アレルギーやぜん息を起こさないようにするには「農場に行くこと」が有効?
By Asian Development Bank
農場で育った子どもは、同世代の子どもたちよりも「ぜん息」を起こしにくく、呼吸器系のアレルギーを持つ確率も低いことが統計から明らかになっているそうですが、この理由は「農場で発生するホコリに含まれるバクテリア」にあることが、Scienceで公開された論文により明らかになりました。この事実から、将来的にぜん息やアレルギーをなくすための新たな方法が生まれる可能性が一気に高まっています。
Farm dust and endotoxin protect against allergy through A20 induction in lung epithelial cells
http://www.sciencemag.org/content/349/6252/1106
Here's why farm kids have fewer allergies and less asthma | The Verge
http://www.theverge.com/2015/9/3/9256955/allergies-asthma-farm-kids-dust-endotoxins-a20
呼吸器系のアレルギーは、アメリカ人の子どもが持つアレルギーとしては最も一般的なもののひとつで、なんと全体の17%が何らかの呼吸器系のアレルギーを持っているほどだそうです。さらに、アメリカにはぜん息持ちの子どもが約680万人もいるそうで、呼吸器系のアレルギーやぜん息を抑えるための研究はこれまでも重要視されてきました。
Scienceで公開された論文では、呼吸器系のアレルギーやぜん息について調査を進めるうちに「全ての子どもに均等にアレルギー症状が起きているわけではない」ことが判明。さらなる調査の中で「農場で育った子どもはアレルギーやぜん息を持つ確率が非常に低い」という事実を発見しています。なお、中でも酪農家の子どもは特に低い確率を示していたそうです。
By U.S. Department of Agriculture
そこで研究者たちが農場の環境調査を進めたところ、農村で育った子どもはあるメカニズムによりアレルギーやぜん息から体を守っていることが判明しました。そしてこのメカニズムは、薬を使えば都市部に住む子どもにも起こせるものである、とのことです。
研究者たちが行った実験というのは、農場のホコリや牛ふん肥料などに含まれる死にかけのバクテリアのかけらである「エンドトキシン」にネズミを2週間さらしておき、その後げっ歯類がアレルギーを起こす「チリダニ」にさらすというもの。この実験の結果、エンドトキシンにさらされたネズミは、チリダニなどにより引き起こされるぜん息やアレルギーを起こさなかったことが判明しています。
さらに詳細な実験を行うことで、研究者はエンドトキシンにさらされたネズミの肺には「A20」と呼ばれる分子が含まれており、この分子が肺細胞に作用してアレルギーなどにより生じる免疫反応を抑制していることを発見しています。研究では「A20」が免疫反応を調整する鍵となる分子かどうかを確認するため、肺細胞に「A20」が含まれていないネズミを育てており、このネズミを農場のホコリやエンドトシンにさらす実験を行っています。この実験で、「A20」を持たないネズミはぜん息になってしまい、ここから農場のホコリが肺の「A20」に反応してアレルギーやぜん息から体を保護していることが明らかになったわけです。
By NIAID
ネズミによる実証実験の後、人間の肺でも同様の反応が起きるかどうかの実験が行われており、エンドトキシンにさらした人の肺細胞でも免疫反応が低下することが確認されています。しかし、すでにぜん息を発症している人の肺細胞を培養してエンドトキシンにさらしたところ、ぜん息のアレルギー反応が起きることがわかっており、これは「ぜん息を持つ人の肺細胞では十分な量の『A20』が生成されないことを示唆している」と指摘しています。
さらに、別の研究で集められた1700人分のヨーロッパの農家の子ども(6~12歳)に関するデータを調査することで、呼吸器系のアレルギーに苦しむ子どもは、「A20」分子が作用しなくなる遺伝子変異体を持つことも明らかになっています。
By NIAID
論文を発表したのはベルギーのゲント大学で呼吸器科医として働くバート・ランブレヒト氏とその研究チーム。ランブレヒト氏は「この反応を活用すれば、アレルギーを完全に起こらなくすることもできます」と、コメントしていますが、これはあくまで「A20」が肺の中で高いレベルで活動している場合の話で、遺伝的に「A20」がほとんど生成されない場合には全く効果がない可能性もあります。なお、「A20」と農場のホコリが互いに作用し合う現象について、「これはアレルギーから体を守ることのできるまったく新しいメカニズムです」とランブレヒト氏は語っています。
一方で、研究では既にぜん息を持っている人がエンドトキシンにさらされたとしてもアレルギーによる免疫反応を抑えることができないことが明らかになっており、仮にぜん息や呼吸器系のアレルギーを起こさないようにするために、「A20とエンドトキシンの反応」を応用した薬を開発したとしても、2、3歳以上の子どもには効かない、とのこと。それどころか、エンドトキシンレベルが高くなるとぜん息の症状が不安定になるとのことで、この新たな発見をぜん息や呼吸器系のアレルギーを完全に撲滅するために活用するにはまだまだたくさんの障害が残っているといえます。
ただし、研究では2、3歳以下の小さな子どもが農場の空気を吸うことはぜん息やアレルギーから身を守るための有効な手段になるとしており、ランブレヒト氏は「この研究は子どもを農場にある託児所などに送り出すことを恐れる必要はない、ということを示してくれています」と述べています。
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