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映画「GODZILLA ゴジラ」のサウンドメイキングを語るドキュメンタリームービー


2014年に公開された映画「GODZILLA ゴジラ」は「オリジナル作品に匹敵するほど素晴らしい」と語られるなど非常に高い評価を得ています。そんな作品づくりの現場でサウンドデザイナーがどのような取り組みを行い、あのゴジラの音などが再現されていたのかを収めたドキュメンタリームービーが公開されています。

SoundWorks Collection - The Sound of Godzilla on Vimeo


映画「Godzilla ゴジラ」のサウンドデザインに携わったのは、「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」に携わっていたエリック・アーダール氏と、「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」のイーサン・ヴァン・ダー・ライン氏。両者はともに自分がゴジラ映画に携わることになった時に「信じられない」という感情に興奮したといいます。


アーダール氏は「とてもエキサイティングだよ。全ては1本の電話から始まった。2011年の終わりごろ、エグゼクティブ・プロデューサー(製作総指揮)のアレックス・ガルシアから電話があって『新しいプロジェクトがある。ゴジラだ』と伝えられたんだ」とその経緯を語っています。


アーダール氏:
「映画の音に携わる人間にとって、ゴジラ映画は歴史であり一つの『象徴』のようなものだ。そこで僕とイーサン(ヴァン・ダー・ライン)は監督のギャレス・エドワーズと電話で話しをすることにしたんだ。僕らは彼の「モンスターズ」という作品を見て感銘を受けていたので、まずどのようなサウンドを実現するかについてよく話し合うことにしたんだ」


一方のヴァン・ダー・ライン氏は「僕は自分が天才たちと一緒に仕事をしているってわかっていたから、イスに腰掛けて何が起こっているのかを見ているだけだったよ」と語り、恵まれたチームで仕事できていた様子を語っています。アーダール氏はヴァン・ダー・ライン氏について「イーサンは世界でも最も仕事に厳しい人で、2人でさまざまな方法を考案して音をとっていった」と語り、ヴァン・ダー・ライン氏はアーダール氏について「エリックはいつも仕事に満足することがなく、常にもっといい方法を探そうとしていた」と高く評価するコメントを残しています。


そんな優秀な2人のエンジニアですが、ゴジラ映画のサウンドを作り上げる際に最も参考にして注意深く接したのは、1954年に製作されたオリジナル版ゴジラだといいます。アーダール氏は「オリジナルのゴジラに敬意を払って仕事したよ」と語ります。


アーダール氏:
「世界中で、目をつぶって聞いた音が何の音であるかを言い当てられることなんて、そんなに多くあるものじゃない。しかし、ゴジラはまさにそれなんだ。だから、僕たちはその文化的な歴史をないがしろにすることができなかった。元となるものを踏襲した上で、現代的にアップデートする必要があった」


「東宝がオリジナルの音源を探してくれた。オリジナル版ゴジラは、日本で初めて磁気テープを使った録音が行われた映画だった。初代ゴジラのサウンドクルーは世界中のさまざまな生き物の音からゴジラの音を見つけようとしたが、うまく行かなかった。そこで、ゴジラの作曲家だった伊福部昭氏が、特殊な方法で楽器のコントラバスの弦をこするという有名な手法を思いついたんだ」


「僕らも初代ゴジラの音響チームと同じように、イルカや象のような動物の鳴き声を使うことを試みたが、うまく行かなかった。これは本当に『ゼロか1か』で割り切って判断できるようなものではなく、もっと感情に訴える仕事だったよ。この仕事に関わっていた者はみな、ゴジラの歴史に敬意を表しながら新しいユニークなものを作り出そうと努力していたんだ」


撮影時にもゴジラの「音」は重要視されていたといいます。CGが発達した現代では、演技といえばCG用に張られた緑色のバックの前で、先に白い玉がつけられた棒を相手に見立てて演技することが多くなりましたが、指揮をとったエドワーズ監督は自分のiPadにゴジラの声を入れて現場に持ち込み、スピーカーから再生させながら役者に演技させるという工夫を行っていたそうです。


今回のゴジラ映画は、ゴジラと並んで2体のムートーが大きなパートを占めています。アーダール氏とヴァン・ダー・ライン氏はそんなムートーの「ソウル」を表現することに全力を注いだといいます。


アーダール氏「声にはその動物のキャラクターが表れるものであり、声を付けるということはCGのキャラクターに「人格」を与えるものなんだ。ゴジラとムートーの興味深い点は、映画『ジョーズ』や『エイリアン』に登場するような心を持たない殺戮者ではなく、キャラクターがある点だ。オスとメスのムートーがお互いを探し求めたり、子どもに愛情を注ぐという心を持った存在であるという点だ。ムートーの巣が破壊されて卵が全て破壊されたシーンでは、メスのムートーがゴジラとの戦いを中断して巣に戻ると言うシーンがあるが、そのようなキャラクターのソウルを表現することに力を注いだよ」


