大学生が「モノづくり」の真髄で自作した「パワードスーツ」開発現場取材&インタビューのため金沢工業大学へ行ってきました
Conceive(考える)・Design(設計する)・Implement(実行する)・Operate(運用する)の頭文字をとった「CDIOアプローチ」というカリキュラムがエンジニアリング教育で注目されています。日本の大学で唯一、CDIOイニシアチブに加盟した金沢工業大学は、学生がチームを作り、問題を発見し、課題解決のためのアイデアを出し合い、学んだ知識や技術をフル活用してプロトタイプ(試作機)を製作して実験・評価することで、独創的なものを創り出す「プロジェクトデザイン」という教育を柱としていて、成果を収めているとのこと。その金沢工業大学の学生たちが、モーターを使わずにメカニズムだけで荷重を緩和するパワードスーツを製作していると聞き、若きエンジニアの卵たちによるモノづくりの現場を取材してきました。
KIT金沢工業大学
http://www.kanazawa-it.ac.jp/index.html
◆モーターを使わない重量緩和型パワードスーツとは?
金沢工業大学の扇が丘キャンパスに到着。
キャンパス内にある、ガラス張りの建物が12号館で「アントレプレナーズラボ」があります。
入り口はIDカードで管理されており、金沢工業大学の学生や関係者以外は入れないようになっています。
「イノベーター(革新者)」のみが入れる模様。
自動扉をくぐると「Entrepreneurs Lab.」の文字。おしゃれなカフェかと見まごうばかりのエントランスです。
さらに自動扉をくぐると……
こんな空間。
通路の奥には、インテリアショップのようなエリアも。アントレプレナーズラボは、金沢工業大学の学生が企業や地域住民とともにイノベーション(技術革新)に向けた「学び」「気づき」「行動」を実践する場で、学外の人と一緒に多様なプロジェクトを進めるために、このようなオシャレなソファで打ち合わせをすることも多いそうです。
という、オシャレな空間の入り口付近で、作業をしている二人を発見。
この二人がメカニズムだけで荷重を緩和するパワードスーツを開発した宮地遼さん(左)と宮入優太さん(右)
取材当日の朝はパワードスーツを改良している真っ最中で、最新版のバージョン3(V3)のテスト直前とのこと。
パワードスーツは人体装着型のメカなので、人間の関節のような構造を持っています。
よく見ると、ひざ当て部分に使っているのは自転車のタイヤ。
部品の多くはアルミ製なので軽量です。
なんと、この部分は「中華テーブルの軸」部品を流用しているとのこと。パワードスーツは、金沢工業大学の研究過程で出た廃材や、ホームセンターで購入できるパーツなどを使って作られています。
手慣れた手つきで部品がどんどん組み上げられていきます。
下半身が完成。イスに座らせるとこんな感じ。
ネジやナットもすべて汎用品。廃材の穴を活用して固定している模様。
上半身部分は背負うような構造のため、ミリタリー用のリュックの部品を活用しています。金属パーツが体に触れないように保護する役割もある部品には、耐久性に優れる軍用品がもってこいというわけです。
下半身部分が完成したので、さっそくテスト開始。
靴を履いた状態で、外骨格を固定します。
すね当てを閉じると……
一気にメカらしさが高まりました。
ウエストベルトも装着。
ショルダーベルトを背負ってしっかりと上半身も密着させます。
ヒョイと立ち上がると……
確かめるように前進&後退。よりスムーズな動きを目指したというV3は、想定通りのデキのようです。
片膝をついた姿勢をとれるのがV3の大きな特長とのこと。
よく見ると、腰の部分にはショックアブソーバー。折りたたみ自転車の部品を使っているそうです。
簡単な動きのチェックが完了すると、いよいよ重い荷物を背負います。
おもり代わりに背負うのもやはりミリタリー道具。
荷物を背負った状態を横から見るとこんな感じ。
正面
宮地さんのパワードスーツのコンセプトは、外骨格を人間の骨代わりにして重量物を支えるというもの。荷物にかかる重力を外骨格を通じて地面に逃がすことで荷物の負担をほぼゼロにできます。モーターを使って駆動力を得る一般的なパワードスーツは、故障時に不自然な形で停止してしまい転倒する危険があると考えた宮地さんは、「自分の体の力だけで動かせて荷物の重量負担を軽減できるパワードスーツができないか?」と考えて、このパワードスーツを開発したそうです。
つづいて宮地さんもV3のデキをチェック。
「骨」になって重力を支える足の部分。
膝立ちするためのパッドは自転車のタイヤで作っています。
つま先部分
かかとの横には接地性を高めるための補助的なスタンドが付いています。
実は機能性はほとんどないという「すね当て」。付けている理由を聞くと、「カッコイイから」という明解な回答が返ってきました。
腰回り
ドアのヒンジを活用しています。
上々のデキに、ご満悦の様子。このパワードスーツは、研究室で行う卒業研究とは関係なく作ったもの。「自分が欲しいものを自分で作る!」という、エンジニアの卵らしい発想から生まれています。
◆開発の経緯などを聞いてみた
GIGAZINE(以下、「G」と表記):
宮地さんは、「物語の始まりへ」というテレビ番組の映像の中で、「神戸の鉄人28号のモニュメントを見たのがきっかけ」と話していましたね。28号を見たときに「ロボット作りをしたい」と思ったのですか?
