携帯電話やWi-Fiが禁止され、あらゆる電波が遮断される街の実態を描いたムービーが公開中
街に入るとラジオの音楽はホワイトノイズに変化し、携帯電話は圏外、電子レンジの使用も禁止されているという、一切の電波を遮断した街が存在します。この「グリーンバンク」と呼ばれる街では一体何が行われ、どのような人々が暮らしているのか、街の実態を追ったムービーが公開されています。
The American Town Banning Cell Phones and Wi-Fi - YouTube
ビルなどが一切なく、草花が生える土地が辺り一面に続くのどかな場所。
民家は間隔をあけてポツリポツリと建っています。
カメラが捉えているのはアメリカ、ウエストバージニア州にあるグリーンバンクという街。グリーンバンクに入ってしばらくするとラジオの音楽はやみ、「ザー……」というホワイトノイズに変化します。
リポーターであるローラ・リンさんの携帯電話は電波が通じない状態に。これはグリーンバンクに携帯電話基地局が存在しないためです。
アメリカで最も静かな場所の1つと言われるグリーンバンクは、広さ1万3000平方マイルの「National Radio Quiet Zone」の中にあります。アメリカ国立電波天文台(NRAO)のグリーンバンク望遠鏡をさまざまな電波の影響から守るため、1958年から家庭で使用するWi-Fiのほか、電子レンジ、電気毛布に至るまで、規格を満たさないさまざまな家電製品の使用が禁止されています。
これが電波望遠鏡。
建物と比べるとその巨大さがよく分かります。
ヘルメットをかぶったローラさんは電波望遠鏡に上っていくようです。
電波望遠鏡の上からは街の景色が一望できます。
別の電波望遠鏡がある以外は、辺りに高い建物は一切無し。
NRAOの科学者であるジェイ・ロックマンさんは「科学者たちは電波望遠鏡を使って宇宙のはるか向こうで星が生まれたり死んだりするのを観察するんだ」と説明します。
「電波望遠鏡のユニークな点は何ですか?」とローラさん。
「電波望遠鏡のユニークな点は、その設置場所です。無線伝送が禁止された場所にあるため、シグナルを阻害して研究の邪魔をする人工物の干渉が一切ありません。携帯電話やデジカメについている送信機などさえ制限され、宇宙で起こっている幅広い現象を正確にトラッキングすることができます」とロックマンさん。
電波のない街では人々が自分の世界に閉じこもってしまうのでは?という疑問が浮かびますが……
「私は少し不思議の国にいるような気分になるね」とロックマンさん。
「この場所では偉大なる科学が進行しています」
「人々は携帯電話のない生活を想像できないかもしれませんが、人間の歴史を振り返れば、昔は携帯電話なしで問題なく生活していました」
グリーンバンクでの生活はちょうど、1980年代にいるような気分だそうです。
次に映し出されたのはノートPCと大がかりな機材。
車の中に機材を積んで運転しているのはジョナ・バウザーマンさん。彼は無線伝送が禁止されている地域を車でパトロールし、電波望遠鏡に影響するような電波が辺りに発生していないか調べています。
「公にはなっていないが家でWi-Fiを使うことは不法ではなく、時々天文台の職員が『Wi-Fi機器の電源を切ってほしい』と頼みにくる程度です」と語る住民もいますが、街ではWi-Fi・コードレスの電話・電子レンジなど、シグナルを伝送するものの使用は許されておらず、住民たちは上記のような電子機器を使わない旨、契約書にサインする必要があります。
「レシピサイトのLean Cuisineを見ながら夕食の準備をすることができないというわけね」と話すローラさんに、「みんな他の何かで代用しているよ」とバウザーマンさん。
「まるでここだけ時代が違うみたい」とローラさんは語りました。
街には、今では数が少なくなった公衆電話が設置されています。
また、グリーンバンクは科学の発展に大きく貢献している場所というだけではなく、電磁波過敏症(EHS)に悩む人の楽園としても機能しています。EHSは送電線や家電製品から発せられる電磁波などによって体調が悪くなる人々のことですが、現在、病気と認定しているのはスペインとスウェーデンのみです。
ダイアン・スカウトさん、ジェニファー・ウッドさん、メリッサ・コマーズさんという3人の女性も、電磁波の影響に苦しみ、グリーンバンクに移住してきました。3人以外にも、Wi-Fi技術の発展により、ここ数年で数十人の人々が電磁波の影響から逃れてグリーンバンクにやってきています。
ダイアナ・スカウトさんは「もともと、携帯電話基地局が家の近所にあったの。でもその後に送電線や蛍光灯のついた電子機器ができていって、さまざまな電子機器が私を苦しめだしたんです。お隣さんがコーヒーメーカーを使うだけで頭痛がするくらいに」と語りました。
メリッサ・コマーズさんは携帯電話を数分使っただけで顔がまひしてしまうそうです。最後に携帯電話を使った時は2週間もの間まひしっぱなしだったとのこと。
ジェニファー・ウッドさんは電子機器を使わずに家を自らの手でいちから作ったという女性です。
「あなたの頭痛は環境によるものではなく、あなたの頭の中にある不和が問題だ、という人たちに対してどう思いますか?」と尋ねられると……
「無学で、考え方が閉鎖的で、自分勝手だと思うわ。痛みは本物だし、事実なのよ」とスカウトさんは語りました。
「この静かな場所にやってきた時、どう思いましたか?」と尋ねられると、「体がリラックスできた点がすばらしかったわ」とコマーズさんは語りました。ずっと続いていた耳鳴りがグリーンバンクに移住して数日でやんだというコマーズさんにとって、「ここは今までで一番好きな場所」だそうです。
電磁波の影響で体調を崩し、どんどん体重が減っていたというウッドさんは、グリーンバンクに移住して2週間で体重が戻り始めたとのこと。
しかしテクノロジーの進歩と共に、グリーンバンクでも電波の影響が徐々に大きくなっています。
先ほどと同じような穏やかな場所を運転するバウザーマンさんですが、「ここには14~15のWi-Fiモデムがある」と語ります。
本当はWi-Fiが存在しないはずのエリアにWi-Fiが存在することについて「残念だけど、事実なんだ」とバウザーマンさん。いくら無線の使用が許されていないといっても、人々に無線の禁止を強制するのは難しく、グリーンバンクが「無線の存在しない街」として存在し続けられるかは疑問の残るところです。
「ここで行われている『科学』は今この時のためのものではなく、次の世代のためのものなんだ。宇宙は広くて、壮大だ。過去を振り返るとびっくりするくらいに」とバウザーマンさんは語りました。
なお、2021年までにグリーンバンクの電波望遠鏡は地球外生命の探索において大きな貢献を果たすものとみられています。
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