サイエンス

貧しい地域に住むと貧困から抜け出せないばかりかIQや健康状態、学力にまで悪影響を及ぼす

By manhhai

世界的に貧富の格差は拡大しており、上位62人と下位36億人の資産が同額になるほど、その格差は大きくなっています。日本でも貧富の格差は拡大傾向にあり、地方と都市部の経済格差は驚くべきものです。また、貧富の格差は経済的な面だけでなく寿命の差にも影響していることが明らかになっているのですが、貧しい地区で生まれてしまった場合どれくらい人生が大変になってしまうのかを、インターネットニュースサイトのVoxが解説しています。

Living in a poor neighborhood changes everything about your life - Vox
http://www.vox.com/2016/6/6/11852640/cartoon-poor-neighborhoods


1940年、白人の住宅開発業者がデトロイト近郊に住宅地の建設を計画していました。住宅開発業者は住宅地建設のために連邦住宅局(FHA)に対して融資を頼んだそうですが、「黒人の住むエリアに近いのでダメだ」と、融資を断られたそうです。


現代社会では驚くべき話かもしれませんが、当時はこういった差別が多数存在していたそうです。FHA自体が黒人に対して住宅ローンの融資を断ることもあり、驚くべきことに、黒人が住むエリアの近くに住む人々にすら融資を断っていたとのこと。FHAが融資を断る理由は「危険過ぎるため」だったそうです。

その1年後、住宅開発業者は再びFHAに提案をもちかけます。新しい提案では、黒人の居住地区との間に6フィート(約1.8メートル)の壁を建てるというもので、この提案を受けたFHAは住宅開発業者に融資することを決めたそうです。


約75年前に行われていたこういったタイプの人種差別的な住宅政策は、アメリカにおける貧富の格差を助長しました。また、黒人家族が組織的に指定の地域に住まざるを得ない状況が作り出されてしまった、とも言えます。


富裕層はより財産を増やし、貧困層はより貧しくなってきているとしばしば言われます。確かにこれも大きな問題ですが、それよりもすぐそばで起きている貧富の格差にこそ目を向けるべき、とVox。

現在のアメリカには超高級住宅地と非常に貧しい住宅地が存在しており、これはアメリカ社会における貧富の差を如実に示す例のひとつです。また、アメリカの極貧地区に住む人々の40%は貧困線を下回る収入しか得られていないとのこと。なぜ極貧地区で貧しい人々が増えるのかというと、極貧地区は犯罪率や失業率が高く、地域医療の問題などを抱えており、これらに間接的に影響されてしまうためです。

以下のグラフは極貧地区の数の推移を示すもの。極貧地区が増加することで、貧困線を下回る家庭が爆増していることがうかがえるわけです。


極貧地区に住むことは、単に不便というだけでなく、自身の命や子どもの命にも関わってくる大きな要因となります。ある研究では、極貧地域に住むことは「汚染された空気の中で呼吸するようなもの」と例えられています。汚染された空気にさらされればさらされるほど、人間の体は損害を受けます。また、極貧地域で暮らすことは、子どもや大人の脳に悪影響を及ぼすとのこと。

1955年から1970年にかけて行われたアフリカ系アメリカ人公民権運動の時期に生まれた子どもの居住地区別の貧富の差を示すグラフが以下のもの。ニューヨーク大学(NYU)の社会学者であるパトリック・シャーキー氏の研究によると、黒人の場合、約3人に1人が極貧地域で育つそうで、白人の場合はわずか1%しかそういった地域で暮らすことはなかったそうです。


その後の1985年から2000年にかけての居住地区別の貧富の差を示したものが以下のグラフ。黒人・白人ともに貧しい地域で育った子どもが増えていますが、驚くべきことに、貧困地域で育った黒人の多くが大人になっても貧困地域で暮らしていたそうで、このことから「世代間における黒人家族の移動性がほとんどない」ことがわかるそうです。


以下のイラストは、1955年から1970年にかけて下から20%の貧困層に生まれた子どもが、親よりも豊かになる確率を示したもの。黒人の場合、なんとわずか25%しか親よりも豊かな生活をするようになることはなく、対して白人は59%が親より豊かな生活をおくるようになったそうです。


また、1990年代には貧困地域で育つことが将来の経済状況や健康状態に影響を与えるのか否かについて、大きな議論が巻き起こりました。そこで、連邦政府は「Moving to Opportunity」と呼ばれる実験に多額の資金を投資し、貧困地域に存在する4600世帯を無作為に抽出して追跡調査しています。

無作為に選ばれた4600世帯は3つのグループに分けられ、グループのひとつは裕福な地域に移住し、もうひとつはどの地域に住んでもOKとされ、3つ目のグループはそのまま公営住宅に住むよう指定されました。実験の結果、まず初めに裕福な地域に移住したグループの健康状態が改善されましたが、金銭をより多く稼げるようになったわけではなかったそうです。


しかし、ハーバード大学の研究者が裕福な地域に移住した人々の稼ぎの変化をより長期的に調査したところ、貧困地域で暮らしていた際よりも多くの収入を得ていたことが明らかになりました。

以下の図が3つのグループの平均収入を比較したもので、貧困地域で暮らした黒人グループが1万1270ドル(約120万円)、自由な居住地区で暮らしてOKとされたグループが1万2994ドル(約140万円)、裕福な地域に移住したグループが1万4747ドル(約160万円)でした。


さらに、貧困地域で暮らすことは脳に影響を及ぼすことも明らかになっています。ある研究者の研究から、悲惨でトラウマを与えるような環境で育った場合、生理学的に脳が変化する可能性があることが明らかになっています。NYUの社会学者であるシャーキー氏によると、この現象は子どものIQに影響を及ぼすとのこと。

実際、母親と子どもがどのような地域で育ったかにより、子どものIQに大きな開きがあることが判明しています。貧困地域で育った母親が貧困地域で子どもを育てた場合、子どもの平均IQは96(IQは100が平均)になるのに対して、中流家庭で育った母親が中流家庭で子どもを育てた場合、子ども平均IQは104になったそうです。なお、子どもが住んでいる地域で殺人事件が起きた場合、事件が起きたエリアの6~10ブロックで、平均IQが7~8ポイントも減少することも明らかになっています。


さらに、貧困地域で暮らす人々は、他の地域で暮らす人々よりも喜びや希望を感じない、という調査結果も公表されています。

以下のグラフは青色になればなるほど人が強く幸せを感じており、紫色になればなるほど幸せを感じていない、ということを示しています。黒人と白人でそれぞれ2つずつグラフがありますが、左が貧困地域で暮らした人々が幸せを感じるかどうかを示すグラフで、右が裕福な地域で暮らした人々が幸せを感じるかどうかを示すグラフ。右のグラフと左のグラフを比べれば、人種に関係なく、貧困地域で暮らす人々がより幸せを感じづらくなっていることは明らかです。


加えて、以下のグラフは左が貧困地域で暮らす人々のBMI値で、右が裕福な地域で暮らす人々のBMI値。これを見ると、太り気味や肥満は、裕福な地域よりも貧しい地域で起こりがちであることがわかります。


以下のグラフは裕福な学校に行った場合と貧しい学校に行った場合の数学の点数の差をグラフ化したもの。縦軸が点数で、横軸が在学期間を示しており、長く学校に通うほど、点数の開きは大きくなっていきます。


読み書きの「読み」でも、裕福な学校に通うほど優れたスコアを出せるようになります。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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