宮地 遼(以下、「宮地」と表記):
ロボット自体は子どもの頃からレゴを触っていたので大好きでした。その頃からマインドストームとかレゴシリーズとかで学んでいたので、形はともかくロボットを作るというところまでは出来ていたのです。そして鉄人28号を見た時から、より人型の、それも「自分のため(のロボット)」ということを考え始めました。それで、鉄人28号を見て「あれなら何とかガワ(外装)が出来るんじゃないかなぁ」と。
G:
鉄人28号を見て、「あれなら出来る」と思ったのですか?
宮地:
そうですね。昔、段ボールで10分の1陸戦型ガンダムを作ったことがあったせいか、出来るに違いないと信じ込んでいたのです(笑)
G:
その段ボールのガンダムは、どういうきっかけで作ったのですか。
宮地:
高校生のころにお台場のガンダムが出来上がりました。そこで、文化祭の催しで10分の1を作ろうということになって、「作れるヤツは宮地しかいないよな」ということで僕が作ることに……。
G:
10分の1でも結構な大きさですよね。
宮地:
全長180cmですね。
G:
段ボール以外でも、ロボットを作ったことがあった?
宮地:
普通のロボットハンド程度なら作っていましたが、もともとは人型ロボットや、おもちゃ以外のロボットというのはあまり興味がなくて、何となくロボット博士になりたいなと思っていただけですね。
G:
でも、昔からロボットなんですね。機械には例えば自動車とか飛行機とかロケットとかいろいろあるけれど、宮地さんは昔からロボットが好きだった?
宮地:
機械が好きで、ロボットが好き、という感じですね。
G:
機械が好きというのが高じて、その中でのロボットなんですね。
宮地:
はい。どうも僕は赤ちゃんの時に、泣くと車でドライブに連れて行かれていたそうです。その頃から機械に触れるのが当たり前だったのかもしれません。
G:
なるほど。ロボットと言っても鉄人28号やホンダのASIMOみたいな人型のタイプもあれば、こういうパワードスーツのような装着型もあります。なぜ、装着型を作ろうと思ったのですか?
宮地:
まず最初に考えたのが、「自分を強化するシステムが欲しい」と思ったのです。柔術をやっていたのですけれど、見ての通り細身で体質的に太らないんです。それで、体を強化したいと思って、そういうシステムが欲しかったのです。欲を言うなら今も、自分の体を機械に出来るならしたいです。
「チャッピー」という映画があります。ロボットの警察官を改造している制作者が、たまたまAIを作ることに成功するという話です。そのロボットの体に自分の脳を移植できたらどれだけいろいろ出来るだろうかと考えました。そうすれば人間の限界を超えることが出来るはずだ。そういうのを、すばらしい体だなぁと思っていたのです。
G:
力を付けるために自分を改造したいと。
宮地:
そうです。そう思ってシステムを探しているうちに、「アイアンマン」シリーズが一番近いなと思ったのです。テロリストから逃げるために作られたアイアンマンを見て、「これなら出来るかも!僕は段ボールでガンダムを作ることが出来たんだから、あれが出来ないわけがないだろう!」と(笑)
G:
なるほど。鉄人28号、ガンダム、そしてアイアンマンを見て今度は自分を強化させようと。
宮地:
そうです。高校3年生の頃に「redEyes」という漫画を見て、ますますパワードスーツを装着できれば僕も強くなれるじゃないかと思いました。
G:
なるほど。「物語の始まりへ」で高3の夏に大学を選んでいたと話していました。いろいろな大学を調べた上で、金沢工業大学を選んだということですが、理由は何ですか?
