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どうして男性向けの「再び妊娠が可能な避妊法」が少ないのか?


経口避妊薬(ピル)や子宮内避妊具ペッサリー殺精子剤など女性向けの「使用後も再び妊娠が可能な避妊法」は数多く存在しますが、男性向けの方法といえば昔からコンドームを装着するか、あるいは避妊法として適切とはいえない膣外射精か、と選択肢がありません。「なぜ男性向けの再び妊娠が可能となる避妊法が少ないのか」という謎をPriceonomicsが解き明かしています。

The Economics of Male Birth Control
http://priceonomics.com/the-economics-of-male-birth-control/

「コンドームと膣外射精は、男性にとって数少ない再び妊娠可能な避妊法です。また、男性にとっての避妊方法は今後もこの2つだけとなるでしょう。その理由は科学的な側面からではなく、経済的な側面からきています」と2013年にWIREDで掲載された記事の中で語ったのは、1950年代にノルエチステロンを合成し、「ピルの生みの親」として知られるカール・ジェラッシ氏。

ピルの生みの親であるカール・ジェラッシ氏。

By Franz Johann Morgenbesser

ジェラッシ氏は「科学的には、我々は男性用ピルを作成する方法を理解している」と主張しており、男性向けの「再び妊娠が可能な避妊法」を生み出すこと自体は比較的簡単なことであるとしています。しかし、ジェラッシ氏は「例え男性向けのピルを作成しようとしても、医薬開発における経済問題が開発の妨げとなるだろう」と語っています。

実際、1930年代にスイス人のマルト・ボゲリ医師が男性向けの避妊法を発見しているのですが、この方法は全く認知されませんでした。ボゲリ医師は1930年から1950年までの間、インドで実験を繰り返しており、複数組のカップルの受精率を20年にわたって調査しています。この調査の中で、3週間に1度精巣を46.7度の熱いお湯に45分間つけることで、6か月もの間カップルが妊娠しなかったことを発見します。この方法を中止した後でも、カップルは明確な合併症などなく普通に妊娠できたそうです。しかし、この実験は一般に認められている臨床試験の基準をクリアしていなかったため、何百というボランティアカップルにより実証されたにも関わらず、その後発展したり使用されたりすることはありませんでした。

By seeingimonkey

また、「避妊」が科学における研究分野のひとつとして認知されるようになったこと自体、ごく最近の出来事であるということも影響しています。それまでにも妊娠の可能性を低くする避妊具に対する需要は存在しましたが、こういった考えは長年「不道徳」で「ふしだら」なものであると考えられてきました。したがって、避妊に関する研究はタブーだったわけです。そういうわけで、世界初のピルが登場した際には、大きな論争の的にもなりました。

最初にピルがFDAに承認されたのは1957年で、生理不順用の薬として認められました。この時、ピルのラベルには副作用として「排卵を防ぐ」と書かれていたそうで、排卵を防ぐことで一時的に妊娠を防ぐものとして世の中に知られるようになります。なお、アメリカでは1959年までに50万人以上の生理不順を訴える女性が生理不順を整えるための薬を服用していたそうです。

しかし、当時から男性はピルのような避妊薬に興味を持たないだろうと考えられており、ピルの登場も影響してか「避妊は女性の問題」と考えられるようになってしまい、男性向けの避妊薬などにはまったく「需要がなかった」とのこと。

By Jamie

それでも、過去の研究の中にはボゲリ医師の手法のように男性向け避妊法として有望なものがなかったわけではありません。しかし、これらが一般向けの製品として開発されることはありませんでした。なぜなら、法的・社会的・生物学的要素が複雑に絡まり、十分な研究費用を得られないこともあったためです。

それを示すように、近年では男性向けの避妊法の研究が供給側でストップされてしまうことが多々ある模様。男性向けの避妊法の開発には「商業的なうまみ」がほとんど存在しないからだそうです。これは、市場がそれほど大きくなく、臨床実験のために長い期間が必要となる点が問題となっています。


男性向け避妊法の市場規模は40億ドル(約4800億円)程度と考えられていますが、そもそも市場にはコンドームやピルなど複数の競合製品が存在します。また、開発期間は短くても5年はかかるようで、開発費用も2000万~5000万ドル(約24億円~60億円)が簡単に飛び、さらにマーケティング費用に3000万~4000万ドル(約36億~48億円)が必要になるとのこと。つまり、新規参入するメリットがまったくないそうです。

加えて、既存の医薬品メーカーが新しい避妊法を開発するとなると、他の研究分野に対する責任が大きくなるため、投資をためらう場合が多いという問題点もあります。

By Army Medicine

最も広く活用されているであろう避妊具のコンドーム。以下の写真は1813年に作られたもので、左上の紙は使用マニュアルだそうです。


「ピルの生みの親」として知られるジェラッシ氏は2015年1月に他界しましたが、彼の教え子のひとりであるエレイン・リズナー氏は現在も男性向け避妊法の開発に立ちはだかる経済的な壁を取り払うための活動を行っています。リズナー氏は薬学関連の研究をサポートする財団Parsemus Foundationでディレクターを務める人物で、現在「Vasalgel」と呼ばれる非ホルモン性の再び妊娠が可能になる男性向け避妊法を開発しています。「Vasalgel」の仕組みは非常に単純で、ゲルを注入して精子の通り道である「精管」を防ぎ、精子が尿道まで行けないようにする、というもの。これは、溶剤を注入することで簡単に溶かすことが可能です。


その他の男性向け避妊具は完成までに5年から10年ほどかかると考えられていますが、この「5年から10年」というのは「永遠と同義で開発するつもりがないのだ」とリズナー氏は語っています。なお、リズナー氏は「Vasalgel」を今後3年以内に一般向けに販売開始したいと考えているそうです。

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in メモ, Posted by logu_ii

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