「低コレステロールで心臓病予防」という従来の定説を覆すデータが40年以上も放置されていたことが判明

By Xporage Blog

一般的に理解されている「健康のためにはコレステロールが低く、飽和脂肪酸が少ない植物油のほうが良い」という、これまで定説とされてきたものを覆す可能性のあるデータが40年以上も広く発表されていなかったことが、最新の調査から明らかになっています。このデータは1970年前後にアメリカで行われた研究で集められたものなのですが、人々の常識からはかけ離れた結果となっていたために半ば「放置」の状態で捨て置かれていた可能性があるとワシントンポスト紙が論じています。

This study 40 years ago could have reshaped the American diet. But it was never fully published. - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/news/wonk/wp/2016/04/12/this-study-40-years-ago-could-have-reshaped-the-american-diet-but-it-was-never-fully-published/

同紙によると、この研究データはミネソタ大学の研究チームが1968年から1973年にかけて実施した「Minnesota Coronary Experiment (ミネソタ心臓発作実験:MCE)」と呼ばれる研究で得られたもので、近年になってアメリカ国立衛生研究所(NIH)がリノール酸の健康効果を調査している際に発見したものとのこと。その内容は、これまで世界中で広く定説とされ、アメリカ政府が発表している「Dietary Guidelines for Americans (アメリカ人の食事ガイドライン)」でも唱えられている「低コレステロール・低飽和脂肪酸食品」が健康に良い影響を与えるという考え方の土台を崩すものになっているそうです。

この研究を行ったミネソタ大学の研究チームは、精神病院や施設などで生活を送る患者数千人を2つの集団にわけて食事が健康にどのような影響を与えるのかを調査。片方のグループには、血中のコレステロール値を抑えて心臓病を防ぐとされる、飽和脂肪酸が少ない植物性の油を使用した食事を、そしてもう一方のグループにはその対極とも言える典型的なアメリカ流の食事が与えられたとのこと。

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結果は研究チームの予想どおりに、特別な食事を与えられた前者のグループは血中のコレステロール値が減少したとのこと。しかし一方で、その研究結果からはコレステロール値の減少と心臓疾患の間に関連性が見いだせず、研究チームは「実験がさらに長く行われることでその効果が現れるだろう」という結論を下していたといいます。さらに、若い世代においては「見込みのある傾向 (a favorable trend)」が見いだされるとも指摘していたそうです。

この実験で用いられた「低飽和脂肪・植物油指向」の食事スタイルは、政府が発表している「アメリカ人の食事ガイドライン」でも推奨されているものとなっています。しかし、実はその背景となる十分な検証データは存在しておらず、根拠に乏しいものであるとのこと。むしろ、ミネソタ大学の研究結果では、現在のトレンドとは逆の結果が判明しています。以下のグラフが示すように、特別な食事を与えられ、恐らくはそれが理由で血中のコレステロール値が下がっていたグループ(青)では、もう一方の典型的なアメリカの食事を与えられていたグループ(赤)よりも心臓に関する病気が原因で亡くなる確率が高くなっていたというのです。


このデータを発見したNIHとノースカロライナ大学の研究チームは、40年前のデータが明らかにされなかったことで「不完全なデータの公表により、その効果が過大評価されると同時に、潜んでいるリスクが過小評価されることにつながっています」と述べ、食事における重要な問題が誤解されてきた可能性があると結論づけています。最新の調査を率いたノースカロライナ大学のデイジー・ザモラ氏は「もしこのデータが40年前に公表されていたとしたら、食事と心臓に関する研究や助言の内容が現在とは大きく異なるものとなっていたでしょう」と、その影響の大きさを指摘しています。

しかし一方で、この発表には反対意見も寄せられているとのこと。特に低飽和脂肪の推進に関わってきた専門家からの反論が寄せられており、ハーバード大学の栄養学部トップを務めるウォルター・ウィレット氏は「大事なことは、このデータは有用な新しい情報を何らもたらしておらず、飽和脂肪から不飽和脂肪にシフトすることを強調する近年の助言とはまったく相容れないものとなっていることです」と語り、多くの研究結果が現代の流れを支持していることを示しています。また、ウィレット氏は40年前のデータについて「興味深い歴史上の足跡」と述べています。またウィレット氏は、この検証に参加した被験者は短期間で施設を去るケースが多かったために特別な食事を与えたグループのデータが少ない状態となっていることから、結論をだすのに十分な結果が得られていないと指摘しています。

しかしさらに、飽和脂肪を排除することで人々が健康になるという説を裏付ける証拠がない事も一方では事実であるとのこと。重要なのは、飽和脂肪を何と置き換えるかによってその効果は大きく異なってくるといいます。NIHの研究員で調査に携わったクリストファー・ラムスデン氏は「この研究が示しているのは、植物油の人々の健康への影響を強く裏付ける証拠が存在していないということです」と指摘。今回の公表結果をもとに結論を示すべきでないことを強調した上で、研究内容は「飽和脂肪は考えられているほど健康に悪いものではない」ということを示していると語っています。

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このデータが広く公表されなかった理由について、かつての生物統計学者で、学生時代にこのデータを使って論文を記したスティーヴン・ブロスト氏は、当時はまだコンピューターが発達途上だったために、統計をうまく処理する手法がなかった点を挙げています。またブロスト氏は、人間に備わった特質もこの一件に関わっているという見方を示しています。常識とされているものとは異なるデータが得られたとき、人々が取りうる行動についてブロスト氏は「誰もがコレステロールが悪玉であると考えていました。この考えはあまりにも広く、強く信じられていましたが、でてきたデータはそれを裏付けるものではありませんでした。するとここで『理論は間違っていたのか?それともデータが間違っていた…?』という疑問がわきます。私が感じたのは、彼らはそこで結果を理解することを諦めたのではないかということです」とワシントンポスト紙に語っています。

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in サイエンス,  , Posted by logx_tm