サイエンス

サイコパスなのに非犯罪的であり、それどころか社会的に成功するケースもあることが判明

By Truthout.org

サイコパスとは精神病質という反社会的人格を持った人のことで、日本の法律「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」の第5条では「精神障害者」として定義されています。サイコパスは時折、異常犯罪者と結び付けられることがありますが、心理学や精神病理学の分野では社会に適合し、ある程度の成功を収めたサイコパスの存在が論争を呼んでいます。

On the trail of the elusive successful psychopath | The Psychologist
https://thepsychologist.bps.org.uk/volume-27/edition-7/trail-elusive-successful-psychopath

サイコパスというのは心理学の側面からみても非常に曖昧なもので、シリアルキラーと同系列で語られることがありますが、精神科医のハーヴェイ・クレックレー氏の著書「The Mask of Sanity」では、うわべだけの魅力・不正直・ナルシスト・感情の欠落・後悔の念を持たない・信頼性の欠如・先見性をもたないといったものがサイコパスの特徴として定義されています。クレックレー氏はサイコパスを病気とみなす一方で、社会的な適応特性を持つとも述べており、その例として挙げているのが1人のビジネスマンです。

By Spyros Papaspyropoulos

クレックレー氏が出会ったあるビジネスマンは人間関係を円滑に進めたり、危険を顧みずに仕事を進めたり、仕事で成功を収める上で必要不可欠な能力を備えていました。しかしながら、ビジネスマンの裏の顔は異常なまでに不倫を繰り返し、極度のお酒好きというもの。クレックレー氏は、サイコパスが必ずしも犯罪的であるとは限らず、非犯罪的、あるいは社会的に成功したサイコパスが存在することを世に知らしめたのです。

クックレー氏が「成功したサイコパス」の存在を明らかにしたものの、その後は猟奇事件を引き起こしたサイコパスに焦点を当てた研究が中心に行われ、「成功したサイコパス」に関する研究は長い間片隅へ追いやられていました。「成功したサイコパス」が再び注目を集めたのは、後にハーバード大学で心理学の教授になったキャシー・ウィドム氏が1977年に、1つの実験を行ったときです。

By Bob G

ウィドム氏は、日本で言う新聞の文通コーナーを介して、サイコパスの特徴を満たした人々に接触を試み、さまざまな調査を敢行。調査の結果、ウィドム氏が新聞で出会った人たちの約65%はサイコパスの基準を満たしたことが判明します。ウィドム氏がサイコパスと断定した人の中に犯罪歴を持つ人は皆無で、銀行員や証券会社員といった社会的地位を確立している人もいました。

ウィドム氏の調査結果から、恐れ知らずといったサイコパスの特徴を英雄や偉人的な行動と結び付ける仮説をたてる研究者が現われます。行動遺伝学者のデビッド・ライケン氏がその1人で、偉人とサイコパスが同じような遺伝子をもつ可能性があるという仮説をたてました。ライケン氏の仮説に当てはまるのがユタ州で億万長者として名をはせているジェレミー・ジョンソン氏です。

By Joaquin Villaverde

ジョンソン氏は2010年に発生したハイチ地震では、所有するヘリコプターを自身で運転し危険なエリアから多数の児童を避難させたり、ヘリコプターで救援物資を届けたり、レスキュー活動に精を出しました。自然災害が発生した際に著名人が募金をすることは知られていますが、自らヘリコプターを運転してレスキュー活動をすることは普通の感覚ではなかなかないことです。

また、レスキュー活動という人助けの裏で、ジョンソン氏はマネーロンダリングや詐欺など86件もの刑事告発を抱えており、ヒーローと悪人の両方の顔を併せ持っています。ただし、ジョンソン氏がサイコパスである根拠は一切ありません。ただ単にウィドム氏の仮説に偶然にも当てはまっただけです。英雄的な行動とサイコパスを関連づけるには、より系統的な研究が必要になってきます。

英雄的な行動とサイコパスを関連づける調査は2013年に行われました。調査は伝説を残すような英雄的行動ではなく、ケンカの仲裁に入ったり、ガス欠で困っているバイカーを助けたり、日常のちょっとした英雄的行動を起こす人にサイコパスの特徴がないかをアンケートを使って調べるというもの。さらにアンケートでふるいをかけられた人たちに、自身の利他的行動が慈善に向けられていたのか、見知らぬ人に向けられていたのか、利他的行動の対象が何だったのかも併せて調査しました。

By The U.S. Army

調査結果では、サイコパスの特性の1つである「恐怖を感じない」という性質が「英雄的行為が慈善ではなく他人に向けられた利他的行動」であると分析された人に共通していることが判明。この調査結果や他の実験などから導き出されたデータを用いて、121人の伝記作家や心理学の専門家が、第43代までの歴代アメリカ合衆国大統領にサイコパス的特性がなかったか分析した結果、英雄的行動で確認された恐怖を感じない特性と、歴代大統領が持っていたリーダーシップ・コミュニケーション能力・公を説得できる能力・危険を冒す意欲に強い関係性が見られたそうです。

この他にも、サイコパスの特性とさまざまな分野で成功を収めた人物を分析する調査が行われましたが、根本にある「成功したサイコパスと犯罪行為を犯したサイコパスの違い」「成功したサイコパスの定義や基準」「成功したサイコパスが犯罪行為に走る危険性」といった疑問に対する明確な基準や答えは導き出されておらず、識者の間では大きな論争を呼んでおり、まだまだ多くの調査や実験が必要です。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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