冥王星の地表が手に取るように見える高精細画像が公開・カロンとハイドラの2つの衛星写真も
約9年間かけて冥王星に到達した無人探査機「ニュー・ホライズンズ」が人類で初めて冥王星の詳細な姿を写真に収めたことがニュースなどで伝えられていますが、NASAはさらに詳細な地表の姿を捉えた画像を公開しました。画像からは、冥王星には富士山と同じぐらいの高さ約3500メートル級の氷でできた山が存在していることが明らかになっています。
The Icy Mountains of Pluto | NASA
http://www.nasa.gov/image-feature/the-icy-mountains-of-pluto
公開された冥王星の地表画像がこちら。地表の一部分を大きく拡大したもので、激しい凹凸と平らな部分が入り交じった地形をしており、ひとめ見た印象では地球の月ともよく似た様子になっているのがわかります。この写真は、ニュー・ホライズンズが冥王星に最接近するおよそ1時間前に撮影されました。
この拡大した部分はどこなのか、それは以下のツイートで示されています。
Zoom into Pluto & discover mountains, seen during yesterday's @NASANewHorizons #PlutoFlyby: http://t.co/6QLXLxiW0o
https://t.co/toJQ0j7wB6
— NASA (@NASA) 2015, 7月 15
拡大されていたエリアは、以下の画像のように赤道に近いごくわずかなエリアであったことがわかります。「下にあるのに赤道?」と思うかも知れませんが、冥王星は地軸の傾きがほぼ真横に傾いているため、北極と南極が画像の左右に位置し、赤道は画像の上下方向に通るようになっています。
画像に距離を示してみた画像がコレ。中央近くには山々の様子が写っており、中には3500メートルを超えるものも存在しているとのこと。いずれもその様子から形成されてから1億年以内であると考えられているのですが、これは星のタイムラインで考えると非常に「若い」山であると言うことができます。
冥王星が生まれた直後に活発に起こっていた地表の生成は何億年も前に終了しているため、直近の1億年以内で山を作り出す地形活動が起こっていたということは、別の何らかのエネルギー源が存在していることを意味しています。冥王星は天体のサイズが小さく、重力のはたらきによる天体内部での発熱が十分に起こらないために内部からエネルギーを作り出す事は考えにくいため、何か他の要素が作用することで地殻の変動が起こっているのではと考えられています。NASAの地質・地球物理学およびイメージング(GGI)チームのリーダー、ジェフ・ムーア氏はその状況を踏まえ、「現在でも活動が続いているかもしれない」と語っています。
冥王星の地表は主にメタンと窒素の氷でできていますが、これらの氷は本来3000メートル級の山を形成するのに十分な強度を持っていません。そのため、山を形成する地形の核となる部分は水の氷によって構成されている可能性があります。GGIの副リーダーを務めるビル・マッキノン氏は「冥王星の温度下では、水の氷は岩石のような特性を持ちます」とその可能性を語っています。
◆徐々に精細になってきた冥王星の撮影画像
冥王星の存在が1930年にアメリカの天文学者、クライド・トンボーによって発見されて以来、85年にわたって観測が続けられてきました。地球から極めて遠く離れているためにその観測は困難なものでしたが、次々に進歩する観測技術によって次第にその姿を鮮明に捉えられるようになってきました。
Views of Pluto Through the Years | NASA
以下の画像をクリックすると、1930年のトンボーによる写真から次第に鮮明になり、冥王星から「目と鼻の先の距離」で撮影された画像までの遍歴をGIFアニメで見ることができます。
◆冥王星の月・「カロン(Charon)」と「ハイドラ(Hydra)」
ニュー・ホライズンズの調査により、冥王星の月である「カロン」と「ハイドラ」(または「ヒドラ」)の姿も徐々に明らかにされてきました。
Charon’s Surprising, Youthful and Varied Terrain | NASA
冥王星と同じく、ニュー・ホライズンズが接写したカロンの姿がこちら。NASAによると、カロンの大きな特徴は「画面左下から右上にかけて、長さ1000kmに及ぶ地表の裂け目があること」「画面右上部分に深さ7~9kmの渓谷があること」そして「クレーターが極めて少ないこと」の3点。これらの特徴は、カロンでも最近まで地形活動が起こっていたことを示すものだとのこと。さらに、上部に暗く写っているエリアは他の部分とは異なる組成を持っていると考えられており、今後続々と送られてくる高解像度版イメージを詳しく分析することになっているそうです。
そして、2005年に発見された月「ハイドラ」の画像も公開されています。
Hydra Emerges from the Shadows | NASA
これまでとは一転、ハイドラの画像は大きくドットが目立つ画像になっていますが、これまでとは比較にならないほど「鮮明」に捉えた姿となっているようです。この画像からは正確な星の形状はわかりませんが、ドットの1辺の長さは約3kmに相当しており、明るく輝いている部分の大きさは43km×33km程度とみられています。ハイドラは大部分が氷でできた天体と考えられており、宇宙最大の氷でできた天体とも考えられています。その一部には暗く見える部分があり、光の反射率は冥王星とカロンの中間程度とされています。
冥王星・カロン・ハイドラという3つの天体の高解像度画像はニュー・ホライズンズに搭載されているメモリに保存された状態となっており、遠く離れた地球へ約4か月の時間をかけて全てのデータが送られることになる予定とのこと。48億kmの旅路の末に冥王星にたどりついたこともすごい出来事ですが、ニュー・ホライズンズで撮影された画像データが4時間もの時間をかけて地球へ到達し、鮮明な画像イメージが再現されるというのは何度考えても感慨深いものがあります。
◆2015/07/21 15:45追記
ニュー・ホライズンズが捉えた画像をつなげて、まるで冥王星の上空を飛んでいるような光景を再現したムービーが公開されています。
Animated Flyover of Pluto’s Icy Mountain and Plains - YouTube
こちらのムービーは、「ノルゲイ山地(Norgay Montes)」の上空を飛ぶ様子をアニメで再現したもの。
平地のなかに山が点在する冥王星の大地を、カメラは手前から画面奥に向かって飛行します。手前や右奥の部分がグレーアウトしているのはデータが得られていない部分だと思われます。
太陽光による影を落としてそびえ立つノルゲイ山地の姿がくっきりと写っています。山地の名称は、エドモンド・ヒラリーとともに人類初のエベレスト登頂に成功したチベット人シェルパ、テンジン・ノルゲイの名前から非公式ながら名付けられたものだとのこと。
そして次に、「スプートニク平野(Sputnik Planum)」の上空を飛んだもの。
凹凸のある表面はまるで水の海が作る波が模様を作ったかのように見えます。この画像は、ニュー・ホライズンズに搭載された長距離望遠レンズ「LORRI」によって距離7700万kmの地点から撮影されたもので、視界に入っているエリアの幅はおよそ1kmだそうです。
また、ニュー・ホライズンズの画像を元に3Dデータを作成し、地表近くをぐりぐりと回るムービーも公開されています。
The Icy Mountains of Pluto 360 spin - YouTube
険しい起伏を見せる冥王星の山岳地帯。この3Dムービーを作成したのは、3D映像作家/ディレクターのMattias Malmerさん。普段は3D映像制作事務所を運営するMalmerさんですが、自身の趣味の一環としてこの作品を作り上げたとのこと。
画像が回転することで、山の起伏の表情が手に取るようにわかります。
地球から遠く48億km離れた場所にある星の様子をこのようにリアリティを持って感じ取ることができるという、実に驚きのムービーとなっていました。
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