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なぜコーヒーにはカフェインが含まれているのか?

By ruben alexander

眠気を覚ましたい時や、「ここぞ」という大事な時にはコーヒーやエナジードリンクを飲んでカフェインを補給するという人が多いことからもわかるように、カフェインには人間の精神状態に対して一定の効果があることがわかっています。それではなぜコーヒーにはカフェインが含まれているのか、コーヒーのゲノム(全遺伝情報)の解析を進めてきた国際研究チームの研究がこれを明らかにし、興味深い進化の過程と我々に与えている影響が明らかになってきました。

How Caffeine Evolved to Help Plants Survive and Help People Wake Up - NYTimes.com
http://www.nytimes.com/2014/09/04/science/how-caffeine-evolved-to-help-plants-survive-and-help-people-wake-up.html

The coffee genome provides insight into the convergent evolution of caffeine biosynthesis
https://www.science.org/doi/abs/10.1126/science.1255274

全世界では1秒間あたり2万6000杯相当のコーヒーが消費されていて、その中に含まれるカフェインは世界で最も多く摂取される精神活性物質であるといわれています。コーヒーのもとになるコーヒー豆は、アフリカ大陸を原産とするコーヒーノキに実る果実から作られているのですが、その果実に含まれているカフェインには興奮作用がある一方で、実は身体的・精神的な依存症を引き起こす中毒性があることが知られています。

ただし、中毒性があるとはいえカフェインは植物の進化の過程で植物が身に付けてきた「生きるための知恵」の一つ。その仕組みや働きをロブスタコーヒーノキの遺伝子を解析することで明らかにした、国際研究チームによる報告書が発表されています。

By Kevin Nellies

カフェインはコーヒーノキのなかに含まれる酵素のはたらきによって生成されるのですが、その酵素はあらゆる植物に含まれて多くの種類の合成物を生成するはたらきを持っているメチルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素の一群に含まれているものとのこと。そしてこの酵素から生成される物質にはさまざまな効能が備わっており、その植物にとって天敵となる存在を攻撃する毒性のようなものを持っていることもあれば、柳の木から発見された鎮痛剤の一種であるアセチルサリチル酸のもとになるサリチル酸のような物質であることもあります。なお、アセチルサリチル酸はバイエル社の商標であるアスピリンとしても知られています。

By emdot

カフェインの進化は、N-メチルトランスフェラーゼの遺伝子に変異が起こって酵素の働きが変化したことがもとで始まり、それ以後も変異とコピーを繰り返すことで進化が進みました。カフェインはお茶やカカオなど他の植物でも生成されることがわかっていたのですが、詳細なゲノム解析が行なわれたところ、コーヒーノキが持っている酵素は他の植物とは異なる先祖を持つ酵素群であることが明らかになりました。これは、同じ空を飛ぶ生き物であっても、指の骨が一つに融合して羽が生えることで飛べるようになった鳥の仲間と、指の骨は残ったまま長く伸び、その間が皮膚の膜で覆われたほ乳類の一種であるコウモリはまったく別の起源を持つことと同じと例えられています。

また、独自の進化を遂げている要因については、上記のような変質による進化はもちろんのこと、生息する環境に対して都合のよい性質を備える適応によるものも多いと考えられています。

コーヒーノキの葉が枯れて地面に落ちると、その内部に含まれていたカフェインの成分が周囲の土壌に浸透。すると、溶け出したカフェインの成分は他の植物が落とした種子の発芽を抑制し、結果的にコーヒーノキ以外の植物は生息できない環境を作り出します。

By Dennis Tang

また、体の小さな虫にとってカフェインは大量に摂取すると毒性を発揮するはたらきがあるため、自然とコーヒーノキを食べない味覚を持つ虫の個体のみが環境に適応して生き残り、結果としてやはりコーヒーノキが生息するのに適した環境を作り上げることに成功しています。

このように、他者に対する攻撃性を備えるカフェインを自ら生成することで防御能力を身に付けたコーヒーノキですが、さらに興味深いことに、コーヒーノキをはじめとするいくつかの植物は、分泌する蜜に少量のカフェインを混ぜることで、さらなる生きるすべを手に入れることにも成功しています。

By U.S. Fish and Wildlife Service Southeast Region

植物は蜜を分泌することで他の生物をおびき寄せ、花粉拡散の手助けとして利用しているのですが、その蜜にカフェインがわずかに含まれていると、蜜を吸った虫はある種の刺激を受けて脳が植物のニオイを覚える反応を見せるとのこと。すると次からは虫がおびき寄せられるようになり、せっせと花粉を運んでコーヒーノキの勢力拡大を手伝ってくれるという結果を導くことになります。

この結果について研究チームのJulie A. Mustard博士は「一つの小さな分子であるカフェインに、マイナス面とプラス面の両方の性質が備わっているという面白い事実です」と語っています。また、われわれヒトに対しても同様のことが言え、カフェインは大量に摂取すると体に害を及ぼし、少量であれば脳の働きを活性化させるというのは興味深いところといえます。

このように、コーヒーノキはカフェインを手に入れたことで多くのメリットを得てきたわけなのですが、そのすべてはMustard博士が語る「私たち人間は、コーヒーノキによって操られているのです」という言葉に集約されているといえそうです。

By United Nations Photo

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in メモ,   サイエンス,   , Posted by darkhorse_log

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