サイエンス

現代の乗り心地の良い馬は中世ヨーロッパのバイキングによって世界に広められた

By Jennifer Boyer

乗馬のシーンを思い浮かべる時、「パッカパッカ」という音とともに小刻みに上下動する人の様子が頭に浮かぶ人も多いと思いますが、実はこの動きは馬の歩き方によって大きく異なります。もちろん乗り心地の良い馬が重宝されるのは世界どこでも共通なわけですが、実は馬の種別によって乗り心地のよいものが存在し、そんな馬が世界に広まるきっかけとなったのは北欧を暴れ回った海賊集団・バイキングであるという研究結果が発表されています。

The origin of ambling horses: Current Biology
http://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(16)30752-7

Today’s Smooth-Running Horses May Owe Their Genetics to the Vikings | Science | Smithsonian
http://www.smithsonianmag.com/science-nature/todays-smooth-running-horses-may-owe-their-genetics-vikings-180960055/

ひと口に馬が「歩く」と言っても、実はそこにはさまざまな歩き方が存在しており、そのような歩き方はゲイティング(歩法)と呼ばれています。左右の脚をどのように出すか、またはどのタイミングで着地させるかなどによってさまざまな歩法に分かれており、以下のムービーでは右と左の前後脚をそれぞれ同時に出す「Pace」「Stepping Pace」、対角線上の脚を同時に前後させる「Trot (速歩:はやあし)」、わずかに接地のタイミングをズラせた「Fox Trot」などが紹介されています。

The Gaited Horse Gait Spectrum - YouTube


また、トロット(速歩)の中でも特に揺れが少ない「スーパー・トロット」を見せるアイスランド系の馬も存在しています。

Super Tölt on an Icelandic Horse - YouTube


その一種である歩法・アンブリングは、普通の速度で歩く「常歩」と速く歩く「速歩」の間に存在するもので、非常に乗り心地のよい、スムーズな歩法として知られています。しかし、馬の中にはこのアンブリングを自然に行うことができる固体「ゲイトキーパー」と、訓練を必要とする固体が存在しており、これを分けているのが「DMRT3遺伝子」における特別変異であることが、2012年に明らかにされていました。

この変異は馬の脊髄の神経細胞に発現し、協調した脚の動きの発達に欠かせないものとなっています。現代では、このように滑らかに歩くことができるゲイトキーパーの馬は世界中に存在していることが明らかになっており、主に北海道に生息する「Hokkaido Horses」、いわゆる道産子(どさんこ)の他、南アフリカの農耕用の馬やアメリカに住む「テネシー・ウォーキング・ホース種」の馬にその特質が確認されています。

このように、アンブリングが可能な種別が突然変異によって生みだされたことが分かったのですが、はたしてそのような種別がいつ・どこで誕生して、どのようにして世界に広がって行くことになったのかについては、不明とされていました。多くの科学者からなる研究チームは、紀元前6000年頃までさかのぼって過去の種別の馬90種を含む4396頭・141種の個体を調査することで、その起源と広がりを割り出すことに成功したとのこと。

By Alex Berger

研究チームはそれぞれの個体のDNAに含まれるDMR3遺伝子を調査することで、その個体が「ゲイトキーパー」であるかどうかを調査。その結果、現在のイギリス・ヨーク地方に西暦850年から900年に生息していた馬2頭と、9世紀から11世紀にアイスランドに住んでいた馬に、ゲイトキーパーの遺伝子を持つ個体が発見されたことがわかったそうです。

これにより、ゲイトキーパーの起源がほぼ判明したわけですが、そこからどのように世界中に拡散して行ったのかについても研究チームは結論を導いており、その役割を担ったのがバイキングであるとしています。とりわけ、イギリスとアイスランドは島国であり、とても馬が泳いで別の土地に移動することが不可能であるという事実も、この結論を裏付けるものとなっています。

バイキングは9世紀から11世紀の「バイキング時代」に西ヨーロッパを席巻した人々で、当時のイギリス諸島にあった国々とも交易を行っていました。その中でバイキングは、当時のノーサンブリア王国には人を乗せてスムーズに歩くことができるタイプの馬が存在していることに気づきます。その後、バイキングはその馬を売買、あるいは略奪など何らかの方法で手に入れ、当時のバイキングの土地であったアイスランドに持ち込みました。

By Nationalmuseet - National Museum of Denmark

当時のアイスランドには馬が生息していなかったため、島にはバイキングが持ち込んだゲイトキーパーの馬だけの血統が繁栄することになります。その後、バイキングがアイスランドを去る時代がやって来ると、彼らはゲイトキーパーの馬を連れて新天地へと移っていき、それに伴って世界中の土地にゲイトキーパーの馬が伝播していったと考えられています。

この理論は、当時のアイスランドには「道」というものが存在していなかったことからも裏付けられると考えられています。きれいに整えられた道がないということは、馬が歩く場所はデコボコであり、そのような場所で重宝されるのはやはり乗り心地が良い馬が選ばれるはずだというのが考えです。研究チームの一員であるドイツ・ポツダム大学の進化遺伝学者であるミッチ・ホフライター氏は、「馬の背に乗って一日を過ごしたことがある人であれば、もちろん滑らかな乗り心地を持つ種別を選ぶでしょう」と語っています。

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in サイエンス,   生き物,   動画, Posted by darkhorse_log

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