サイエンス

遺伝子を自在に設計して生物の特性を変えられる神の領域の技術「ゲノム編集」とは?


生き物の設計図である遺伝子情報を、自由自在に設計できる「ゲノム編集」という技術が登場しています。ゲノム編集によって、これまでの遺伝子組み換え技術とは段違いの速度で遺伝子操作が可能となり、理想的な食品や医療技術の登場が期待されると同時に、神の領域に到達した技術のもつ危険さについて懸念の声も上がっています。

The age of the red pen | The Economist
http://www.economist.com/news/briefing/21661799-it-now-easy-edit-genomes-plants-animals-and-humans-age-red-pen

◆遺伝子、DNA、ゲノムとは?
「ゲノム編集」とはどのような技術かをよく理解するためには、はじめにゲノム、遺伝子、DNAなどの用語の意味を理解することが必要です。

アデニン、グアニン、シトシン、チミンの4種類の塩基や糖、リン酸などからなる「デオキシリボ核酸(DNA)」の中には、生物の遺伝的特徴を決める情報を持つ「遺伝子」が含まれています。つまり、ある生物の特性を決めるDNA内の遺伝情報を含む特定の部位を遺伝子と呼ぶというわけで、DNAと遺伝子はまったく同じものではありません。


DNAや遺伝子が物質であるのに対して、遺伝子や染色体など細胞内に含まれるすべての遺伝情報を総称するのが「ゲノム」です。ゲノムとは遺伝子(gene)と染色体(chromosome)を組み合わせてできた造語であり、特定の物質ではなく遺伝子情報そのものを指す用語というわけです。このゲノムを解読することで生物のもつ機能を解読するという試みが、古くから行われてきました。

◆遺伝子操作の目的
遺伝情報を解読する究極の目的は、遺伝情報を操作することで異なる形質を生み出すことにあります。端的に言えば、遺伝情報を操作することで、人間にとって「有益な」「都合の良い」生物を作り出そうということ。例えば、過酷な環境でも育ちやすく栄養価の高い作物や、与えた飼料に対して非常に肉付きの良い家畜など、人間の食料として理想的な動植物を生み出すことが好例です。さらには、難病を克服する理想の体を作るべく有益な「人間(の体)」自体を作り出すということも当然、想定されています。


◆遺伝子組み換えとゲノム編集
近年、ピンポイントに遺伝子を切り貼りすることで、前述した「究極の目的」を達成しようとする技術「ゲノム編集」の研究が急速に進んでいます。

ゲノム編集は特定の遺伝子を置き換えるという点では「遺伝子組み換え」技術と類似していますが、決定的な違いはその精度にあります。遺伝子組み換え技術では組み換える遺伝子をピンポイントに狙うことができないのに対して、ゲノム編集では遺伝子組み換えに比べて数千倍の高い精度で遺伝子操作が可能。つまり、いわば「偶然」や「運」を頼りに膨大な回数の実験を繰り返す必要があった遺伝子組み換え技術に対して、ゲノム編集でははるかに高い精度で遺伝子を操作することができるため、研究速度が格段に向上しているというわけです。

◆ゲノム編集の技術
ゲノム編集では生物のもつ特性を変えるために、特定の遺伝子に切り込みを入れて別の遺伝子を組み込みます。この様なピンポイントの遺伝子操作を可能にしたのが2012年に実用化された「CRISPR/Cas9」と呼ばれる技術です。

DNAに切り込みを入れると切断箇所の遺伝子が破壊されます。切断されたDNAには修復メカニズムが働くところ、ここに切断部分付近と似た遺伝子配列を持つDNAを加えるとそのDNAが組み込まれる「相同組換え」と呼ばれる現象が起こります。このように、DNAに切り込みを入れて遺伝子の機能を停止させたり、任意の遺伝子を組み込むのがゲノム編集です。


CRISPR/Cas9は、機能を停止させたい特定の遺伝子をguide RNAと呼ばれる物質で効率的に見つけだして、Cat9ヌクレアーゼと呼ばれる物質でDNAを切断する技術で、一度に複数の異なる遺伝子を除去したり導入したりでき、それまでに知られていたゲノム編集ツールのZFNに比べて格段に扱いやすいため、CRISPR/Cas9の開発によりゲノム編集の研究が一気に進むことになりました。

◆ゲノム編集による成果
ゲノム編集によって農作物を改良する実験が行われ、すでに長期間ハリを保てる日持ちの良いトマトや、含まれる油の量が50%アップした藻などが生み出されています。また、筋肉の成長を抑制する働きを持つミオスタチンという遺伝子を切断することで、筋肉量が2倍で肉付きのよくなった肉牛などの開発にも成功しています。

ゲノム編集は食品の開発だけでなく、医療目的でも行われています。筋ジストロフィーの原因遺伝子であるジストロフィンを修復することに成功したり、エイズウィルスが結合しやすいリンパ球の突起に関する遺伝子を除去することでエイズ患者の免疫力を飛躍的に高めたりと、医学的な研究成果も上がっています。

◆ゲノム編集の課題
すでにゲノム編集に関して多くの動物実験が行われており、サルでも成功しています。当然、サルで成功した技術は人間にも応用できる可能性が高いと考えられています。

そうすると「サルの次は人間で」と考える研究者が出てきても不思議ではありませんが、生命倫理感の観点から、人間の遺伝子操作に対する反対の声が世界的に挙がっています。そんな中、2015年4月に中国の研究チームが人間の受精卵を使ってゲノム編集を行ったとする論文を発表して、波紋が広がりました。


実験で用いられたのは人工受精の過程で生まれた受精卵で、精子2個分の染色体が含まれた異常があり「成長する可能性がない受精卵だった」という事実があるとのことですが、あらためて「人間の遺伝子を操作することが許されるのか?」という問題を、科学者だけでなく一般人にも提起することになりました。

ゲノム編集の人体への応用については、例えば難病の患者の遺伝子異常を修復することで病気を治すというような次の世代に伝わらない形であれば認めるべきという見解から、一切認めるべきでないという強硬な立場もあり、その意見は分かれています。「生き物の設計図を書き換える」という、少し前まではSFの世界の話であった技術の登場は、その技術がもたらす恩恵とともに、生命のあり方を含めたさまざまな問題を突きつけているといえそうです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by darkhorse_log

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