大型ハドロン衝突型加速器のアップデートでCERNを悩ませる「負の遺産」とは?

By Department for Business, Innovation and Skills

欧州原子核研究機構(CERN)が誇る世界最大級の衝突型円形加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」は、宇宙の始まりである「ビッグバン」や「暗黒物質(ダークマター)」の解明など、数々の難問を解決する装置として期待されています。しかし、大型ハドロン衝突型加速器の性能を高めようとアップグレード作業を行う上で、無視できない問題が生じており、CERNを大いに悩ませているようです。

CERN Engineers Have to Identify and Disconnect 9,000 Obsolete Cables | Motherboard
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大型ハドロン衝突型加速器は円形のトンネル内で粒子を反対方向に光の速度で加速させて衝突させることで新しい粒子を誕生させるという壮大な実験施設。2013年のノーベル物理学賞を受賞したピーター・ヒッグス博士の「ヒッグス粒子」観測に貢献するなど数々の功績を上げてきた施設で、スイス・ジュネーブ郊外の地下約100mに設置される直径約8.6km、1周約27kmという巨大な実験装置です。


LHCは点検や性能向上のためのアップデート作業が定期的に行われていますが、あまりにも巨大な施設のため、大がかりな実験を行う場合は数年間運転が停止されることもあります。そんなLHCは数年以内に大規模なアップグレードが予定されているのですが、アップグレード作業を困難なものにさせる「負の遺産」にCERNの科学者・技術者は悩まされているとのこと。

その負の遺産とは、加速器直前のインジェクター部分にある無数のケーブル。LHCのインジェクターはこれまでにも大きな機能的アップデート作業が重ねられてきており、そのたびにさまざまな機器が導入されたり廃止されたりと、変更が加えられていました。しかし、その度に古いケーブルは撤去されることがなく、大半のものは接続されない状態で残されていたとのこと。その数は、なんと9000本と推測されています。


世界でも最も高価な「実験装置」であるLHCのインジェクター部分のケーブルを交換する作業は、間違えれば実験を正常に行うことができなかったり、場合によっては装置に重大な損傷を与える危険性があることから、慎重さ・正確さが求められることは想像に難くありません。

CERNは2019年にLHCを長期間シャットダウンする予定で、その間にLHCのアップグレードシステムの一環として、インジェクターに新しいケーブルを導入することが検討されているとのこと。しかし、これまでたまりにたまった使用済みケーブルの山のおかげで、新しいケーブルを導入するスペースを十分に確保できない事態に陥っています。

CERNの機器修繕プロジェクトを率いるセバスチャン・エブラード氏は、「新しい機器を導入するときに、使わなくなった古いケーブルを取り除くのが理想的であることはもちろんです。しかし、実際にはそうされていませんでした。そのせいで、今では古いケーブルは邪魔者になっていて、もはや新しいケーブルを追加することは不可能な状態です」と述べています。

エブラード氏のグループは、不要なケーブルの特定作業を進めており、すでに9000本のうち3000本の特定を完了させているとのこと。しかし、例えばPSブースターケーブルの場合、インジェクターからCERNのジェネバ基地に接続するために1本で50mというとてつもない長さであり、ケーブルの規模も桁違いであり撤去作業も一筋縄ではいきません。そのため、今年はケーブルの特定と切断作業が主で、不要なケーブル自体の撤去作業は来年以降に行われるそうです。


CERNはケーブルの整理整頓は避けては通れない作業であるとの認識を新たにし、すべてのケーブルの特徴、機能、配置場所を記録したデータベースの構築作業に乗り出していますが、エブラード氏は「データベースは100%信頼できるものではない」と考えているとのこと。実際に、数週間、ケーブルの特定とデータベース化作業を行った中で、もはや使われていないだろうと予想していたケーブルのうち2%が実際に運用中であることが判明するなど、ケーブル入れ替え作業は想像以上に難航する可能性がありそうです。

エブラード氏によると、LHCの定期点検作業時にケーブル入れ替え作業が行われる計画ですが、すべての作業が完了するのは2020年になる見込みだそうです。

By Pietro Zanarini

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