サイエンス

ぜんそくの人が脳腫瘍になりにくい理由とは?


アレルギーなどが原因で気道に慢性的な炎症が生じ、わずかな刺激で気管支を囲む筋肉が収縮して空気の通り道が狭くなるぜんそくは、激しいせきや胸の痛み、動悸(どうき)、息切れ、呼吸困難などの症状をもたらす一方で、「ぜんそくの人は脳腫瘍になりにくい」ということも知られています。新たにワシントン大学の研究チームが、ぜんそくの人が脳腫瘍を発症しにくい理由についての研究結果を発表しました。

Asthma reduces glioma formation by T cell decorin-mediated inhibition of microglia | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-021-27455-6


Asthma may reduce risk of brain tumors — but how? – Washington University School of Medicine in St. Louis
https://medicine.wustl.edu/news/asthma-may-reduce-risk-of-brain-tumors-but-how/

We Just Got Closer to Understanding Why Asthma Might Protect From Brain Tumors
https://www.sciencealert.com/there-s-a-strange-perk-to-asthma-it-comes-with-fewer-brain-tumors

21世紀になって以降、大規模な疫学的研究結果から「ぜんそくの患者は脳腫瘍の発症率が低い」ことが指摘されてきました。ところが、気管支や肺の病気であるぜんそくと脳の腫瘍との関連は理解されておらず、一部の研究者は単なる偶然だと片付けていたとのこと。

しかし、2015年にワシントン大学の研究チームが発表した論文でも、視神経の経路に沿って腫瘍が発生しやすい遺伝子を持つ子どもが、一般的な集団よりぜんそくになりにくいことが示されました。その後の研究により、これらの子どもにおける脳腫瘍は、ウイルスや病原菌を排除する免疫反応に関わるT細胞と脳脊髄中で神経組織の修復に関わるミクログリアが、視神経と相互作用することによって発生する証拠が発見されました。

アレルギー性疾患であるぜんそくにはT細胞が深く関わっていることが知られているため、研究チームはT細胞がぜんそくと脳腫瘍に対してどのように関与しているのかを疑問に思い、マウスを使った実験を行ったとのこと。実験では視神経腫瘍を発生しやすく遺伝子を改変したマウスに対し、一部のグループでは生後4~6週間目にぜんそくを誘発する刺激物に暴露させ、別のグループでは塩水に暴露させました。その後、研究チームは生後3カ月と6カ月の時点でマウスの脳を調べ、視神経に腫瘍ができているかどうかを確かめました。

その結果、不思議なことにぜんそくを持つマウスでは脳腫瘍が発生していなかった一方、ぜんそくを持たないマウスでは予想された通り腫瘍が形成されていることが判明。この研究結果は、脳腫瘍の形成を阻害する一方でぜんそくを生じさせる、何かしらの要因が存在することを示唆しています。


研究チームはさらなる実験で、ぜんそくを誘発したマウスにおけるT細胞の挙動を調べたところ、ぜんそく発症後にT細胞が「decorin(デコリン)」と呼ばれるタンパク質を分泌し始めたことがわかりました。一方、ぜんそくを発症しなかったマウスではT細胞のデコリン分泌量が増えませんでした。

デコリンは気道周囲の組織に作用するとぜんそくの症状を悪化させることが知られていますが、今回の研究では、中枢神経系で分泌されたデコリンがミクログリアの活性化を妨害することもわかりました。活性化したミクログリアは脳腫瘍に浸潤し、ミクログリア由来の物質が腫瘍細胞の増殖を促進するため、デコリンが脳腫瘍の成長を妨げることも説明できます。

論文の上級著者であるDavid Gutmann博士は、「もちろん、私たちは(脳腫瘍を防ぐためだとしても)誰にもぜんそくを誘発するようなことをするつもりはありません。ぜんそくは致命的な病気になり得るからです。しかし、ぜんそくの人のT細胞が脳に入った場合、その人において脳腫瘍の形成と成長がサポートされなくなったとしたらどうでしょう?これらの知見は、T細胞と脳内の細胞との相互作用を標的とした、新しい治療法への扉を開きます」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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