宮地:
ロボットを作りたいという思いが強かったので、「モノづくりが出来る場所」という観点で選んでいくと、自由に自分の好きなモノを作れそうな大学は2つぐらいしかありませんでした。そのうちもう一つの大学は僕の出身地の愛知県で自宅から近かったのですが、全寮制でした。そこだと家族に迷惑を掛けると思って、金沢工業大学にしました。
G:
全寮制だと迷惑がかかる?
宮地:
金銭面での話ではなくて……。全寮制とはいえ、親が近くにいると頼ってしまうだろうな、と。
G:
甘えてしまうということですね。
宮地:
そうです、甘えを絶つためと言えば良いですかね。
G:
ムービーでは「自由度が高い」ということを金沢工業大学を選んだ理由の一つに挙げていましたが、宮地さんにとっての「自由」とは何ですか。
宮地:
僕にとっての自由は、僕が何をしようと誰も文句を言わないということです(笑) 金沢工業大学のHPを見たり、インターネットの書き込みを見たりして知ったのですが、「夢考房」では、自由にモノづくりが出来るらしい。普通の大学だったら杓子定規に許可書を用意しなさいとか、いろいろと言われると思うのですが。特に先輩のツイートを見て、「あぁ、すごく自由だな」と思ったのです。
G:
先輩の体験談みたいなものを見て、自分に向いていると思ったのですね。
宮地:
バカなことだってやれるじゃん、と(笑)
G:
なるほど(笑) 実際、それは叶った?
宮地:
現在進行形で叶い続けています。
G:
金沢工業大学には「夢考房」というプロジェクトがありますね。学生メンバーがプロジェクトを立案・調査・設計・製作・分析・評価という一連の「モノづくり」プロセスを体験できる創作活動とのことですが、これはサークルのようなものですか?
宮地:
はい。多数のプロジェクトチームが一堂に会して新入生を歓迎する大博覧会みたいなイベントがあるのですが、そこで面白そうなプロジェクトを探して僕も入りました。先輩4人だけの人工衛星を作るまだ始まったばかりのプロジェクトです。
G:
あえて比較的若いプロジェクトを選んだ?
宮地:
はい。学びがいがあると考えました。先輩から吸収しまくれるんじゃないかなと。
G:
どういう人工衛星を作るのですか。
宮地:
ロケットを発射してある程度の高さまで行ったら、パラシュートを開いて自分で着陸して特定の座標まで自分で移動する。その自分で移動する、かつ、自分で着陸するという機能を有したロボットを作る「CanSat」という競技があります。衛星軌道上を行く人工衛星を目指す前の段階の技術です。
G:
そういう大会への参加も目的としている人工衛星プロジェクトに入ったのが1年生のとき。けれどもプロジェクトを辞めたそうですが、それはどうして?
宮地:
人工衛星は軽くて頑丈であれば非金属で良いのです。僕が夢考房で学んだのはほとんどが金属加工の技術だったので、貢献できることが少ないと感じたのです。人工衛星は軽くて頑丈であれば金属じゃなくても良いわけです。重さの制限もありますから、どんどん金属は排除されていくんですよ。
G:
なるほど、自分が持っている知識や技術をあまり活かせないプロジェクトだったと。
宮地:
それだけでなく、夢考房スタッフの仕事が忙しかったというのもあります。26号館には「夢考房イエロージャンパー」という学内インターンシップがあり、加工を教えたり、加工を代行したりするアルバイトがあるのです。特別な講習を受けてライセンスを取得するとアルバイトができるわけです。他にもSAと言って、先生のフォローをするためのアルバイトや自転車整理のアルバイト、ライブラリーセンターという図書館でのアルバイトもあり、1200名もの学生がキャンパス内で働いています。
G:
確かに外部に委託しなくても学内のことは学生にやってもらえば良いですよね。ちなみに時給はどれぐらい?
宮地:
800円ですね。
G:
それは一律ですか。
宮地:
そうです。どんな楽なバイトもどんなキツいバイトも800円です。26号館や41号館での夢考房イエロージャンパーは、僕にとっては夢のようなバイトでしたが。
G:
「自分の好きなことをお金をもらって出来るなんて!」ということ?
