音楽によって「時が止まったような瞬間」が生まれるメカニズムとは?
By Angus
時計で計測できる「客観的時間」は誰にでも一定ですが、素晴らしい音楽を聞いていると時間の流れ方を早く感じたり短く感じる「主観的時間」があります。そんな主観的時間が流れるスピードや感じ方を音楽によって操作する仕組みを、作曲家でスタンフォード大学教授であるジョナサン・バーガー氏が解説しています。
How Music Hijacks Our Perception of Time - Issue 9: Time - Nautilus
http://nautil.us/issue/9/time/how-music-hijacks-our-perception-of-time
バーガー氏は40年前にシューベルトの弦楽五重奏曲ハ長調を聞いた時、「時間が失われて停止したような、圧倒的に強烈な感覚を体験した」とのこと。その経験から音楽が時間を操作できることを学んだバーガー氏は、「主観的時間」の操作について調査や研究を始めました。
日常の中でも、バーでスローテンポの音楽をかけると、お客さんは楽しい印象を受けるので長居するようになり、ドリンクの売上が増えるようになるとのこと。また、スーパーマーケットでスローな音楽をBGMに設定すると顧客の滞在時間が38%延びたという研究結果も出ています。
By BemLoira BemDevassa
また、2004年にRoyal Automobile Club財団は熱狂的なテンポが運転手の正常な速度感覚に干渉してスピードを上げさせるとして、リヒャルト・ワーグナーの「ワルキューレの騎行」を、運転中に聞くと最も危険な音楽であると判断しています。
By Jez
音楽によって極度に知覚を左右されているような状態の時、神経科学の見地では、人間は自ら前頭前皮質の活動、特に「自己」に関するエリアの機能を一時的に停止させていると考えられています。神経科学者のイラン・ゴールドバーグ氏によると「一時的に自己喪失に陥っている時、人はクリアな神経相関物を受け取ることになります。そのため前頭前皮質は流れてくる音楽の重要性を再評価しています」と述べており、音楽が時間が止まっているような「禅」に似た状態を生み出す場合があるとのこと。
By ZEISS Microscopy
音楽は脳のある部分を占領することができるわけですが、作曲家はその効果を意識したテンポを「アダジエット」「レンティッシモ」「アレグロ・マ・ノン・トロッポ」という風に楽譜に起こすことができます。バーガー氏が最も気に入っている速度標語は「テンポ・ルバート」で語源のイタリア語が表す通り、「時間を盗む」ことができると話しています。
By FadderUri
主観的時間をゆがめることに長けている作曲家としてはアントン・ブルックナーやオリヴィエ・メシアンなどが挙げられますが、シューベルトは一時的ながら主観的時間の根本的なコントロールに成功している作曲家だとバーガー氏は解説しています。
なお、シューベルトの楽曲の一部は以下から試聴可能です。
シューベルトのような「長-短-長」のリズミカルなテンポや、「同じテンポの反復」といった音楽は主観的時間の“ハイジャック”に効果的とのことです。音楽の聞こえ方による主観的時間の感じ方は人によって異なりますが、バーガー氏は音楽の科学的な脳への影響を意識して音楽記号を配置することでまるで時間を操るような効果を生み出すことができると主張しています。
・関連記事
Googleがクリックするだけで音楽の歴史をジャンル別に表示できるサービス「Music Timeline」を公開 - GIGAZINE
書き込んだ文字列が音楽になる「すたどんたん」 - GIGAZINE
レオナルド・ダ・ヴィンチの幻の楽器でピアノ+チェロ「ヴィオラ・オルガニスタ」の音色はこんな感じ - GIGAZINE
映像を一時停止して確認したくなる10本の映画の決定的瞬間 - GIGAZINE
ゲーマーなら知っておきたいゲーム音楽における10人の名作曲家 - GIGAZINE
・関連コンテンツ