この作品の撮影と音響効果に関しては、アメリカ軍から多くの協力を得ていたことが明らかにされています。2名は海軍の協力のもと、メキシコ湾に駐留中の原子力空母「ロナルド・レーガン」に乗り込み、洋上で4日間にわたる録音を行う機会を与えられたそうです。


甲板上で戦闘機の離発艦の様子を録音。


洋上ということもあり、万全の装備で録音にのぞむ音響チームの面々。


時にはブームに取り付けたマイクを船体から突きだし、航行中に発生する水しぶきの音なども録音されていました。


肩にかけたバッグにはプロ用のデジタルレコーダーが収められていました。


作品中には戦車が登場するシーンが収められているのですが、これももちろん実際の車両を使って録音が行われています。


車両に見立てたスクラップを踏みつぶしながら進む戦車の音を録音。合成では作り出せない100%リアルな音を録音できていた様子です。


この経緯についてアーダール氏は「軍との協力関係があって素晴らしい作業を行うことができた。彼らは非常に協力的で、この手のサウンドを録るにはまさに申し分ない環境を与えてくれたんだ」と恵まれた録音環境について語っています。

軍用車両は実際の音を録音することができますが、仮想の生き物であるゴジラやムートーの音は自分たちで作り出す必要があります。そのため、さまざまなアイデアと手法が考え出されて実践に移されました。


大きなバルーンをゆっくりこする「ぎゅぎゅ、ぎゅぎゅ」という音を録音して……


波形編集ソフトを使って再生速度を極端に遅くします。


ある時には、ドラムセットに張られた皮の部分をスニーカーで「ぎぎぎ」とこすったり……


今度は指でこすってみたり。


スタジオに置いてあったのか、アイロン台の足が「きしむ」音すらも素材に使われていた様子。このような手法は「フォーリーサウンド」と呼ばれ、現在でも音響の現場で広く使われている手法です。


木製のハンガースタンドがたてる「ぎぎっ、ぎぎっ」と音も録音。


録音の際には、日本のマイクロフォンメーカー「SANKEN(三研)」が開発した特殊なマイク「CO-100K」が用いられていました。


CO-100Kは人間の可聴域より5倍以上も高い100kHzという超高音を集音できるマイク。録音した音を極低速で再生するためには、素材の段階で非常に高い音をきちんと録音しておく必要があるのです。


プラスチックナイフをゴムタイヤにこすりつけて音を収録。


その音を素材に波形編集を行うと……


ムートーが動き回る際の音がうまれた、というわけです。


スクールバスに乗った子どもたちが悲鳴を上げるシーンでは、実際のスクールバスを使って録音が行われました。


真っ暗の車内に、怪獣のかぶり物をしたニセゴジラが登場して子どもたちを威嚇!逆になんだか面白そうな気もしますが……


しかし、そのおかげなのか、子どもたちは迫真の演技でパニックシーンを再現。このような音が作品で使われています。


こちらはゴジラの鳴き声を収録しているとみられる光景。


ここでもスニーカーが登場していたようです。


このようにして収録して編集された音には、仕上げの「Worldizing(ワールダイジング)」という作業が行われます。


注意深く積み上げられる音響用スピーカー。これは、現実世界のセットの中でゴジラの声を大音量で再生し、空気が震える様子をもう一度マイクで録音しなおすという作業です。この作業を経ることで、スタジオで作られた音が実際の世界になじむものとして再現(ワールダイズ)されるというわけです。


音響マンがキーボードを押すと、あのゴジラの鳴き声が再生!


うなりを上げる巨大スピーカーシステム。ここで使用されているのは、Electro-Voice製のコンサート用スピーカーシステム「X-Line Compact」でしょうか。


しかし本当は、スピーカーの上に置かれた小さなゴジラ君が鳴き声をあげているのかも。


このようにして出された音は、人間の耳を再現した録音装置で再び収録されてリアルさが加えられます。このセッションでは、1マイル(約1.6km)も離れた場所にまで音が届いていたそうです。


ゴジラ映画で重要なのは、ゴジラの姿はもちろんのこと、その「鳴き声」であることはゴジラファンの間では常識とされています。その鳴き声の作り方は門外不出とされ、その本当の方法を知るものは極めて限られているのですが、どうやら2名はその秘密にアクセスできていた模様。


インタビューではその方法を尋ねられた2人ですが、エドワーズ監督から「秘密は墓場まで持って行け」と言われていることを理由に解説を拒否。やはりその泣き声の秘密は語られないまま、ムービーは終了したのでした。


さまざまな手法や取り組みが解説されるムービーは全編約45分という長編。全て英語の作品ではありますが、登場する数々のシーンや音を聴いているだけでも楽しめそうな作品になっていました。

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in 動画,   映画,   デザイン,   アート, Posted by darkhorse_log

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