狂牛病の病原体「異常型プリオン」が初めて野生のトナカイから発見される

by toberboy

牛の海綿状脳症(狂牛病)は、タンパク質が誤って折り畳まれて異常になった「異常型プリオン」が病原体とされていて、狂牛病以外にもヒツジのスクレイピーという変性病や、ヒトのクロイツフェルト-ヤコブ病も異常型プリオンが原因と考えられています。プリオン病にかかると、脳などの神経組織に影響を及ぶのですが、ヨーロッパで野生のトナカイの体から異常型プリオンが史上初めて発見されています。

Deadly animal prion disease appears in Europe : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/1.19759

プリオン病の一種である慢性消耗病(Chronic wasting disease、CWD)は、これまで北米や韓国に生息するヘラジカやムースなどのシカの仲間に感染する病気だと考えられてきました。しかし2016年4月に、ノルウェーで慢性消耗病にかかっている野生のトナカイ1頭が発見されました。カリフォルニア大学の病理学者であるChristina Sigurdson氏によれば、過去に実験環境でトナカイが慢性消耗病にかかった事例は存在するとのこと。しかし、慢性消耗病がヨーロッパで発見されるのは史上初のことで、さらに野生のトナカイが慢性消耗病にかかった事例も今回が初めてだそうです。

慢性消耗病にかかったトナカイを見つけたのは、ノルウェー・オスロのNorwegian Veterinary Instituteで動物の病気について研究しているSylvie Benestad氏とTurid Vikøren氏の研究グループ。Benestad氏らの研究グループが、ノルウェー北部の高山帯に住むトナカイの群れを追跡するため、ヘリコプターに乗っていたところ、動けないほど弱っているトナカイを発見し、その後トナカイはすぐに絶命してしまったそうです。トナカイを持ち帰って脳を検視解剖したところ、3種類の異なる抗体テストの全てにおいて異常型プリオンの存在が確認されたとのこと。

解剖されたトナカイの脳が以下のもので、大きさは15cmほど。画像クリックでモザイクが外れます。

慢性消耗病がトナカイ1頭のみに突然発症したのか、それとも既に他の個体にも感染が広がっているのかは判明していません。Sigurdson氏は、「トナカイの慢性消耗病が、アメリカやカナダで発見されているシカのプリオン病と同じ種類ならば、既に感染している野生のトナカイを見つけるのは非常に困難で、感染が拡大するまでしばしば見過ごされがちです」と語ります。

ウシの狂牛病やヒトのクロイツフェルト-ヤコプ病など他のプリオン病と同じく、慢性消耗病はタンパク質が形状異常を起こして折れ曲がってしまい、周りの健康なタンパク質を巻き込んでしまうという病気です。折れ曲がったタンパク質が脳や他の器官で固まって発生することで、体重が激減したり、筋肉運動の整合に異常をきたしたり、変な行動を起こしたりといった症状が見られます。プリオン病には、現在のところ治療法やワクチンは存在していません。

慢性消耗病はヒトには伝染しませんが、慢性消耗病にかかったシカは体内の異常型プリオンを唾液やふん尿から体外へ排出するため、非常に感染力が高い病気だとされています。慢性消耗病にかかったシカは、アメリカの20以上の州と、カナダの2つの地域で過去に発見されています。韓国では1990年代末期に養殖用に輸入されたヘラジカが慢性消耗病にかかっているのが発見されています。

by Princess Lodges

ノルウェーの山岳部で慢性消耗病のトナカイが発見された理由について、はっきりとした理由は分かっていません。Vikøren氏は、他国から病気が流入した可能性は低いと見ていて、病気が自然に発生したか、スクレイビー病の羊から感染したのではないかと推測しています。

コロラド州立大学でプリオン病を研究しているGlenn Telling氏は、「慢性消耗病がノルウェーで一体どこから発生したのかが問題です」と語ります。Telling氏によれば、慢性消耗病は新しい土地に広がると、根絶するのが難しいとのこと。研究チームではノルウェーで他の野生のトナカイが慢性消耗病にかかっているかどうかについて、さらに調査を行う予定としています。