囲碁チャンピオンを倒した「AlphaGo」について、チェス世界王者を倒したAI「ディープ・ブルー」の開発者が語る
By Buster Benson
AlphaGoとイ・セドル(李世乭)九段の対局のように、囲碁や将棋、チェスのような知能ゲームの世界トップレベルのプレイヤーと人工知能(AI)が対決することはこれまでにも数多くあったのですが、当時のチェス世界王者であるガルリ・カスパロフ氏を倒したことで世界中から大きな注目を浴びた、AIトッププレイヤーの元祖とでも言うべきIBMの「ディープ・ブルー」の開発者が、AIやAlphaGoについてのインタビューに答えています。
Deep Blue developer speaks on how to beat Go and crack chess | The Verge
http://www.theverge.com/2016/3/12/11211306/ibm-deep-blue-murray-campbell-alphago-deepmind-interview
Googleが2014年初頭に500億円以上をかけて買収した人工知能(AI)開発スタートアップがDeepMindです。GoogleはDeepMindのAI技術を発展させ、これまでコンピューターソフトウェアでは倒すことができなかった囲碁のプロ棋士に挑戦するために、AIソフト「AlphaGo」を開発。そして、2016年3月にはAlphaGoが囲碁界のトップ棋士であるイ・セドル九段に勝利しました。対局は五番勝負となっており、記事作成時点ですでにAlphaGoの3勝1敗と、セドル九段の負け越しは確定しています。
この歴史的快挙のちょうど20年前、IBMが開発したAIのディープ・ブルーは、チェスの世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフ氏に勝利しました。そのディープ・ブルーを開発したメンバーのひとりであるマレー・キャンベル氏は、現在もIBMで働いており、IBMのAI「Watson」を開発するコグニティブ・コンピューティング部門の上級管理者を務めています。そんなキャンベル氏がディープ・ブルーやGoogleのAlphaGoについて語っています。
By Blume Fou
キャンベル氏は当時のディープ・ブルー開発のプロセスについて「我々は純粋な力業ではチェスの世界王者を倒すことができないと考え、その代わりに莫大な計算能力を用いて違いを生み出すというアプローチをとりました」「そこで、AIタイプの先進的なアルゴリズムと、スーパーコンピューターレベルのマシンパワーを導入し、チェスの世界王者レベルのAIソフトを生み出すことに成功しました」と語ります。
また、ディープ・ブルー開発に「チェスの知識はどれくらい必要だったのか?」という質問に対しては、「ある程度のチェスの知識は必要」と前置きしつつ、開発初期段階では開発者側が強いチェスプレイヤーである必要はなかったし、実際開発者は誰も優れたチェスプレイヤーではなかったことを明かしています。しかし、ディープ・ブルーの開発が最終段階に差し掛かった頃、一般的なグランドマスター(世界チャンピオンを除く、チェス選手の最高位のタイトル)がどのような練習や打ち方をするのかの詳細を調べる必要があったそうで、その際にはプロ選手のグランドマスターであるジョエル・ベンジャミン選手などからアドバイスをもらったそうです。さらに、ディープ・ブルーの完成度を確かめるためにもチェスの上級者と対戦させる必要があった、とのこと。
現在ではディープ・ブルーは解体されてしまっているのですが、使用されたラックの一部がコンピュータ歴史博物館に展示されています。
By Jim Gardner
1997年にディープ・ブルーがチェス王者のカスパロフ氏を倒した際、多くのチェスプレイヤーがAIの異常な打ち手に驚いたそうで、そういった人間では打ちそうもない手は「computer move」と呼ばれたそうです。キャンベル氏はこの「computer move」もAIがチェスのプロ選手に勝てた大きな要因とみているそうで、「とても異常な手を打つため、人間は対局の流れを読むことができない」と語っています。しかし、次世代の若いグランドマスターはより有能で、年をとったグランドマスターたちよりも「computer move」に対応できる能力があるそうです。これは「コンピューターと対局することでチェスプレイヤーが成長した証です」とキャンベル氏。
「コンピューターサイエンスの観点から、囲碁とチェスで求められることの違いはどのようなものでしょうか?」という質問に対しては、囲碁を打ったことがないが多くの知識を持っていると前置きしつつ、「チェスよりもプレイヤーの状況を測るのが難しい」とコメント。囲碁は相手との対話でゲームが動くのに対し、チェスは駒が盤上を動くという異なる性質を持っているので、どちらのプレイヤーがどれだけ駒を持っているのかを見ればどちらのプレイヤーが優勢なのかは推し量りやすいとのこと。しかし、囲碁では必ずしも石を多く持っているからといって対局が優勢に進んでいるというわけではなく、評価が難しいそうです。
By Kenming Wang
そして「AlphaGoについてどう思うか?」という質問には、「AlphaGoは最先端技術を進歩させたものだということが明白にわかる代物で、囲碁の一般的なメカニズムだけでなく、あらゆるゲームのそれを学んでおり、とても感動的なものです」と回答。さらに、AlphaGoと同じアプローチ方法でチェス用AIを作成したなら、全てのグランドマスターを倒せるAIが誕生するだろう、とも語っています。
しかし、それは最先端技術にはなり得ないとのことで、それは最先端のチェス・プログラムが信じられないほど強く、人間よりもはるかに優れたものであるからだそうです。そして、なぜチェス界ではそのような信じられないほど強いプログラムが生まれているのかというと、チェスが囲碁よりも「読み」が重要なゲームだから、とキャンベル氏。対する囲碁は深読みよりもより直感や目算から、相手がどのように動いてくるかを測ることが重要とキャンベル氏は考えているようです。
他にも、キャンベル氏は「AlphaGoとセドル九段のどちらが勝利するか?」や「マシンパワーはどれくらい重要なのか?」といった質問にもインタビューの中で回答しています。
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