宮地:
はい。僕からすれば、「廃材までもらえるなんて!」という感じです。パワードスーツの材料の大半は、26号館などで出た廃材で作ったのです。
G:
夢考房プロジェクトを脱退して、自身のプロジェクトであるパワードスーツの製作に取り組むことになったわけですね。ところで、このパワードスーツには名前はないのですか?
宮地:
ないんですよ。「1号機 改二」と呼んでいますけれども、分かりやすく「鎧」で良いですよ(笑)
G:
では仮称「鎧」で。鎧プロジェクトはもともと自分が温めていたものですよね。いつくらいから、今度は鎧プロジェクトを自分でやろうという風になったのですか。
宮地:
2年生の9月頃から、授業の必修科目に「ライントレーサー」というロボットを作る共同プロジェクトがあるのですが、そのときに同じチームのメンバーだった宮入君を巻き込む形で始めました。
3年生になる頃には、パワードスーツの図面の少なくとも半分は出来ていました。それで、夏休みが始まる直前に、彼(宮入さん)には具体的に何を作るか詳しく言わずに「穴空けるから手伝って」みたいな感じでのスタート。実際にこういうものを作りたいと打ち明けたのは、9月の夏休みが終わる直前でした。
G:
本格的に取り組みだしたのは3年生の9月からということですね。鎧プロジェクトが本格的に動き出してから完成までにどれぐらいの時間がかかったのですか。
宮地:
1号機の初期型が出来たのが12月でした。
G:
じゃあ結構早いですね。
宮地:
4カ月で何とか。
G:
金沢工業大学では、3年生の後半ぐらいから研究室に所属すると聞きました。宮地さんは4年生なので専門の研究をされていると思いますが、パワードスーツは卒業研究ではないのですよね?
宮地:
はい、これは趣味です(笑)
G:
研究室ではどんな研究をしているのですか。
宮地:
実は、パワードスーツで得た情報を、より研究らしい物に仕上げようかなと思っています。
G:
宮地さんの研究室はパワードスーツの研究もしているのですか。
宮地:
そうではないのですが、割と自由にやらせてくれます。
G:
自分でテーマを決めたら研究をバックアップしてもらえるという感じ?
宮地:
そういうことです。僕の所属している土居研究室は「多脚移動ロボット」の研究がメインなのですが、ある人は四脚のロボットのプログラムを書き、ある人はその制御システムを構築するとか、各自がテーマを決めて研究しています。でも、中には「トンボみたいにどこでも着陸出来るドローン」を一人で研究している先輩もいます。
G:
大まかなくくりとしての「ロボット」というだけで、特に制約はないのですね。では、研究室に入る時に、先生に「パワードスーツの研究をやりたい」と言って入ったのですか。
宮地:
実を言うと、先生に伝えたのは研究室に入って1カ月以上たってからでした。研究室に入ったのが3年生の10月で、これ(鎧)が完成したのが12月なので、最初は先生に何も言っていなかったのです。
G:
完成してから言おうとしてたのですか。
宮地:
とりあえず完成させて意見を聞こうという感じで。12月の第1週に完成したので研究室に持ち込みました。
G:
4年生の卒業研究をこれでやりたいという感じで?
宮地:
実を言うと、そのときは未確定だったんです。本当にやりたいと思ったのは、ロボットグランプリがきっかけでした。4年生になる春休みにロボットグランプリというコンテストで「演技賞」という賞をいただいたときでした。パワードスーツを改造するにつれて結果が出ることが分かってきたのです。そういうことを実感できて、これは研究でもやれそうだということを確信できた。それで、「これで言い出せそう、よしやろう」となりました。
G:
先生はすんなりOKを?
宮地:
すんなりではないと思うんですけど(笑) 演技賞のこともあるし、僕にやる気があるから許して下さったのかも。優しい先生なので見守って下さっています。
G:
卒業研究についてもう少し詳しく教えてください。
宮地:
卒業研究では、パワードスーツをより発展させていきたいです。もっと理論的に証明したいのです。今だとまだ体感的で、僕の想像でしかないのですが、卒業研究では「これは科学だよ」ということを理論的に証明したい。その前段階の研究としてこのパワードスーツV3があって、これで実験しながら、本番の研究用に準備しています。試作機の試作機という感じです。
G:
さきほど実演してもらったとおり、鎧のV3では、3つの姿勢で荷物の重さを緩和できるのですよね?
