メモ

患者にカルテを見せることで医師との両者にもたらされたメリットとは?

By Sean Lamb

病院や診療所で診察を受けるとき、医師は患者から症状を聞きながらカルテにメモをとるのが通例です。通常、医師と患者がカルテを一緒に見るということはなかなかありませんが、1人のアメリカ人医師が患者とカルテを共有したところ、予期していなかった利点が生まれました。

When Patients Read What Their Doctors Write : Shots - Health News : NPR
http://www.npr.org/blogs/health/2014/08/14/340351393/when-patients-read-what-their-doctors-write

ジョージ・ワシントン大学緊急医療センターのLeana Wen医師は、ある日患者に問診を行いながらいつもと同じようにキーボードを打ちながらメモとっていました。すると患者が「何を書いているか、見せてもらってもいいですか?」と聞いてきたのです。Wen医師にとって「何を書いてあるか見せて欲しい」と聞かれたことは初めてのことだったので一瞬戸惑ったものの、「カルテを見せてはいけない理由はないはず」と思い、患者にPCのディスプレイを見せながら、書かれていることを説明しました。

By Alex Proimos

Wen医師が説明していると、患者は「痛みを感じ始めたのは先週ではなく、3週間前からです」とカルテに書かれている間違いを指摘。また、カルテには過去の診療記録として「アルコール乱用」と記載されていたのですが、それを見た患者はストレスにより数カ月前に過剰飲酒を再開していたことをWen医師に明かしました。

カルテを見せながら問診を行うことで、患者の病状がアルコールの過剰摂取による膵臓(すいぞう)炎ではないかという疑いが強まり、早期に検査を行った結果、その後の治療の役に立ったとのこと。Wen医師は学生時代、カルテが複数の医療機関で共有してコミュニケーションをスムーズにするための道具である、と教えられていたため、患者と共有することでメリットがあるなど考えたこともありませんでした。

1966年にHealth Insurance Portability and Accountability Act(HIPAA:医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)が制定される前、アメリカでは患者がカルテを閲覧できるのは患者が医療機関に対して訴訟を起こした場合のみだったそうです。HIPAAは患者にカルテを閲覧する権利を与える条項が含まれている法律で、制定により患者は以前より簡単にカルテを閲覧できるようになりましたが、それでもなお、カルテを閲覧するには手間のかかる手続きを経る必要がありました。

By Alex Proimos

ところが、2010年に内科医のTom Delbanco医師と看護師であり研究員でもあるJan Walker氏の2人が「OpenNotes」という、医師が患者とカルテを共有する実験をスタート。その時に立てられた仮説はカルテを患者と共有することで、患者と連動した治療を行うことができるというもの。

両者が始めた実験に対して、「患者がカルテを間違えて理解してしまう」「患者が訴訟を起こしやすくなる」といったことを恐れた他の医師から大きな反対を受けましたが、実験後には参加した患者の約80%が病状について深く理解でき、健康管理に関する意識が高まったと回答し、約66%が指示通りに処方箋を服用したという結果が得られました。そして、99%の患者が今後も医師とカルテを共有したいと希望したのです。実験に参加した医師の中には「カルテを患者に読んでもらうことで、以前より強固な信頼関係を築けた」という意見も聞かれました。

By andyde

OpenNotesは実験にとどまらず、アメリカ中の病院や診療所に広まり、2014年には財団法人から資金援助を受けるほど大きな運動を起こすことになります。ただし、OpenNotesに反対の姿勢を見せ続ける医師たちがいるのも事実です。精神科医や心療内科医といった医師は、患者にカルテの全てを見せるべきか、ためらっているとのこと。また、患者がカルテを複製したり、カルテの情報をSNSで公開したりする可能性を危惧する声も聞かれます。

では、日本で患者がカルテを閲覧できるかというと、カルテは個人情報として、個人情報の保護に関する法律の第一節「個人情報取扱事業者の義務」の第25条で、下記のように定められています。

第二十五条 個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示(当該本人が識別される保有個人データが存在しないときにその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。
一 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三 他の法令に違反することとなる場合

また、平成17年4月に施行された個人情報保護法の定めにより、医療機関は個人情報取扱事業者に位置づけられています。

医の倫理の基礎知識|医師のみなさまへ|医師のみなさまへ|公益社団法人日本医師会
http://www.med.or.jp/doctor/member/kiso/d1.html

つまり、個人情報取扱事業者として認められている医師は、上記の3つの項目に当てはまらない限りにおいて、患者から求められた場合にはカルテを開示しなければならない義務があります。実際に日本でも多くの病院が患者にカルテを開示しており、患者が診療中にカルテを見せて欲しいとお願いしても何の問題もない、というわけです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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