっています。

第1話「sister?」の放送は2016年7月9日21時から。

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in 取材,   インタビュー,   動画,   アニメ, Posted by logc_nt

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