宮地:
はい。直立・膝立ち・正座ですね。
G:
それらの"間"がつなげれば、最高ですよね?
宮地:
歩く体勢みたいな感じですか。
G:
そうです。
宮地:
実は、それを卒業研究で進めたいなと思っていて。パワーソース(動力源)がなくても動くバネを使ったり。今その研究をするためにV3を実験台に使っている感じです。
G:
ところで「物語の始まりへ」で「将来は外骨格スーツをホームセンターで売るのが夢」だと言っていました。いくらくらいで売りたいですか?
宮地:
このパワードスーツを作るのに15万円くらいかかっています。半分以上は宮入君の食事代ですが……。
G:
手伝ってもらうために、夕食をごちそうしていたんですね(笑)
宮入 優太(以下、「宮入」と表記):
製作費の半分以上ということで申し訳なく思っていますが……とても助かりました(笑)
宮地:
見返りが食事だけなので僕からすればすごく申し訳ないわけですよ。正直、1日に4時間から6時間も辛い加工作業をしてもらって、本当に食事だけで申し訳なくて、出せることなら給料を出したいくらい。
G:
でも、学友らしくていいですね。
宮地:
ありがたいです。
G:
4年生で自分の研究テーマを持ちますよね。宮入さんは、卒業研究以外に、宮地さんみたいな感じで個人のプロジェクトみたいなものをしていますか?
宮入:
特にやっていなかったです。
G:
だから、うまく使われているわけですね(笑)
宮入:
はい(笑) 元々、加工をしたり工作したりすることが好きでした。高校時代から、普通旋盤とかフライス盤とかボール盤とかをばんばん回していて、いろいろなものを作っていたのです。
G:
宮入さんも筋金入りの「モノづくりの人」なのですね。
宮入:
そういう経験もあったので、宮地くんから急に「作ってくれない?」と言われて、「まぁ面白いから良いよ」という感じで作っていました。あるとき「実はこういうものを作っているんだ」と言われて、パワードスーツ・プロジェクトのメンバー入りしたという具合で。
G:
いつのまにかメンバーに。イヤではなかった?
宮入:
まさか、そういうものを作るとは思っていなかったのですけれど。でも、自分用のパワードスーツを持つということが、普通はないじゃないですか。そんなパワードスーツ作りに自分も関わっていることはすごいことだし、「面白いことなんじゃないか、すごいことに片足を突っ込んでいるんじゃないか」と思いましたね。いろんなことを経験すれば良いし、こういう考え方もあるんだということを知るためにも、宮地くんにはずっと関わっています(笑)
G:
じゃあもう願ったり叶ったりみたいな感じなんですね、なるほど。ちなみに、今はどういう研究をしているのですか?
宮入:
今の研究は、全身ではないですけどアシストスーツというもので、荷物を持ち上げる負担を軽減したりとか、持ち上げながら歩く負担を軽減させるためのアシストスーツを作る研究をしています。宮地くんと同じように、モーターを使わないで、バネの力だけを使ってどう軽減できるかということを今研究中です。
G:
それは、宮地さんに誘われて作り出したからというのは関係なく、偶然そういう道に行っていたんですか?
宮入:
偶然と言えば偶然ですね。宮地くんがそういうのを作っているということで卒業研究はこれでもありなのかなという風になりましたけど、それ以外は偶然ですね。本当のきっかけはもう全然違うところです。
G:
就活もされているという話ですけど、どういう企業を受けるのですか?
宮入:
ものづくりに関しての知識を持ち実践もしているので、その知識が活かせる会社であれば良いかなという感じです。甘い考えと言えば甘い考えなんですけどね。だから、そういう知識が活かせる会社を優先的にどんどん申し込んで面接を受けています。
G:
大学院に行くというのは考えていなかったのですか?
宮入:
そうですね、考えてなかったです。高校で学んでいたことをさらに深く学びたいということで、金沢工業大学を選びました。ロボティクス学科という学科は電気・情報・機械加工というその3つが深く学べるということだったので、その3つをさらに深く学んでいって、社会に出ようという考えだったので、大学院に行くという考えは大学に入った当初からありませんでした。
宮地:
一つの研究室あたりにいる人数が大体15人から20人くらいで、その中で大学院に行くという人は5人ほどです。僕の研究室でも13人いて、大学院に行くのは3人です。4人に1人は大学院に進学していることになります。
G:
今後、宮地さんは卒業研究を終えて社会に出ても趣味でパワードスーツをコツコツ開発していきたいとのことですが、どんな形にしていきたいですか?
