太っている人の方が長生きする「肥満パラドックス」が本当に意味すること

by Daniel Pascoal

太っている人は高血圧や糖尿病など病気にかかりやすいと言われており、「太っていることは不健康で、やせていることこそ健康的」というイメージを持っている人も多いはず。しかし、「過体重・肥満の人の方が長生きする」という結果を出している研究は多く存在し、「肥満パラドックス」と呼ばれています。いまだ大きな論争となっている肥満パラドックスが意味することは本当は何なのか、ニュースサイトのQuartzが非常に興味深い見解を示しています。

Scientists now think that being overweight can protect your health - Quartz
http://qz.com/550527/obesity-paradox-scientists-now-think-that-being-overweight-is-sometimes-good-for-your-health/

健康を害するはずの「太りすぎ」が肺炎・ガン・高血圧症・心臓病など数々の病気から人を守っている、という「肥満パラドックス」を支持する研究者が現在は多く存在します。

肥満パラドックスが大きな論争となったのは2012年のこと。一般的に過体重の糖尿病患者は「インスリンの効きが悪くなる」として減量をアドバイスされることがありますが、ノースウェスタン大学のMercedes Carnethon教授が糖尿病患者のデータを調べたところ、標準体重の患者の年間死亡率は1万人あたり284.8人だったのに対し、過体重・肥満とされた患者の年間死亡率は1万人あたり152.1人であることが判明。その後、喫煙者と非喫煙者で分けてデータを調べてみましたが、結果は変わらず、「やせている人よりも太っている人の方が死亡率が低い」という肥満パラドックスは確かに存在することが分かりました

また、2013年にアメリカ疾病予防管理センターのKatherine Flegal教授とそのチームが何百という死亡率分析の結果を調べたところ、最も死亡率が低いのはボディマス指数(BMI)による肥満度が1~2に該当する人々ということが分かりました。BMIとは体重と身長の関係から算出される、人の肥満度を表す体格指数で、一般的にBMI値25以上30未満で肥満度1、30以上35未満で肥満度2とされています。

by Robin Corps

ただし、肥満度1~2のグループの人々が心臓病などの病気にかかりにくいということは事実なのですが、一方で、心臓病を引き起こす要因にはさまざまなものがあること、体重と病気の間に強い関係があったのは重度の肥満に該当する人だったことから、現時点で言えるのは「少し太っているということは健康上の利点がある」という程度にとどまっています。

Flegal教授の研究は300万人ものデータを調べた綿密なもので、有名な医学雑誌Journal of the American Medical Associationにも掲載されましたが、この研究結果に反論する人も。ハーバード公衆衛生大学院のウォルター・ウィレット教授はNPRの取材に対してFlegal教授の研究を「ごみの山」と表現し、「読むに値しない」と一蹴しています。ウィレット教授は上記の発言後にNatureの編集者から警告を受けましたが、その後行われたQuartzの取材に対してもやはり研究は「ごみである」と語ったそうです。

ウィレット氏ら反対派の主張は、Flegal教授らの用いた比較グループが不適切だったということに基づいています。やせた人のグループには喫煙者や慢性疾患患者が含まれており、そもそも死亡率が高い、というのが反対派の意見。喫煙者や慢性疾患患者と比べれば、体重過多の人は健康に見えてしまうというわけですが、一方で、糖尿病患者のデータについて調べたCarnethon教授の研究で喫煙者・非喫煙者に分けて調べられても肥満パラドックスが存在したのも事実です。

さらに、フランスの内分泌学者Boris Hansel教授が脳卒中や心臓発作の危険性があった5万4000人の患者のデータを分析したところ、これらの患者に最適な治療は交感神経β受容体遮断薬スタチンを飲むことでしたが、軽度の肥満の人々は薬を服用しなくとも病気から体を守れていることが分かりました。

肥満パラドックスが存在するとしたら、「やせていることが健康」とは必ずしも言えなくなるわけですが、では「健康である」とは一体どういうことなのでしょうか。

ここで重要になってくるのは「Health at Every Size」の考え方。これは、減量や食事制限を重視するよりも、ちゃんと食べて運動をすることが健康に結びつく、ということを意味します。

by Michael Fludkov

ウィンストン・セーラム州立大学のPaul McAuley教授が健康に関して人々に行う助言は「運動をしてください」ということ。20年にわたって運動について研究するMcAuley教授によると、体重や健康に関する研究の多くが「運動」という要素を見落としているか、アプローチの仕方を間違っているとのこと。 McAuley教授が集めたデータは、肥満度よりも運動が健康や長寿に強く関わっていることを示すそうです。

また、体重よりも血圧やコレストロールを意識すべき、と主張する研究者もおり、カリフォルニア大学で栄養学を研究するLinda Bacon教授は「私たちは健康を保つ手段として体重に固執しています」とコメントしています。

肥満パラドックスが意味することは研究ではまだ明らかになっておらず、私たちは健康と体重の関係を完全に理解していません。実際に、自身の行った研究結果に肥満パラドックスが見られる研究者でも、「太っていることが健康的」という見方に否定的な人はいます。糖尿病患者のデータを調べたCarnethon教授も複数の研究で「肥満気味の人はやせている人よりも長生きする」という結果を見ていますが、「過体重の糖尿病患者に減量を推進するという考えを取りやめたいとは思いません」と語っています。

またLavie教授は「やせている人の体の成り立ちは完璧なのに、心臓病になることがあります」として、適正なBMI値を保つべきと主張しています。しかし、問題なのは「完璧な体の成り立ち」というものが何を示すのか、その定義が明確になっていないこと。どんな体型の人でも心臓病にかかることがあり、太っている心臓病の人はやせている心臓病の人よりも長生きすることがあります。肥満パラドックスの論争はそもそも「標準的な体重とは何か」ということに帰着するわけです。

by Stephanie Sicore

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in サイエンス, Posted by logq_fa