ソフトウェアを15年間販売してきてわかった効果的な価格設定方法
By sharpstick's photos
ブラウザにインストールすればウェブページから広告を消すことができるソフトウェアが「Ad Muncher」です。このソフトウェアの開発者であり、多くのスタートアップ企業にも関わってきたMurray Hurpsさんが、15年間Ad Muncherを販売してきた経験から得た知識を公開しています。
Shareware Insight: Pricing — MurrayHurps.com
http://www.murrayhurps.com/blog/ad-muncher-pricing
Ad Muncherのリリース初期、これは15ドル(約1500円)の無制限ライセンスプロダクトでした。リリース当初にAd Muncherをゲットしたユーザーに対し、現在に至るまで継続してアップデートを提供しているそうです。
◆通貨問題
Ad Muncherリリース当時、Murrayさんはオーストラリア在住だったので、販売で得たお金をアメリカドルからオーストラリアドルに両替する必要がありました。まったく同じ価格で同じサービスを販売したとしても、アメリカドルの価値が数ポイント落ちると、販売数は半分くらいにまで落ちてしまったとのことで、通貨レートの変動が売上に大きな影響をもたらしていたとのこと。なので、一時はオーストラリアドルでのみAd Muncherを販売していたそうです。
By Emilian Robert Vicol
しかし、オーストラリアドルでのみAd Muncherを販売した際には著しく販売数が減ったそうで、すぐにアメリカドルでの販売に戻す必要があったとのこと。なので、「アメリカドルのレートが変化する度、大きく販売数に影響を受けることになってしまった」とMurrayさんは語っています。
◆価格を選定
Ad Muncherは数年にわたっていろんな価格をテストしてきました。そんな価格設定の際に試したことの中で、一番良かったアプローチは「ターゲットになる消費者に対して包括的な価格調査を行うこと」だと言います。
Murrayさんが、既存のユーザー600人程度に対して価格に対する4つの質問をしたところ、以下のグラフが完成しました。グラフの横軸は価格、縦軸は支持率を表しており、「公平な金額(青)」「支払い可能な最高金額(緑)」「高すぎると感じる金額(赤)」「追加機能に対して払える金額(ピンク)」という各質問がグラフ中の折れ線の回答とリンクしています。
このグラフからMurrayさんはAd Muncherのターゲット層を決めたわけですが、彼が目をつけたのは「支払い可能な最高金額」を表す緑線の赤丸部分。これの中で最も支持率の高かった19ドルの価格帯と、支持率が一気に下降していく手前の29ドルに着目し、この2つのいずれかをAd Muncherの新しい価格にしようと決めたそうです。
Murrayさんはどちらの価格にしようか迷った挙げ句、どちらかを選ぶのではなく両方の価格を両立させるためにプレミアムプランとベーシックプランの2つを用意することにしました。
ベーシックプランとプレミアムプランの差は、ほとんど頻繁なアップデートと優先サポートがあるかないかの違いだったそうですが、「プランが2つあるなら高い方を払っても良いかな」とユーザーに思わせることにつながり、たったこれだけの変更で一夜にしてAd Muncherの収入は40%も増加、さらにその後の売上でもそれまでの成績よりも素晴らしい結果をあげることにつながったとのこと。
なお、2012年度のプレミアムプラン加入者とベーシックプラン加入者の割合を見てみれば、2段階プランを設けたことで客単価が上昇したであろうことがよく分かります。
さらに、無制限ライセンスは2000年の段階では約20ドル(約2000円)で販売されていましたが、2010年には70ドル(約7100円)にまで上昇させることに成功しています。
また、Murrayさんは国ごとに異なる価格帯特性を持っていたことも明かしています。以下のグラフたちは各市場ごとに行った価格調査の結果を表したグラフですが、グラフの形は市場全体の調査を行ったときのものとはまるで異なります。
アメリカ
オーストラリア
カナダ
中国
ヨーロッパ
イングランド
ロシア
◆決済システム
初め、Ad Muncherはシェアウェア産業に特化したサードパーティ製の決済システムを使用していました。しかし、残念ながらサービスが終了してしまったそうで、それ以降は自分たちで決済処理用のプラットフォームを開発したそうです。自分たちで決済システムを保有することのアドバンテージは、即座に資金にアクセス可能になるという面と、ユーザーの購入体験をよりコントロールできる点だとMurrayさんは言います。
そしてマイナスの面は、「多くの不正行為を自分たちで処理しなければならなくなること」とのこと。以下のグラフは2007年に自社製の決済サービスに切り替え、2011年にPayPalの決済システムを使用するようになるまでの不正行為の数を表すグラフ。横軸が年度、縦軸が1年に処理した不正行為の数(K=1000)を表しています。
ここで言う「不正行為」というのは、支払拒否などのことです。例えば、ユーザーがソフトウェアを購入したにも関わらず銀行に引き落とし残高を残していない場合、支払い拒否により発生する約20オーストラリアドル(約1900円)の銀行手数料はAd Muncherが支払わなければならず、これに非常に困らされたとのこと。
また、Ad Muncherが独自に開発した不正検出コードは、支払い関連サービスを専門で取り扱う企業のものには遠く及ばなかったりと、自社で決済システムをまかなうメリットがなくなっていき結局最後はPayPalを使うことになり全てが解決した、とMurrayさんは語ります。
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