ハードウェア

Amazonのハードウェア史上最大のヒット商品になったスピーカー型音声アシスタント「Amazon Echo」誕生秘話


話しかけるとすぐに応答し、まるで人間と会話していると錯覚するほど流ちょうな言葉で返答してくれるスピーカータイプの音声アシスタント端末「Amazon Echo」は、英語圏では大ヒット商品になっています。Amazonのカスタマーレビューで3人に2人は☆5つを付けるほど高い満足度を生みだし、Amazonの次の10億ドル(約1100億円)ビジネスになるとも言われるEchoの開発秘話について、Amazon幹部が明らかにしています。

The inside story of how Amazon created Echo - Business Insider
http://www.businessinsider.com/the-inside-story-of-how-amazon-created-echo-2016-4

Apmazon幹部のデイブ・リンプ氏はBusiness Insiderの取材に対して、2011年にAmazon Echoのプロトタイプを見たときに「この製品の開発はハードなものになるだろう」と感じたと話しています。Echoのコンセプトが描くユーザー体験は当時としてはまるで魔法のようなもので、実現までに数多くのものを開発する必要性を感じたそうです。

AmazonがEchoに描いたコンセプトは、人の声に反応して音声で応答する端末で、ニュースを読んだり音楽をかけたり家電を操作したりAmazonで商品を注文したりという、いわば何でもできる音声コントロール機能でした。

Echoのような端末はまだ世に存在しなかったこともあり、製品化して成功するかどうかはまったく未知数。Amazonトップのジェフ・ベゾスCEOの「完璧主義」が支配するAmazon研究所では、Echoの製品化に向けた議論が数年間も続き、開発当初は立ち往生したとのこと。さらにFire Phoneの失敗でAmazonのハードウェア開発の能力に疑問符が付いていた中で、最終的に製品化にこぎ着けたのがEchoだったそうです。


ベゾスCEOはEchoプロジェクトが立ち上がった当初から、Echoの強烈な支持者として開発チームをバックアップしましたが、同時に異常なまでの高い品質を要求したとのこと。開発当初、Echoのパーソナルアシスタント「Alexa」がユーザーの声を聞き取りクラウドから的確な解答を得てユーザーに応答するまでにかかっていた平均待ち時間は2.5秒から3秒。そこで、開発チームは応答時間の目標値を2秒と設定しましたが、ベゾスCEOは「多大な痛みなしに何かを得ることはない。君たち開発チームへの先行投資として苦痛を与えよう。目標応答時間は『1秒』だ」として、高速なレスポンスを命題として課したそうです。

それまで数十年にわたって音声コントロール技術に取り組んできた企業でさえ3秒の待機時間が必要で、それをようやくクリアできたばかりのEcho開発チームはみな言葉を失ったとのこと。しかし、ベゾスCEOは不可能にも見えたゴールを目指すべきだとチームを強力に牽引したそうです。

By Steve Jurvetson

Amazon研究所だけでなく音声技術の研究者を交えたデータ解析試験を数千回経た後に、競合他社の応答速度をはるかに上回る1.5秒以下まで削減に成功。ベゾスCEOのOKをもらえるまでさらに改良が続き、課題をクリアしたときには目標値が1秒だったことさえ忘れていたそうです。「透き通るような声で、大胆な目標値を課す。それがベゾスCEOです」とリンプ氏は述懐しています。

Echoの開発が難しかったのは応答速度の要求だけではありません。最も困難だったことは、お手本となるべき過去の製品がまったくなかったということでした。確かに音声アシスタントとしてAppleのSiriやGoogleの音声検索技術、MicrosoftのKinectなどがありましたが、それらはすべてユーザーが対話するための画面を持っていたのに対してEchoは完全に音声だけで会話を成立させてコミュニケーションをとらなければならないという点で根本的に概念が異なる技術だったそうです。

音声だけで使えるためにはまるで本物の人間と会話しているかのようにユーザーに感じさせるほど繊細で高度な音声認識・発声技術が要求されていました。そこで、Echoの開発では被験者にEchoと本物の人間との会話をそれぞれブラインドテストとして行って満足度を評価するという方法がとられ、応答速度や構文も変化させて満足度に関わる情報を収集したそうです。Echoの開発者の一人は、当時の研究目標はテクノロジーというよりは心理学の実験だったと述べています。

Alexaの技術を高めた後に残っていたことは、消費者にEchoを欲しいと思ってもらえる「フック(きっかけ)」をどうやって作り出すのかという疑問でした。社内で検討を重ねた結果、4割の賛同を得たアイデアは「音楽関連コンテンツ」だったとのこと。そこで、Echoには高音質を生み出すために大きなスピーカーを搭載することが決まったそうです。


しかし、音楽コンテンツはEchoを単なる「音楽プレイヤーのための端末」だという誤解を与えかねないという危険を伴う諸刃の剣でした。中でもベゾスCEOはその危険性を指摘し最も警戒していたそうで、音楽コンテンツの重要性には理解を示しつつも、なぜ音楽機能の改善に多くの時間を費やすのかについて開発者を質問攻めにしたそうです。

開発者の中で「ベゾスCEOは音楽に対する情熱を欠いている」という誤解をも生み出しましたが、製品完成直前のプロトモデルを使ったベゾスCEOは、テスト中にお気に入り映画「Battlestar Galactica」のサウンドトラックを注文したとのこと。高音質を求めた結果、調査会社1100dataの調査によると、現在のアメリカのワイヤレススピーカー市場でEchoは25%ものシェアを獲得しているそうです。

Echoは発売当初、市場の反応を見誤ったせいで初期の販売目標数をなんと発売から数分で達成。初代iPhoneが70日要した100万台突破の大台を2週間未満で達成するなど大成功をおさめました。その後もブラックフライデーやクリスマスイブの人気商品トップ5に常に入り続けるEchoは、今やAmazonハードウェアの歴史でKindleを抑えて最大のヒット作であるとの指摘があるほどです。

EchoにはBluetoothスピーカーと接続できる小型の「Echo Dot」とバッテリー内蔵でモバイル性をもたせた「Amazon Tap」も登場。


そして、開発者たちのもくろみ通り音楽プレイヤーとして成功したEchoは、その後、銀行口座の残高をチェックしたりピザを注文したりUberでタクシーを手配したりとさまざまなコンテンツが追加され、家電製品をコントロールするハブの役目を果たすなど、さらに進化して活用の範囲を広げつつあります。

アメリカ最大のスポーツイベントのNFL・スーパーボウルでCMを放映したEchoは、一部の識者からAmazonの次の10億ドル(約1100億円)規模のビッグビジネスになると予想されているとのこと。リンプ氏はEchoの進む道について、「Amazonがやろうとしていることは、声で完璧に操作できるコンピューターをクラウド上に作ることです」と語っています。

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