宮地:
僕の作ったデータをネット上に公開して、オープンソースでやるというのもいいかも。僕よりも良いアイデアが出て、僕のパワードスーツがもっと強力なものになれば嬉しいです。
G:
自分がもっと良いパワードスーツを欲しいから、オープンソースにする方が有利だということですね。
宮地:
そうです。
G:
高校3年生の夏に金沢工業大学に決めて、思い描いていたキャンパスライフというのがあったはずですが、何%ぐらい達成できましたか?
宮地:
欲を言ったら無限大だと思うんですけど、目標達成済みなので自分の中での達成度はもう100%を越えています。メインストーリーが終了したので、あとはサブストーリーを見たいです。
G:
でも、大学での生活が楽しすぎて、卒業したくない感じになりそうですが……。
宮地:
なります。卒業したくないです。こんな夢のような場所は、そうそうないので。
◆知られざる開発現場はこんな感じ
ということで、パワードスーツを開発した「夢のような場所」を取材させてもらいました。アントレプレナーズラボを出て、横断歩道を渡った先にあるのが学生食堂のある建物の21号館。
21号館の奥にある、特徴的な屋根を持つ建物が26号館です。
入り口には「夢考房」の文字。この夢考房26は、アイデアを具体化する創作活動の中心地です。
中に入ると多くの学生が活動中。工作機器独特の音とニオイが、いかにもモノづくりの現場という感じ。
「旋盤」のブース
使い終わったらしっかりと掃除。
「フライス盤」のブース
写真左が「板金」ブース、中央が「定盤」、右の黒いカーテン奥が溶接場となっています。
「万力」を使っている作業台をのぞいてみると……
金属の穴をヤスリで削っていました。
「パーツショップ」では……
ネジや工具などを購入できます。
26号館内には「自転車修理場所」なるスペースもあり。多くの学生が自転車通学しているそうで、故障した場合は自分たちで修理できるというわけです。
なお、夢考房内の工作機器を使うためにはライセンスを取得する必要があります。ライセンスを取得していない学生は、ライセンス保持者の学生に手伝ってもらい機器を使うことになりますが、インタビューで教えてもらったとおり、ライセンス保持者は「イエロージャンパー」という学生スタッフとして勤務するとバイト代がもらえる学内インターンシップが採用されています。
ちなみに宮地さんは、入学して数カ月ですべてのライセンスを取得したとのこと。
早々にライセンスを取得して学内インターンシップでバイト代を稼ぎ、そのお金をパワードスーツ製作費に投入したというわけです。
建物の外には、素材ごとに分類されたゴミ箱。これこそが、パワードスーツの主要部品となった廃材です。
中をのぞきこむ宮地さん。
中のアルミ廃材はこんな感じ。
秘密兵器を取り出して……
お宝をゲット。こうやって、パワードスーツのパーツの大半が、ゴミ箱からのお宝によって生まれたというわけです。
なお、お宝などは夢考房の中にある「秘密の場所」に保管中。学生たちは自分の夢を実現するために、あれこれと工夫して学生生活をエンジョイしているようです。
金属や木材を加工できる26号館に続いて、41号館へ。
建物内には夢考房プロジェクトで製作中のソーラーカーや……
人力飛行機などのマシンが置かれてありました。
このテーブルでは木材を加工しているようです。
糸鋸
電子工作ができるテーブルもあります。
そして、極めつきは金属3Dプリンター。チタン合金の加工もできるすぐれものです。
技師さんに手伝ってもらえば、アディティブ・マニュファクチャリングを行えます。学生が使えるというのは恵まれた環境です。
日中は講義が行われているので、課外活動である夢考房プロジェクトの参加者はいませんでした。まだ静かなこの空間も、17時を回る頃には学生であふれかえるそうです。
なお、「夢考房41」には金沢工業大学の卒業生が受賞した、数々のトロフィーや盾がずらりと展示されていました。
先輩たちの業績に触れて、現役の学生たちは大いに刺激を受けているそうです。
ちなみに「夢考房41」は立て替え予定。建物隣の巨大なスペースに、現在の2つの夢考房よりも1.7倍大きい新しい建物が2017年2月に完成予定となっています。多くの学生にとっての「夢のような場所」は、ますますパワーアップするようです。
・関連コンテンツ