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電気代を劇的に減らし未来の生活を大きく変え得る「エネルギー貯蔵」技術の展望とは?

By German Aerospace Center DLR

エネルギー貯蔵」とは、エネルギーを後から利用できる形で引き出せるように格納する技術のことで、電気エネルギーを貯めておく「電池」が代表的なエネルギー貯蔵媒体です。リチウムバッテリーなどの大幅な進化によってテクノロジーが大きく進展しようとする中で、一般的な二次電池とは異なる形のエネルギー貯蔵媒体の技術によって、世の中のエネルギー事情が大きく変わると期待されています。

Why Energy Storage is About to Get Big – and Cheap | Ramez Naam
http://rameznaam.com/2015/04/14/energy-storage-about-to-get-big-and-cheap/

ノートPC・スマートフォン・電気自動車などが広く普及した要因として大容量のリチウムイオンバッテリーの進化があることは広く知られています。リチウムイオンバッテリーの進化は、出力や耐久性の向上だけでなく、年々、価格が下がったことも大きなポイント。リチウムイオンバッテリーの価格は1990年から2005年までの15年間で価格が10分の1まで下がったことがその後のモバイルデバイス普及に大きく貢献することになりました。

By Intel Free Press

しかし、リチウムイオンバッテリーを代表とする二次電池の多くは、容量単価や出力できる電力量単価という点で言えば、発電用電源である発電所とは比べることができないほど高コストで、リチウムバッテリーは主に持ち運び用のエネルギー貯蔵媒体としては適当ではあるものの、より大容量の電気エネルギーを保存する常設装置としてはコスト面で不利だと考えられています。これに対して、リチウムイオンバッテリーよりも重量増、容積増にはなるものの、大量の電力を保管できる装置として、「流動電池(レドックス・フロー電池)」と「圧縮空気蓄電池」が近年、大きく注目されています。

・流動電池
リチウムイオンバッテリーなどの一般的な二次電池では固体電極そのものが酸化還元反応して変化するのに対して、流動電池は溶液中のイオンが酸化還元反応するため電極の化学変化がないので構造的劣化がほとんどないという特長がある電池です。さらに、流動電池の最大のメリットとして、溶液量を増やすことで貯蔵できる電力量を増やせるという特長が挙げられます。つまり、大容量化したければ電池の溶液を入れるタンク自体を大きくすればOKということで、一般的な二次電池よりもはるかに簡単かつ低コストで大容量の電力を蓄えることができるというわけです。


・圧縮空気蓄電池
圧縮空気蓄電池は、空気を圧縮するときに発生する熱を電気エネルギーとして蓄える装置で、基礎的なアイデア自体は非常に古くから知られていたものの、蓄えるエネルギー量に対して取り出せるエネルギー量の割合を示す発電効率の低さから、実用化にはいたっていなかった技術です。しかし、17歳でプリンストン大学大学院に進学した天才科学者ダニエル・フォンが起業したLightSail Energyの登場で、圧縮空気蓄電池の実用化が現実味を帯びてきています。


リチウムイオンバッテリー、流動電池、圧縮空気蓄電池など、エネルギー貯蔵媒体は種類を問わず、ひとたび好循環のサイクルに入ると一気に普及するという特徴があります。これは、「バッテリー価格の低下」→「新しい市場の誕生」→「バッテリー需要の高まり」→大量生産を原因とする「バッテリー価格の低下」というサイクルが加速するから。流動電池、圧縮空気蓄電池などの大容量の電力を蓄えられる次世代型エネルギー貯蔵技術が、今後はこの好循環のサイクルに乗り、一気に普及する可能性があるというわけです。


◆エネルギー貯蔵技術で生まれる効果とは?
・電気代の低下
流動電池、圧縮空気蓄電池などの大容量の電力を蓄えられる次世代型エネルギー貯蔵技術が普及することで得られるメリットとして「電力コストの低下」が挙げられています。現在、各国の電気料金は総じて電力使用時間によって電気代が変動するという仕組みが採用されています。下の図はカリフォルニア州の電気料金を時間別にグラフ化したもの。もっとも電気が使われる午後1時から午後7時までのピーク時は電気代が1kWhあたり34.6セント(約41.4円)なのに対して、夜9時以降は1kWhあたり15.4セント(約18.4円)とピーク時の半額以下という従量制が取り入れられています。


「なぜ電気使用量が多い時間帯が高いのか?」という素朴な理由は、電力会社の発電コストから説明できます。電力会社は電力を1年365日24時間常に安定的に供給することが求められるところ、ピーク時に対応できるように普段はフルパワーでは発電していない発電所を維持しています。そして、このピーク時の電力不足を補うために活動させておく発電所は、常時発電している発電所に比べると比較的発電コストの高いクリーンエネルギーなどを使うため、ピーク時の発電コストも高くなり、結果的にピーク時の電力コストアップを吸収するために電気代が高くなるという単純な仕組みになっています。

そのため「電気が余っている時間帯に発電した電力を、ピーク時に移し変える」ということができれば、電気料金を引き下げつつ安定的な電力供給が実現できるという点で、消費者・電力会社ともにWin-Winの関係になるため、大容量の電気を蓄えておけるエネルギー貯蔵媒体の開発が求められているというわけです。

・「自家発電」の活性化
日本でも太陽光発電のエネルギーを電力会社に買い取ってもらえる固定価格買取制度が実施されたことで、太陽光パネルを設置して家庭や企業が自ら発電するというケースが増えています。そして、現状では太陽光パネルのエネルギー効率がせいぜい20%にすぎないことから、今後の技術革新によって発電効率が高まれば、電力会社から電気を買うことなくエネルギーを自給自足するという生活も現実味を帯びてきます。そのような自給自足のエコエネルギーシステムの完成にはエネルギー貯蔵媒体は大きな鍵を握る存在になりそうです。

下の折れ線グラフは電力需要を、放物線状のグラフは家庭や企業など主要な電力会社以外の発電量を示しています。つまり、グラフのオレンジ色の部分は電力需要以上に発電できている状態。


この余剰電力を次世代型エネルギー貯蔵媒体に蓄えて、後から有効利用できれば大きなメリットになります。


・クリーンエネルギーのさらなる活用
化石燃料や核反応を使わないクリーンなエネルギー創出方法として太陽光発電以外にも風力発電や潮力発電も有力視されています。太陽光発電に比べて風力発電や潮力発電では発電量自体は小さいものの、発電設備の設置費用が比較的安価で、太陽光発電と違い昼夜を問わず常に一定量で発電できる安定性の面で有利な点は注目に値します。従来は水力発電という設営場所が限られる発電所でしか活用されていなかったクリーンエネルギーも、エネルギー貯蔵技術が発展することで、より有効利用できると期待されています。

By Washington DNR

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in メモ,   ハードウェア,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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