食べ物に電気を流して味を変化させる「エレクトリックフォーク」は塩分過多の食生活に革命を巻き起こす?
動物の五感のひとつである「味覚」は、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の5つが基本味として位置づけられています。これら従来の味覚を拡張する新たな刺激「電気味覚(エレクトリックテイスト)」を研究している東京大学の中村裕美さんに、世界の食にまつわるトピックを取り上げるYouTubeチャンネル「Munchies」がインタビューを行っています。
Food Hacking: Electric Fork - YouTube
ムービーは「いただきます」の声からスタート。
手に持っているのは普通のフォークに、手のひらサイズの機械をくっつけた何か。
このデバイスを使って唐揚げをパクリ。「炭酸のチキンというか……。シャンパンチキン」と、デバイスを使って唐揚げを食べてインタビュアーが感想をぽろり。
「ELECTRIC FORK(エレクトリックフォーク)」
ムービーの舞台は東京。
インタビュアーは、スウェーデン出身のドキュメンタリー映画監督であるサイモン・クローズさん。
エレクトリックフォークの開発を進めている中村裕美さん。「私のデバイスのように、電気が流れる部分を直に舌に当てて使うようなデバイスを作っている人もいるんです」と、電気味覚に関する研究を進めているのは自身だけではないことを明かします。また、電気味覚に取り組む理由について「私にとって、フードハッキングというのは食べ物があって、その上で味を拡大したり縮小したりするもの。実際の料理でそれらを行うのではなくて、人間の感覚を使ってそれらを起こすようなことをやっていきたいと思っています」と語ります。
インタビューが行われたのは、中村さんが学振特別研究員として務める東京大学のダイワユビキタス学術研究館。
部屋に入ってさっそくインタビューかと思いきや……
取り出したのはコンビニやスーパーで買ってきたごく普通の唐揚げや……
磯辺揚げに野菜スティック。どうやらこられをエレクトリックフォークを使って食べてみるようです。
クローズさんは「最初聞いた時に、『何それ?怖いんじゃない?』と思った」とエレクトリックフォークに対する第一印象を正直に告白。これに対して中村さんは「人は食べることに関してはすごくナーバスになりやすい。でも、(エレクトリックフォークに流れる電気の)強さ的には危なくない強さにしてます」と安全面もしっかり考慮されていることを明かしています。
これがエレクトリックフォーク。電気味覚を研究するために作られたデバイスです。
フォークに唐揚げを刺して……
エレクトリックフォークの持ち手部分にあるスライドを上げると、クローズさんが「あー!」と何か変化を感じ取った様子。
いったん唐揚げを食べるのを止めたクローズさんは、「今、本当にしょっぱいよ!」「本当に面白いよ!なんていうか……炭酸?」と初めてエレクトリックフォークを使った感想を語ります。
クローズさんと中村さんによると、エレクトリックフォークで電気を流すと、サンショウなどのスパイス感や、炭酸に似たピリピリが加わるようです。中村さんが電気味覚を研究し、自分で食べ物に電気を付加するようになってから3、4年が経過しているそうですが、これについてクローズさんは「まだ生きてますね」とコメントしています。
中村さんによると、電気味覚自体は250年ほど前から存在する概念だそうで、これを発見したのはスイス人学者のJohann Georg Sulzer。また、電池を発明したアレッサンドロ・ボルタも電気が味覚に影響を与えることに気付いていたそうです。なんと、ボルタは種類の違う2枚の金属プレートを舌にはさみ「何か味がする……」と感じたことがきっかけで、電池を発明することに成功した模様。
クローズさんが「電気味覚は本当の味覚?」と質問すると、中村さんからは「本当の味覚ではないです。味覚は甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の5つで、人間の舌にそれぞれを感知する部位があります。電気が味なのかそれ以外の何かなのかは長らく調べられていて、(私の見解としては)味にすごく近い……味」とコメント。クルーズさんが「それじゃあ炭酸は?」と質問すると、「炭酸も味とは少し違います。でも、感じ方としては味にすごく近いですよね。例えば、カプサイシンやメンソールなどの『味に近いもののカテゴリ』に(電気味覚は)近い」と中村さんは回答。
例えば通常の料理の場合、醤油を一度入れると取り除くことはできませんが、エレクトリックフォークを使えば電気を調整して味を調整できる、とエレクトリックフォークや電気味覚の活用方法について語る中村さん。日本の醤油やみそは塩分が多く塩分過多な食生活を送る人も多いですが、エレクトリックフォークを使えば少量の塩分でも味覚的に満足することが可能となり、高血圧症などの対策にもなり得るということで、クローズさんは「素晴らしい!」と絶賛。
エレクトリックフォークは、先端に付いている金属のフォーク部分が片方の電極になっており、持ち手部分に巻かれた金属部分がもう片方の電極になっています。食べ物をフォークで刺して口の中に含むことで回路ができ、体に電気が流れ、口からフォークを離すと回路が切れて電気も止まる模様。つまり、「フォークを口から離す」という行為がスイッチの役割になっています。
エレクトリックフォークを使っていろんなものをモグモグ食べながら「おいしい。おもしろい」とクローズさん。
なお、電気味覚にも合う食べ物と合わない食べ物があるそうで、中村さんは「ケーキに胡椒かけないよね」と説明。
さらに、ニンジンスティックをみそマヨネーズで食べるクローズさん。食べた感想は「僕は名古屋育ちだから、白味噌が赤味噌になったよ!」と語っており、電気を流すことで塩分をより強く感じられるようになる模様。
続いて飲み物に電気を流してみる模様。中村さんは「オレンジジュースがオレンジソーダになる」と言います。
さっそく実験開始ですが、クローズさんは「ん~?」と微妙な表情。
しかし、突然ジュースの味が変化したようで、この表情。ストローを舌の先につけるように飲むのがコツのようです。電気を流すとオレンジジュースに炭酸が加わったような味わいになるそうですが、一体どんな感覚なのでしょうか……?
今後の展望について聞かれた中村さんは、「自分でビジネスとして立ててもいいんだけど、そうすると自分の興味を離れてしまう。だから、まずはいったん世の中に出してみてどういう反応をするか見てみたい」とコメント。また、「耳で聞いてる音楽の刺激も、イヤホンやスピーカーにくるまでは電気で、そこから振動に変換されている。その電気をそのままこっち(エレクトリックフォーク)につなげてあげて、そのまま舌にのせることができれば、YouTubeやSoundCloudがそのままTasteCloud(テイストクラウド)になる」とも語っています。このテイストクラウドっていうのは、味そのものをインターネット上にアップロードして共有するようなもののことを指しており、これを使えば誰でも味を再生して楽しむことが可能で、「音楽編集ソフトで味を調整することもできる」と中村さん。
実際、中村さんはYouTube上で電気味覚データを公開しており、デバイスを使えば再生するデータによって味覚に変化が起きることを感じ取れるのかもしれません。
hiromi apapa nakamura - YouTube
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